第20話 生活の知恵
「王宮に近づかない限りは心配しなくていいってことだな」
「そうだね。後は、領主様にバレなければ大丈夫だよ」
「ああ。貴族か。それはそうだな」
俺とアンドレの会話に
「そもそも領主を避けるのは俺たちも同じだからな。安心しろ」
とシモンが親指を立てる。
彼らは国家に属さないから、うろうろしているのがバレると面倒になる。ということで、領主を避けるということだ。
「じゃあ、全員似たようなものってことで」
「そうだ。よし、行くぞ」
俺とシモンが頷き合ったところで、全員が荷物を背負ったのだった。
「この間までいた山と、ちょっと違う感じがするなあ」
さて、その問題の山の中だが、ハッブル王国の領土内だからか、また山の雰囲気が変わった気がする。
「ハッブルは割と一年の気温が涼しくて安定しているからよ。昨日までいたドロイヤ側だと冬は雪が積もって大変だけど、こっちだとそれは少ないの」
これに関して教えてくれたのはシュリだ。マリナとともによく薬草を採取しているとあって、植生に詳しい。
「なるほどね。確かに王宮でもあまり雪って見ないな」
「でしょ。でも、これが北側のリビト帝国の奥側だったら、雪なんてメートル単位で積もって、しかもそこら中が凍って大変よ」
「うわあ。じゃあ、北側に逃げるのはなしだな」
「そうね。凍死したくなければ」
そんな会話を出来るほど、意外と急斜面も苦にならない俺だ。
「いやあ、山の中ってサイコー」
しかもそんなことまで思ってしまう余裕もあった。
兵士に襲われそうになったり、政治の道具にされそうになるという危機が去ったわけではないが、キャンプ生活が性に合っている気がする。
あれこれと周囲の木々や山の中の雰囲気を堪能していると、あっという間に今日の目的地に辿り着いた。
ぱっと見では解らないが、周囲と違ってキャンプをしやすいように広く空間が出来ている。誰かが手を加えて木や雑草を取り除いたからだ。それと同時に、ここがすぐに見つからないように、周辺に低木を多く植えるなどして、工夫もされている。
「今日はここでいいな」
「はあい」
シモンの確認に元気よく返事を返すのはキキだ。昨日はあまり寝ていないはずなのに元気いっぱいだった。
「キキは疲れているだろ? 休んでいれば?」
俺は思わずそう確認すると
「大丈夫よ。徹夜は慣れているし、それに今日の夜はぐっすり寝かせてもらう予定だから」
キキはぐっと親指を立てる。
うむ、やっぱり逞しい。
「それより食料よ。レオ、あなたのハンティング能力が試される時だ。夕暮れまでに肉を確保!」
キキは心配してくれるなら肉を寄越せと要求してくる。
「肉、か。って夕暮れまであと二時間くらいじゃないか?」
森の中は薄暗いので、あまり日が傾くと危険でうろうろと出来ない。俺は大丈夫かと周囲を確認する。
「無理するな。肉なら干し肉があるからな。それに、明日は歩きながら、獲物を見つけたら獲るって感じにしよう。レオも山道に慣れてきたみたいだし、それで大丈夫だろう」
シモンが困惑する俺を見て、そう妥協案を提案してくれる。
「ううん。そうね。ともかくテントを張らなきゃ」
「そうそう。水も今日は節約だぞ」
「井戸があるのって、もうちょっと先だったかしら」
水の注意が出たところで、マリナが補給できる場所の確認をしてくる。
「そうだな。ここはヨッド地点だから、明日の昼には補給可能だ」
「オッケー」
「ヨッド?」
聞き慣れない言葉に俺が首を傾げていると
「ここに目立たなくマークがあるだろ」
と、シモンが近くの木に彫られたマークを指差した。小さく頭の部分が左に折れたマークがあって、これの意味がヨッドであるらしい。
「へえ。こういうのを使って、村のみんなは逃げる先を決めていたってことか」
「そうそう。ヨッド集合って言われても、他の奴らは解らないからな。便利だろ」
「ほうほう」
色んな知恵を使って生き残っているんだなと、これからますます逃げなきゃいけない俺は感心しきりだ。
「手を休めないでテントを張れよ。薪は拾いに行かなきゃいけないんだからな」
と、そんなことをしていると、ピーターが俺に向って文句を言ってくる。相変わらず、俺のことを年上だと思っていない言い分だ。
「解ってるよ」
しかし、薪拾いに行かなければならないのは事実なので、俺は慌ててテントの組み立てに入るのだった。




