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令和最新シンデレラ ~ガチャ限姫巫女への成り上がり~

作者: 白星こすみ

「ちょっとシンデレラ、こっちへ来なさい! 私が出かけている間、何をしていたの?」


 バーバラ叔母さんが帰ってくるなり、大声で私を呼びつけた。


「叔母さま、お帰りなさい。叔母さまが出かけられてからは、洗濯と掃除をしてました」

「洗濯と掃除ですって? 洗濯物、見てきたけど全然汚れが落ちてないわよ」


 叔母さんはそう言って干してあった洗濯物をテーブルに投げ捨てた。昨日の夜、叔母さんが遊びに来ていったドレスだ。ワインをこぼしてできたシミがうっすら残っている。掃除が終わっていないとぶたれると思って後回しにして、とりあえず干しておいたのが運悪く見つかってしまった。


「あ、すみません……。そのシミはなかなか落ちなかったので、先に掃除をと思って……」

「言い訳なんて聞きたくないわ! それに、掃除だって。見なさい、ホコリがこんなに残ってる」


 叔母さんは棚の引き戸を開け、ミゾに挟まっているホコリをつまんで目を細める。


「す、すみません……」


 目立つところは先に済ませてあるけど、そういうときは決まって重箱の隅をつつくようなところを狙い撃ちしてくる。


「もうすぐお祭りがあるからって、たるんでるんだわ。あんたは姫巫女の選考会には参加できないのよ? わかってるの?」

「はい、わかっています」

「ったく、ほんとグズね。あんたは誰のおかげで生きていけてるか、言ってみなさい」

「バーバラ叔母さんのおかげです」

「よろしい。身寄りのないあんたを引き取ってやったんだから、ちゃんと働きなさい。終わるまで飯抜きだからね」


 引き取ってくれたのはバーバラ叔母さんだし、感謝はしてるけど、旦那さんが急病で亡くなってからはずっとこんな調子だ。私の立場上、逆らうことはできない。


「はい……」


 叔母さんは最近、私に何かと理由をつけてご飯を食べさせないのが気に入ってるらしい。この前まではよくぶたれていたけど、こっちの方がきつい……。





「早く結婚でもしてあの家を出たいなあ……」


 私はお腹をさすりながらつぶやく。


「シンデレラ、大丈夫? 今日もご飯食べられなかったの?」


 エリンが心配そうに私に尋ねた。


「うん……まる一日ご飯抜きは最長記録更新だね……」

「ひどい!あたしパン持ってきたから、これ食べて?」

「ありがと……エリンは優しいね……」


 半分にちぎられたパンを受け取った。エリンは私より三つも下でまだ十一才、一人ぼっちでかなり切り詰めた生活をしているはずなのに。


「シンデレラのためだもの。困ったときはいつでも頼ってよ」

「うん、わかった。でも次はきっと私が助けるから」

「何言ってるの。あたしが困ってたとき、もうシンデレラは助けてくれたじゃない」

「写し絵の仕事のこと? でもあれはエリン自身に力があったからでしょう? 私は何も……」

「あの時シンデレラがお師匠にかけ合ってくれてなかったら、あたしはダメだったと思う。それだけで返しきれないほどの恩があるの」

「私は叔母さんの撮影に付き添ったことがあって、たまたまお師匠さんと、アシスタントのヘンリーと顔見知りだっただけよ」

「それでもあたしは感謝してる。そうだ、今度のお祭りの前の日にね、シンデレラに渡したいものがあるの。楽しみにしてて」





「ヘンリー、おはよう」

「シンデレラ。おはよう、準備できてるよ」


 ヘンリーは受付の下から箱を差し出した。開いて中を確認すると、綺麗なドレスを着たバーバラ叔母さんの写し絵が入っている。私には見せたことのないような上品な笑顔だ。


「今回も素敵な写し絵ね。ありがとう」

「とんでもない。じゃあ、受け取りのサインを」


 サインを書いていると、ヘンリーは私に質問してきた。


「君は週末のお祭り、姫巫女の選考には参加しないのかい?」

「姫巫女の資格は十六才からでしょう? 私まだ十四よ? お祭りには参加したくてもできないわ」

「何を言ってるんだ? 十四才から参加できるはずだけど……」


 そう言ってチラシを見せてくれた。姫巫女は王子と婚姻関係を結ぶため、参加資格は十四才以上で未婚の女性ということらしい。


「あの人が知らないわけないし、まさかバーバラさんが嘘を?」

「そんな……。いえ、でもダメ。選考を受けるためには写し絵が必要でしょう? 撮影のためのお金もないわ。それに、ドレスだって持ってないもの」

「俺で良ければこっそり撮ってあげるよ。いや、じゃあこうしよう。俺の撮影練習にモデルとして協力してほしい。それならどうだ? まだ師匠ほどの腕はないけど、シンデレラなら被写体がいいから、きっといい写し絵になる」

「その営業トーク、叔母さんに言ってあげれば喜ぶのに。」

「悪いけど、俺は嘘が苦手なんだ。……シンデレラ、お祭りに参加するんだ。姫巫女になってくれ。君なら絶対に姫巫女になれる。俺が保証するよ」


 顔が熱くなるのを感じる。そんなこと真顔で言われると、ドキドキしてしまう。彼が私を求めてくれるなら、姫巫女でなくても構わないのに。そんなこと、言えるはずもない。


「恥ずかしいこと言わないでよ、バカ。……でも、ありがとう。そこまで言ってくれるなら、撮影お願いしようかな」


 その後、撮り終わって帰ろうとする私に、満足そうなヘンリーが言った。


「いい写し絵になったよ。これを渡すのはお祭りの当日にしよう。万が一バーバラさんに見つかっても困るだろうし。ドレスの方は貸衣装をレンタルできるよう師匠に相談してみるよ」





「シンデレラ。これ、プレゼント」


 祭りの前日の夜。そういってエリンは、私に真っ白なドレスを差し出した。


「え、これ……どうしたの?」

「シンデレラ、ドレス持ってないでしょう? だから、明日のお祭りはこれを着て参加して。私、シンデレラなら姫巫女になれると思うの」

「こんな高そうなドレス、受け取れないよ……エリンだって生活大変なのに」

「高そうなドレスって言った? ふふ、実はこれ、私の手作りなんだ」

「え、嘘! これエリンが作ったの? 一から?」

「そうよ。針仕事は得意なの。知ってるでしょう? 実は普段の生活はそこまで苦しくないの。このドレスを作るためにちょっと切り詰めてたのよ」

きっと嘘だ。それでも笑ってドレスを渡してくれる彼女に、私は泣きそうになりながら返事をする。

「私のために……」

「だから、自分の気持ちに正直になって。本当はお祭りに出てみたかったんでしょう?」

「うん……ありがとう。私、明日のお祭りに参加してみるよ」

「あなたの晴れ姿、見せてよね。約束よ? シンデレラ」






「シンデレラ、これは何?」


 お祭りの日の朝。夕べ、エリンにもらったドレスがバーバラ叔母さんに見つかってしまった。隠しておいたはずなのに。


「あ、それは……」

「あなたもお祭りに参加したかったの?」

「はい……」

「お祭りは十六才からだって言ったわよね?年齢をごまかして参加したりなんかしたら、私が罰せられるかもしれないじゃない」

「でも、お祭りは十四才から参加してもいいって聞いて……」

「口答えするんじゃない! あんた、あのエリンとかいうガキの言うことと私の言うことだったら、あの子の方を信じるわけ?」

「そ、そういうわけでは……」

「きっと写し絵も準備してるんでしょうね? 見てあげるわ、出しなさい」


ヘンリーの予想はばっちり当たっていた。この後の展開次第だが、あとで感謝を伝えないと。


「その、ここにはありません……」

「なるほど。そんな知恵が回るならドレスもそうしておけば良かったのに、しょせんはガキのすることね」

「あの……!」

「お祭りには私が参加するから、あんたは留守番してなさい」

「それは……」

「嫌だって言うの? ……そう。わかったわ」

「えっ?」

「どうしてもというなら行ってもいいわよ」

「本当ですか? あ、ありがとうございます!」


こんなにあっさり許しが出るのは意外だったが、私は嬉しくて舞い上がってしまった。


「ただ……このドレスはこのままだとあなたに似合わないわね。私がアレンジしてあげるわ!」

「え?何を――」


 バーバラ叔母さんは、あろうことかそのドレスを力いっぱい引き裂いた。


「やめてええええええええ!」

「お祭りには参加してもいいわよ、シンデレラ。そのドレスなら、きっとあなたに似合うわ。あはははははは!」

「あ、ああ……」


 ボロボロになったドレスは私に向かって捨てるように投げ出したあと、バーバラは去っていった。私は膝から崩れ落ち、破れたドレスを抱きしめて泣いた。





「シンデレラ、来たのね。ヘンリーは今日は……って、どうしたの? ドレスも着ないで……」

「エリン。うぅっ、せっかくのドレスが……ごめんなさい、ごめんなさい……」


 握り締めた腕を広げ、ドレスだったものエリンに見せる。


「これ、まさかバーバラさんが? ひどすぎる!」

「私、もうお祭りに行けなくなっちゃった……」

「何言ってるの? むしろドレスで良かったわ。シンデレラのきれいな顔を傷つけられるよりずっとマシよ」

「でも……」

「ちょっと待ってて。すぐ直すから。でもさすがにこのまま直すだけじゃ目立つわね……おしゃれに隠せるようにアレンジしないと」

「シンデレラ、エリン。二人ともまだおったんか?」


初老の男性が店に入ってきて二人に問いかける。


「お師匠! ちょうど良かった。お願いします! 貸衣装を一着、ゆずっていただけませんか? お金は働いて返します!」

「一体どうしたんだ?」


 私が事情を泣きながら話すと、お師匠さんはこころよく許してくれた。


「そいつは……かわいそうに。お得意さんだからあまり言いたくはないが、バーバラさんのあんたへの当たり方はちょっと強すぎるよな。わかった、好きなものを選びなさい。ほとんどはエリンが作ったものだしね。今日はお祭りの日だ。そんなめでたい日に泣いてる子がいちゃいかんよな」

「ありがとうございます! 待っててね、シンデレラ。すぐに前よりずっと良いもの作るから」


 エリンはものすごい手際でドレスを直していく。お師匠さんもエリンの手さばきを見て驚いているようだった。引き裂かれたドレスは、あっという間に純白に刺し色が映えるドレスへと生まれ変わった。

 それに、化粧と髪はお師匠さんがサービスだと言ってセットしてくれた。


「ありがとう、エリン。ありがとう、お師匠さん。私、もう泣きません。このドレスで、必ず姫巫女になってきます!」



 会場そばの掲示板にあった張り紙を見て、シンデレラはお祭り参加者が受ける選考の詳細を知った。


※ ※ ※ ※ ※


 選考のルール説明:


 一、予選 写し絵による選考。本人確認が済んだら写し絵を渡して、番号札を受け取る。そのまま奥へ進んで待合室へ。全員が席に着いて審査が終わると予選通過者の写し絵が番号順に張り出される。写し絵が張り出されなかった落選者が全員退室すると、本選開始。


 二、本選は観客による投票と、それが終われば最後に魔法の鏡による格付け。本選の様子は世界中へ放送されることになる。姫巫女選抜への参加者以外はここからがお祭りの本番。

 予選通過者には観客にアピールする視覚的な魅力と、魔法の鏡が写し出す内面の魅力の両方が必要になる。


※ ※ ※ ※ ※


「えー……アピールできるようなことなんて何も考えてないんだけど……どうしよう」


 私は受付の人に写し絵を渡し、待合室で自分をアピールする内容を必死で考えた。そうしているうちにいつの間にか予選は終わり、張り出された写し絵には私のものもあった。運よく通過していたようだ。周りを見てみると広い待合室には十人ほどを残すのみとなっていた。その中にはバーバラ叔母さんの姿もあった。



「さあ! 本選に進んだ姫巫女候補もこれが最後の一人となります! 今回最年少となる十四才、エントリーNo.10、シンデレラ!」


 実況の掛け声に合わせて私はステージを進み、盛り上がる観客の前に立った。アピールって特技を披露するのかと思ったらそういう時間は設けられてないみたい。写し絵ではわからない歩き方とか表情とかしぐさとか、動いた時のそういう細かいところを見られるというだけのことだった。心配してソンした。

 ――なんて思っていたのだけど、今まで舞台に立ったことなんかないので意外とそういうふるまいが難しいことに気付く。せめて前に歩いた人の真似をしてみるけど、何度も躓いて転びそうになったので観客から不安の声が聞こえてきそうだ。逆に他の姫巫女候補たちからは哀れみとか、そんな視線を感じる。


「素敵なドレスの彼女が転ばないか心配だったのは私だけでしょうか? そんな庇護欲を掻き立てられてしまう魅力を持つシンデレラ、彼女のアピールが終わり、候補者全員が出揃いました! これより皆さんによる投票が行われます! 上位二名だけが魔法の鏡に触れる権利を獲得できます! どうか、あなたの推しに清き一票を!」



 投票待ちのとき、会場の裏で見知った参加者の一人に話しかけられた。


「わざわざ出しゃばって参加したくせに、あんな無様な姿をさらすなんて。恥ずかしくないのかしら、シンデレラ?」

「バーバラ叔母さん……」

「ま、いいわ。私はいま機嫌がいいの。正直ほかの参加者も大したことなかったから、今回の姫巫女の座はもらったようなものだしね」


 確かにバーバラ叔母さんは他の参加者と比べても上手だった。本性を知ってる私でさえそう思ったのだから、観客の多くはきっとあの笑顔に騙される。


「バーバラ叔母さんは確かに素敵でした。でも私、結果が出るまでは諦めません……!」

「あらそう? ま、あの短時間でドレスをそこまでリメイクして参加した根性は認めるわ。それだけに、それが無駄な努力に終わって打ちのめされるあなたを見るのが今から楽しみだわ。うふふ……」


「さあ皆さん! お待ちかね、集計の結果が出ました! これから発表します!」

「一位通過は、エントリーNo.2、バーバラです! おめでとう!」

「まあ、私が一位ですか?ふふっ、嬉しいです。ありがとうございます」

「圧倒的人気で一位を獲得したバーバラ、彼女に続く二位の発表です!」

「二位はエントリーNo.10、シンデレラです! 彼女に決まりました!」

「えっ、私? 嘘でしょう?」

「ステージでは完璧だったバーバラとは対照的に危なっかしい印象のシンデレラですが、結果的にはそのおかげで一位のバーバラと票を取り合わなかったことが二位にランクインした理由なのかもしれません。他の方は残念ですが、敗退となります。勝ち残ったお二人は鏡の準備ができるまでそのままお待ちください。」


「まさかあなたが残るとはね。実況の男が言うように少し票を稼ぎすぎたかしら」

「運が良かっただけかもしれませんが、ここまで来たら私も負けられません」

「最後は精神の強さが試されるみたいね? あなた、準備はできてるの?」

「精神力なら私も自信があります」

「そうよね。それだけでここまで来るくらいだものね。ねえ、せっかくだから一つだけ教えてあげる。……あなたのご両親、私が殺させたの」

「はい? いきなり何を……」

「あなたのお母さんが、私の好きな人を奪っていったのが許せなくてね? 強盗に見せかけて殺したのよ」

「そんな、嘘です……」


 突然の告白に、理解が追い付かない。私は親を殺した人に今日までこき使われていたというの?しかも、拾われたことを感謝までして。


「お二方、鏡の準備が出来ました。ステージにお戻りください」

「もちろん信じなくて構わないわ。でも、鏡の前に立つまでに気持ちの整理がつくといいわね?」

 

にやりと笑う叔母さんはあの写し絵とは別人の笑みをしていた。



「さあ! 舞台の準備が整いました。世界中の人々が見守る中、魔法の鏡は二人の何を写すのか? 注目です」


 舞台の私はぼう然と、さっきの叔母さんの言葉をリピートしていた。


「まずは大人の魅力で圧倒的一位を獲得しました、バーバラさん。鏡の前までお進みください!」


 バーバラはにこやかに観客へ手を振りながら前へ出る。鏡に掛けられた布が取り払われ、彼女は鏡と向かい合った。


「鏡よ鏡、この世で一番美しい、私の心を写しなさい」


 バーバラがそう唱えると、鏡は光を放って今の彼女の姿とは別のものを”映し”出した。


※ ※ ※ ※ ※


『このドレスはこのままだとあなたに似合わないわね。私がアレンジしてあげるわ!』

『え?何を――』

『やめてええええええええ!』

『お祭りには参加してもいいわよ、シンデレラ。そのドレスなら、きっとあなたに似合うわ。あはははははは!』


※ ※ ※ ※ ※


 その鏡には純白のドレスを引き裂いてシンデレラを見下し笑う、バーバラの姿が映し出された。


「こ、これは……」


 実況が言葉に詰まった。観客からも大きなどよめきが起こっている。


「ちょっと、何なの? これは!」


 バーバラが慌てて実況に詰めよる。


「さ、さあ? 魔法の鏡は写した人の心を見せると聞いておりますので、バーバラさんの心象を映しているのだと思いますが……」


 実況の男はバーバラに掴まれ、苦しそうに答えた。


「今のは何かの間違い、そうよね? もう一度やってみます」

「は、はあ……」


 バーバラは有無を言わさず再び鏡の前に立つと、目を閉じ、深呼吸をしてから再び鏡に問いかけた。


「鏡よ鏡、今度はちゃんと、私の心の強さを写すのです」


 再び鏡は輝いて、先ほどとは別の光景を映し出した。


※ ※ ※ ※ ※


『よくやったわ、お前たち。これで遺産は私のもの。シンデレラは私の元へ来るでしょう。』

『へえ、お嬢。しかしまあ、よくもこんなこと思いつきましたね。何か因縁でもあったんですかい?』

『あの女があの人を私から奪ったのよ! 私がずっと狙ってたのに、後からきて横取りするなんてあり得ないわ! 殺されても文句は言えないわよね? それに、あの女の面影があるシンデレラ、あれを私の元でボロボロになるまで召使いとして使い倒してあげるんだから。』

『このために憎い相手と仲良くして何年も我慢するなんて、とんでもないタフさですね。俺らも見習わせてもらいやす』


※ ※ ※ ※ ※


「こ、これは、確かにバーバラさんの心の強さではあるようですが……」


 実況が精一杯のフォローをする。観客からは、人でなし、詐欺師、などの罵声が多くなっていた。


「嘘、嘘よ! 壊れてるわ、この鏡!」

「あ、そうでした! 連続で写したので一度目は表示されませんでしたが、本来はこの後、写った人物のランクが表示されるはずです!」

「それが表示されたら、壊れてないと言いたいの?」


 観客からは見えない角度、鬼のような形相でバーバラが実況を睨んで尋ねた。


「え、ええ。それでも疑うなら別の方にも写ってもらって、確かめてみましょう……さあ! ランクの表示は?」


 真っ黒の鏡に白で写し出されたのは、UCの二文字。


「UC? ……これは……アンコモンです! 五十人に一人の人材ということだそうですが……」


 実況がおそるおそるバーバラを見やる。先ほどまで騒いでいた彼女だったが、今は冷静そうに見える。だが、近くにいる人には彼女が相当な怒りに震えているのが伝わった。


「そう。じゃあこれ、壊れてるわね。別の人を写してみなさい」


 先ほどまでとは逆に、バーバラは実況に冷たく言い放った。


「えー、では、色々ありましたが、シンデレラさん? 鏡の前にどうぞ!」

「あ、はい」


 バーバラ叔母さんの言葉がまだ引っかかっている。それに、私の番にもあんなものが映ったらと思うと足が震える。立ちすくんでいると、そばにいた黒子の人からそっと声をかけられた。


「大丈夫だよ、シンデレラ」


 聞きなれたヘンリーの低い声。振り返っても顔は見えなかったが、その一言だけで私はすごく安心できた。なるようになれ。意を決して鏡の前に歩いていく。


「鏡よ鏡、私の心を写して下さい」


※ ※ ※ ※ ※


『お願いします、雇ってあげてくれませんか? 見てください。この服はこの子、エリンが作ったんですよ。』

『確かにいい腕だが、そうは言ってもウチは写し絵の仕事だし、服飾の人材を雇う余裕が……』

『こんなにできるのに、八才で孤児だからってだけで服飾関係のお店は全部断られて、他に当てがないんです。そうだ、空き時間は私もお手伝いします、だからどうか……』

『お願いします!』

『雇ってあげてもいいんじゃないですか?』

『ヘンリー、お前……』

『彼女の服で、写し絵に使う貸衣装のレンタルを始めましょう。他の店との差別化も出来ますし、いいと思いますよ』

『それは俺も考えた。だがな、軌道に乗るまでの資金繰りはどうすんだ』

『んー……じゃあ俺が投資してくれる人を探しますよ。その間の店番とかはそちらの……』

『私、シンデレラです』

『シンデレラさんに店番をお願いして。それならいいでしょう? もしうまくいかなかったら俺の給料から引いてください』

『……そこまで言うなら、わかったよ』


※ ※ ※ ※ ※


 これは私がエリンをお師匠さんに紹介したときの出来事、過去に起こった事実だ。その後、ヘンリーはあっさり投資家を見つけてきてエリンは正式に雇われることになる。彼女の作った貸衣装のクオリティの高さも口コミで広がってお師匠さんの店は評判を呼び、順調に売り上げを伸ばしているらしい。


「これはとても美しい友情だ! どうやら、鏡は壊れていなかったようです!」


 そうするとさっきのバーバラ叔母さんの話も全て本当だったことになる。


「さあ、鏡はシンデレラさんにどんな評価を下すのか?」


 暗くなった鏡からは、虹色に輝くURの二文字が浮かんできた。


「UR?……アン……いえ、ウルトラレアです! これは、前回の姫巫女の記録であるSSRを越える、百年に一人の逸材です!」


 わっ、と物凄い歓声が上がった。


「さあ、改めて最終投票を行います! バーバラか、シンデレラか! 姫巫女にふさわしいのはどちらでしょうか!」


 集計は待ち時間もなくあっという間に終わった。私は今日、この国の姫巫女に選ばれたのだ。


「それでは、さっそく姫巫女の任命式を行います! それでは、ここからは現在の国政を取り仕切っているヘンリー氏と交代しますので、よろしくお願いします!」


 ヘンリーは先ほどの黒子の姿ではなく、タキシードに着替えて舞台に現れた。だが、まだバーバラ叔母さんは納得していないようだ。


「ちょっと待ちなさいよ! そんな小娘よりも私の方が美しいでしょう! 最初の投票では一位だったじゃない! ふざけないで! こんな鏡……」


 バーバラ叔母さんは他にも何かわめいていたようだったが黒子の人たちに連れていかれた。


「鏡は正しい判断を下した。彼女の行いに関しては、近日中に改めて調査させてもらう」


ヘンリーは観客に向けたメッセージを投げかけた後、改めて私と向き合う。実況や他の黒子達も舞台から降りたらしい。ここには私とヘンリーの二人だけだ。


「ヘンリー? どういうこと?」

「おめでとう、シンデレラ。隠していてごめん。写し絵はこの国の運営に欠かせないから、あの店で修行させてもらってたんだ。それで君と出会って、エリンのために頼み込む君を見て。結婚するなら君と、と思って姫巫女を勧めたんだ。僕と結婚じゃあ、不満かな?」

「ううん。私も、実は姫巫女でなくてもあなたなら、と思っていて……」

「そう言ってくれて嬉しいよ。積もる話は後にしようか、シンデレラ。まずは……貴女をオラクルダム七代目の姫巫女に任命する! この国のさらなる繁栄のため、力を尽くしてほしい」

「姫巫女の任、謹んでお受けしますわ。ヘンリー様」


 宝石をちりばめたティアラをつけてもらい、姫巫女の就任式は無事完了した。

 そしてそのまま盛大な結婚式まで続けて行ったので、私はその日、城で案内された部屋に着くなりドレスのまま眠ってしまった。


 その後、姫巫女に就任し、ヘンリー王子と結婚した私はお城に引っ越すことになった。ヘンリーはお城からお師匠さんの店に通ってたらしいので、彼とは同居することになる。

 これまでの掃除や洗濯とは違い、姫巫女としての主な仕事は写し絵だった。エリンの新作ドレスを着て、お師匠とヘンリーに撮影してもらう。


 なんでも、姫巫女の写し絵は異世界の”ガチャ”というシステムに提供することで、ガチャで発生した資源の一部がマージンとしてこの国に還元される仕組みらしい。

 ここで大事なのが、写し絵の技術、衣装の出来、それに姫巫女のランクなのだとか。以前は姫巫女の任期を終えるまで結婚はしなかったそうなのだが、プライバシーの概念が導入されたので私が結婚していようがいまいが、写し絵さえ提供すれば問題ないそうだ。


 実感はないけど私が姫巫女になってからは、オラクルダムの収益は過去最高だと聞いた。そのせいもあるのか、エリンから街の様子を聞いた限りでは連日お祭り騒ぎだそうだ。私も参加したいと言ったら、ヘンリーと二人で行くようにエリンには勧められた。ちょっと恥ずかしいけど、勇気を出して誘ってみようかな。


 街に出るとなると少し心配だったのはバーバラ叔母さんのことだけど、風のうわさでは、鏡に映った出来事の事実関係が調査された結果、裏稼業の人との繋がりやいろんな悪いことが明るみに出て、この国から追放されたらしい。かわいそうな気もするけど、母を殺した相手だと考えれば当然の報いだとも思う。


 それに、もうあの人のことはどうでもいい。今はバーバラ叔母さんのところで働いていたときよりずっと幸せなのだから。



 異世界にて――


新たな限定キャラクターが登場!出現率UP!


 UR【令和最新】

 シンデレラ



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