第24話 緊張感なし
と、そんな悪巧みがなされているなんて知らない俺は、今日もえっちらおっちら山の中を歩いていた。
「やっぱ下りの方が疲れるんだよなあ」
俺は足元を注意しつつ、背負っているリュックにバランスを取られないようにしつつ、慎重に進んで行く。
「それは慣れている俺たちだって一緒だよ。だから、絶対に転ぶなよ」
ピーターも、普段の使い慣れた道とは違い、大回りで進んでいるとあって、今回は余裕がないらしい。そう注意してくるが
「お前、それはもう転べって言ってるようなものだからな」
とツッコんでおくのは忘れない。
「湖まで無事に辿り着ければ、しばらくはゆっくり出来るよ。リスクはあるものの、一度街道沿いの宿場町に出ていいかもしれないな。休憩も必要だ」
シモンはそんな俺たちを見て、山を抜ければ余裕が出来るぞと励ましてくる。
「街道って、ミッドランド連邦国と繋がっているやつだな」
俺は頭の中でハッブル王国の地図を思い浮かべ、首都から真っ直ぐに南に向う街道を思い浮かべた。
「ああ。あの街道は商人の往来が多いから、余所者が紛れていてもバレにくいよ」
「なるほど。まあ、今の俺はボロボロだからな。バレないか」
俺は自分の服装を見つめ、ピーターのお下がりを着ているから大丈夫かと頷く。
「そうそう。その気品ある顔立ちにメイクでも施せばばっちりよ」
しかし、シュリがそんなことを言うので、危うく転ぶところだった。
「き、気品ある?」
「あら。自覚ないの? さすがにその顔は間近で見られると拙いと思うわ。特に商人は鼻が利くもの。お金を持ってそうって思われるわよ」
シュリはいたずらっ子のように笑いながら指摘してくる。
「そうか?」
俺は平凡だと思うけどと顔を撫でる。
「大丈夫よ。遊ばれているだけ。どうせ泊まるとしても最安値の宿だし、そんなところにいる奴を相手にするほど、商人もそこまで暇じゃないわ」
マリナは本気にしなくて大丈夫よと言うが
「だが、用心するのは当然だよね。どこに知っている人がいるか解らないもん。それが、その辺の農村に寄るのとは違うところだよ」
と、意外にもアンドレが用心しろと言って来た。
「ああ、そうね。それはそうか」
「はいはい。街道沿いに行くのは余裕がある場合に切り替えるよ。まったく」
色々と心配ならば寄らないぞと、シモンが苦笑する。しかし、それに不満を唱えるのはピーターだ。
「屋根のあるところで寝たいぞ~」
「はっ、普段は屋根なんて要らねえって言ってるだろうが」
しかし、それはあっさりとシモンに躱される。
普段、どんな会話をしているんだよ。
俺は呆れたものの
「まあ、柔軟にやっていこうよ。あちこち隠れながら海沿いに行くとなると、かなり遠回りをしなきゃいけないだろうし」
と、追われているはずなのにそう取りなすことになる。
「そうよ。どうせ街道まで一週間は確実にキャンプなんだし」
それに協力してくれるのはキキだ。しかし、キキは木の上をぴょんぴょんと移動して、先に敵がいないかを確認しているため姿は見えない。
「そういうことだ。ほら、ピーターは余裕があるんだったら今日の晩飯を確保しながら歩け」
シモンにそう言われ、ピーターは渋々と歩きながら木の実を拾うのだった。
山道はその後も順調に進み、俺たちは一週間ぶりに斜面ではない真っ直ぐな道の上にいた。目的の湖までは雑木林の中を抜けて行くことになる。
「へえ、国の南側ってこんな感じだったんだな」
山ほどではないものの、適度に木々が生い茂る道に、俺はここもいいなあと思わず腕を伸す。
「この辺だと木樵や職人も出入りしているから、人の手も入っている。山の中とは違って少し秩序があるからな」
気持ちいいのには理由があるんだよと、シモンが得意顔で教えてくれた。本業が大工とあって、木樵たちと知り合いのようだ。
「その分、面白さは減るけどね」
マリナは山の中がいいわと、俺やシモンとは逆の意見だ。やはりこの修道女様はよく解らない。
「それよりも今日のキャンプ地を決めましょ。人通りがあるんだったら、今までとは違う見張り方をしないといけないし」
で、キキは兵士を警戒するべきだと主張する。おおっ、今日に限ってはキキが一番大人だ。
「そうだな。人通りがあるってことは、兵士たちも動きやすいってことだもん。ああ、でも、ハンモックで寝たいよね」
それに同意したアンドレだが、平地だとハンモックが張りやすくていいよねと、そんなことをぼやいている。緊張感があるのかないのか解らない奴だ。
「あれこれ考えるだけ無駄だって。それより晩飯だよ。この辺じゃあイノシシは無理だよなあ」
そして食べ盛りのピーターは飯の話だ。
うん、このメンバー、本当に自由気ままだよな。
「食材かあ。この辺だと小鳥が多いくらいかな」
で、俺もキャンプの飯に嵌まっているので、何が食べられるんだろうと周囲を見てしまう。
「小鳥も美味しいわよ。羽をむしるのが手間だけど、ぱりっと焼けてジューシーなんだから」
それに答えてくれたのはシュリだ。そして捕まえろとその目が訴えている。
「こ、小鳥かあ。あれ、どうやって捕まえるんだ」
弓矢では無理だろうと俺が思っていると
「手っ取り早いのは罠を張るものだな。あとは、キキ」
シモンがキキに声を掛けると
「オッケー」
キキが素早く木の上を動くのが見えた。と、すぐに地面にとんっと降りて来て
「はい」
と、両手に小鳥を捕まえていた。
「すげえ。その身体能力が異能なのか」
どんだけ早く動けるんだよと、俺はびっくりしてしまう。
「まあね。でも、この方法は疲れるのよね」
「だろうね」
キキは皆の分は無理だわと溜め息を吐くので、俺も無理しなくていいよと苦笑する。
「それに、小鳥が多いんだったら、鳩はいるでしょ。あとウサギもいるって」
俺は鳩かウサギを狙うからと、弓矢の準備をしておく。
「おうおう。みんな食欲旺盛だな。じゃあ、俺は鹿が出るのを待ち構えますかねえ」
シモンも本当に緊張感がねえなと、そう言って笑うのだった。




