第21話 騒がしくなる周囲
「何? レオナール殿下を確保しに行った部隊が全滅しただと?」
「はっ」
同じ頃。ドロイヤ王国では俺の確保が失敗したと大騒ぎになっていた。ただでさえ掠め取ってハッブルを脅してやろうと思っていたのに、これは予定外の出来事だ。
「一体誰が?」
「解りません」
「ミッドランドでしょうか」
「可能性はあるな」
大臣たちはこの失敗をどう捉えるべきかと、あれこれ議論を始める。よもや俺が倒したとは思っていない。
「もしくはハッブルが手を打ったかですね。奴らは一刻も早くレオナール殿下を殺そうとしている模様。ところが、騎士が一人守りに付いているため、なかなか殺せずにいるとのことです。殺すならば騎士もろとも殺さなければなりませんからね。その醜態を気づかれそうになり、うちに八つ当たりした可能性もあります」
騎士団長のドナルドが、まあまあとその場を宥めるように言う。
「ほう、騎士。そいつは強いのか」
「さあ。話によると下っ端だということですが、殿下の山での生活を助けているのは確かでしょう。逃げ足は速いようですので」
未だ捕まえて殺す事が出来ないのは助けている騎士のせいと見ているドナルドの意見に、なるほどと大臣たちは頷く。
「とはいえ、全員が殺されたのは困ったものです。しかし、ハッブル側の様子を大手を振って確認することが出来ます」
ドナルドはこれを利用しましょうと提案。
「どうするのだ?」
それまで黙って議論を聞いていたリチャード国王が訊ねると
「うちの兵士がハッブル領土で殺されたのは事実ですからね。調査させろと言えば、向こうは断れません」
ドナルドはにやりと笑ったのだった。
さて、俺が順調に山登り二日目を行っている頃、ハッブル王国はにわかに騒がしくなっていた。
まずはローラ。彼女は母のジュリア=オーロランド公爵夫人からの手紙に戸惑っていた。
「まあ、どうしましょう」
思わずそう口に出して呟くと、寝たきりになっている国王のピエールが目を開けた。
「どうした?」
「あなた、まだ無理しては」
「大丈夫だ。それより、周囲に誰もいないかだけ確認してくれるか」
「わ、解りました」
ローラは頷くと、手紙を持ったまま立ち上がるとドアを開けて周囲を確認する。午前中はどの大臣も忙しく、宰相もそれに伴って忙しいので誰もいない。
「大丈夫です」
「ドアに鍵を掛けなさい」
「はい」
ローラはしっかりと鍵を掛けてからピエールの寝るベッドの横へと戻った。
「それで、義母上はなんと仰られているのだ?」
「はい。それが、兄弟間であった政変について、詳しく教えるように、と」
「ああ」
ついに周辺諸国に知られることになったかと、ピエールは深く溜め息を吐く。
落馬事故によって下半身が不自由になってしまったピエールは、一時は死の淵を彷徨ったほどだ。その影響でなかなかリハビリが出来ず、こうしてベッドで寝たままの日々を過ごしている。おかげで、宰相の企みを止めることが出来なかった。
あの男が何か企んでいることには気づいていたというのに、情けない。
「どうしましょう。というより、私は何がどうなっているのか。レオはまだ生きているという情報は、神官長のパウロから聞いているんですけど」
ローラはおろおろとしてしまう。普段はおっとりとしている彼女も、急速に変わっていく状況に疲れてしまっているのだ。
「生きているか。やはりあの子は異能を持っているのだな。私のように」
それに、ピエールはふむと頷く。自分も落馬事故を経験してこうやって生き残っているように、ハッブル王国の王族に伝わる能力の一つに身体強化があるのだ。レオナールがどれだけ過酷な環境になっても生きているのは、その能力が発揮されていることを示している。
ただし、この能力の問題点もある。それはピエールの現状のように、楽に死ねないかもしれないということだ。もちろん、身体強化はあらゆる面で役立つ。しかし、普通だったら死ぬような怪我からも助かってしまう。その場合が大変なのだ。
「あの子は今、どういう状態なのか。逃げているということは、五体満足なのであろうが」
この先、自分が特殊だと気づいて大丈夫だろうか。その時に傍にいてやれないなんて、大丈夫だろうか。レオナールに関しても不安がある。しかし、今はそれよりも政治だ。
「総て包み隠さずに、異能のことも含めてお知らせしなさい。そして、力を貸してほしいと素直に助力を請うのだ」
オーロランド公国との戦いだけは絶対に避けなければならない。周囲に今の状況が知られているということは、必ずドロイヤ王国が動き出す。
「すぐに認めます」
「ああ。何とか公爵と密かに面会したいものだ」
「はい。手紙は秘密のルートで送りましょう」
「頼んだぞ」
こうして、表舞台から退いていた国王が動き出していた。




