第31話 荒療治
「それが今回か」
「はい。どういう状況下になろうと、レオナール殿下が死ぬことはないと解っていました。それに、彼の傍に残った騎士のアンドレ、彼も異能者ですからね。アンドレ自身は上手く誤魔化せていると思っていたようですが、我々の目を欺くことは出来ません。結果、上手く立ち回ってくれていますよ」
「ははあ」
これは凄いことを聞かされているなと、ジョゼフは驚きの声を上げてしまう。そして、とんでもないことに気づいてしまった。
「ハッブルの中には、異能や能力者を有する者がたくさん活躍していたわけか」
王宮神官、彼らはみな異能力を使うことが出来るのだ。ジョゼフの確認に、パウロは笑顔で頷いた。
「当然でしょう。それだけ、国王が受け継ぐ力は大きいのです。他国に知られた場合の対策としての役割も、我ら神官が担っております」
「なるほど。それで今回、荒療治が必要という結論に至ったのか」
大きな力を持つからこそ、それだけの責任を負わなければならない。その徹底がなければ、過去のように異能力を用いた大戦を招いてしまう。
「ええ。レオナール殿下の高潔な精神は素晴らしいですが、あのままではどんな暴走を引き起こすか解りません。それに、殿下はまだ気づかれていませんが、彼の身に備わった能力は今までのどの国王よりも桁違いです。それだけに、苦難が必要だったのです」
「英雄であるべき、というわけか」
「ああ。話が早くて助かります。そう、平和な時代にはいてはいけない人なのですよ。彼の能力は逆境にこそ必要なものであり、平和な時代にはその身を滅ぼすことしかない力です。つまり、一度転落して這い上がるしかないわけです」
パウロはそのための手順が今回の廃嫡だと言い切った。
「怖い男だな。もしもシャルルに異能があったら、そのままレオナールを殺すつもりだったか」
しかし、ジョゼフはその言葉の裏も汲み取って苦笑する。
「それはもちろん。その点に関しては、シャルル様にも異能があればすんなり終わったと申し上げるしかありません。レオナール殿下は幸運も持っているということですね」
過ぎた力は身を滅ぼす。その前に対策を打つのもまた自分の仕事。パウロは仕事をこなすだけだ。
「なるほどな。協力は惜しまん。好きなようにやるがよい」
覚悟の強さを読み取り、ジョゼフはそう許可を出すしかないのだった。
自分の顔を知っている人はいないとはいえ、やはり自分の話題で持ちきりの場所にいるのは辛かった。
「さっさと湖に戻ろう」
だから、俺がそう言い出した時、誰も反対はしなかった。ビザード二日目だが、町中の活気を俺は楽しめなくなっている。
「そうね。あまり長居をするのは得策ではないもの。でも、まだ買い物が終わっていないから、もう少し待って」
マリナがごめんねと謝りながら、シュリを連れて近くの商店へと消えていく。
「はあ。女子は色々と買うものが多いんだな」
俺はそれを見届けてから、むぎゅっと深く帽子を被る。吟遊詩人っぽい帽子でちょっと嫌だが、顔がしっかり隠れるので丁度いい。
「まあ、マリナとシュリの作る薬は人気だからな。それを卸しておくってのも目的の一つだろう。今後の旅を考えると、金貨も持っておいて損はないからな」
シモンはもう少しの我慢だと俺の肩を叩くと、用事が終わるまでの間は酒場でのんびりしていようと誘った。
「いいね。あそこのおっさんの料理、美味しいし」
「ははっ、レオは食べることばっかだね」
すぐに食べ物の話をする俺にアンドレは呆れてくれるが、やっぱりこの生活での一番の楽しみは食事だ。そのどれもが王宮では食べたことがないものばかりとなると、ついつい食べ過ぎてしまう。
「あそこのハム、絶品だよ」
「そう言えば、王宮の食事と庶民の食事ってそんなに違うもんなんだ」
アンドレは何にでも驚いているし、美味しいって言うよねと俺にますます呆れている。
「かなり違うね。王宮の料理は基本が薄味なんだよ。しかも食事って時間を掛けて食べるもので、少量が載った皿が何度も出てくるわけ。一回にどかって出てくることはないし、揚げ物なんてほぼないよ」
見た目は綺麗だけどねと、俺は肩を竦めて小声で説明する。さすがに王宮の話題を大声で喋るのは憚られた。
「薄味なんだ」
「そう。毒物を警戒してだと思う。薄味だと余計なものが添加されていたら、すぐにバレるから」
「ああ。そうだよね。食事の場って暗殺に最適だもん」
「いや、最適とか言うな」
確かにそうなんだろうけど、今まで平和だったのにさと俺は唇を尖らせる。
そう言えば、今は王宮はバタバタだろうから、そういう危険も増えているのだろうか。俺はそんな懸念が過ぎったものの、自分を追い出し、さらには戦争の責任を押しつけようとしている奴らなんて心配してやるだけ無駄かと、気持ちを切り替えていた。




