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第26話 どじょう料理

 不穏な気配があちこちで広がりつつあるなどと知らない俺は、三日後無事に湖に到着していた。

「おおっ、結構大きいんだな」

 自らが継ぐはずだった国とはいえ、やはり南側にはあまり来たことがないので、湖を見るのも初めてだった。俺は広いなあと感動しきりだ。

「山からの湧き水がここに溜まって湖になっているのよ。でも、大雨なんか降るとここに土砂が流れてきちゃうのか、あまり水は綺麗じゃないのよね」

 マリナは湖の畔に座り込むと、水の中を覗き込む。俺も釣られて覗き込むが、何だか濁っていた。

「本当だ。湧き水なら、普通は綺麗だと思うんだけどなあ」

 不思議なもんだと俺は首を捻る。しかし、顔を近づけても臭いはないから、水が腐っているわけではなさそう。やはり土砂が多く入り込んでいる影響だろうか。

「これ、飲める?」

「飲めるには飲めるけど、濾過しないとね」

「だよね」

 さすがにこのまま飲んだら腹痛を起こすかと、俺は手だけ洗ってその場を離れた。

「本当は湖の近くにテントを張りたいけど、誰がやって来るか解らないからな。テントは木々の間に張るぞ」

 シモンがこの辺でいいだろうと、湖から少し離れた場所を指し示す。見通しが悪く、テントも一つ一つ離れた場所に張る必要があるが、危険は少なそうだ。

「そうだな。万が一戦闘になったら湖側に逃げればいいし」

 俺が辺りをきょろきょろ見回しながら言うと

「いや、雑木林に逃げた方がいいよ。目立つ」

 アンドレからノンノンと注意を受けてしまった。

「ああ、そうか」

 ついつい剣で戦うことだけを考えているから、開けた空間がいいと思ってしまうが、個人対集団の戦いになる可能性が高いのだ。下手に広いところに出ると数で負かされてしまう。

「そうそう。王子様は飲み込みが早いね」

「お前はいい加減、王子様って呼ぶのを止めろよ」

「無理」

「なっ」

 アンドレが憎たらしく笑ってくれる。俺はぷるぷるとこぶしを振るわせたが

「下手にバラバラになるより、二人で一つのテントくらいでいいかもな。ということで、レオはアンドレと同じテントな」

 と、シモンが最悪なことを言ってくれる。

「なんで?」

「いいじゃねえか。俺はピーターと、後は女子三人だからあっちでひとかたまりだな」

「ぐっ」

「それに交代で見張りをする必要があるんだ。同じテントを使うったって、肩を並べて寝るわけじゃない」

「くう」

 嫌だとは言えない状況に俺は頭を抱えたが、これも仕方ないことだ。俺はアンドレを睨むと、その足を蹴っ飛ばすことで我慢するのだった。




 夜ご飯は湖に棲んでいたどじょうがメインとなった。泥臭いんじゃないかと思っていたが、こってりとした味付けで煮込まれているので、臭みは全く感じない。

「おおっ、どじょうがこんなにも美味いなんて」

「だろ? まあ、淡水魚だとどうしても味付けを濃くしなきゃいけないのが問題だが、不味くはないんだぜ」

 今日もメイン料理を作ったシモンが、えっへんと威張ってくれる。さすが、長年放浪しているだけのことはある。

「こうやって味付けすればよかったのか。私、いつも薬草をぶち込んで蒸し焼きにしてたわ」

 横でマリナがむむっと唸っている。しかし、マリナの作る薬草焼きも気になった。

「それは美味しいのか?」

 俺が訊くと

「ほぼ薬膳だぜ。これと比較すると不味い」

 マリナではなくピーターがそう答えた。食べたことがあるらしい。

「ああ、つまり香草の香りが強くなっちゃうんだ」

「そうそう。クレソンが好きならば作って貰えば」

「ううん」

 俺はどうしようとマリナを見る。すると、マリナは肩を竦めるだけだった。どうやら本人もそれほど納得している味ではないらしい。

「まあ、どじょう料理のバリエーションを増やす必要はねえよ。ここから一度、装備や調味料の買い足しを兼ねて、やはり街道沿いに一度寄りたいからな。そこからまた湖に戻ってきて、今度は西側に移動するって感じになるだろう」

 シモンはそれでいいかと俺を見る。俺はもちろん、その辺りは任せるしかないので頷いた。

「アンドレは?」

「異論なし。さすがに服も調達したいもんね」

 そのアンドレはキキとシュリを見る。二人はもちろんと大きく頷いていた。

「よし。明日からもっと警戒して動くことになるからな。しっかり食えよ」

 シモンの言葉に俺たちは

「おう!」

 と気合いを入れるのだった。


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