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第4話



 部屋に帰り、食後の休みもそこそこにアルベールを呼ぶ。


「私、魔力の勉強がしたいの」

「魔力操作ですか? あと1年もしない内に学園で学べますが」

「待ってられないわ。マナーの時間を減らして、その時間を魔力の勉強に充てるのはどうかしら」

「どう、と言われましても私の一存では……」


 アルベールはほんの少し眉尻を下げて、眼鏡をぐいと押し上げた。


「やっぱりダメかしら」

「……いえ、私から旦那様に話を通しておきます」

「そう、ありがとう」


 今日話を通してもらえたら、来週くらいからには魔力操作の勉強が始められるだろうか。もしそうなったら、ついに私の型が判明することになる。

 魔力は基本的に火、水、土、風の4つの型に分けられる。型によってできることが違い、魔力を持つ貴族はそれぞれの特性を活かした職に就くことも多い。

 そしてこの4つに当てはまらない特別な魔力が、ヒロインの持つ「光」だ。

 ここでふと思い当たる。


「そういえばアルベール、あなたも一緒に魔力の判定を受ける? 1人くらい増えても大丈夫だと思うわ」

「私は既に受けていますので」

「えっ!? 」


 初耳だ。

 アルベールは私より2歳年上だが、ボディーガードを兼ねている専属の従者という役職上、私と同時に生徒として学園に入学することになっている。

 そのため、入学後に行われる魔力判定もまだだと思っていたのだが。


「ティファニー様のためでございますよ」

「私の? 」

「ええ。私はティファニー様をお守りする役目も申しつかっておりますので。既にある程度は操作できるようになっております」

「そうだったのね! 」

「幸運なことにまだ実戦の機会はありませんが」


 まったく知らなかった。アルベールが私の護衛のために魔力操作の練習をしていたなんて。従者と一言で言っても色々やらなければいけないことがあるのね。

 ……ということは!?


「ねえアルベール! 」

「……なんでしょう」

「あなたの魔力が見たいわ! 」

「……言うと思った……」

「何かおっしゃって? 」

「いいえ。ではバルコニー……ではなく、庭へ」


 特に何も準備する風でもなくドアへ向かったアルベールに続く。

 どこもかしこも手入れの行き届いた庭の片隅、古い噴水と生垣の間にぽっかりと空いた場所を見つけた。生垣を背に2人で並んで立つ。

 では基本的なものを少し、と今にも始めそうなアルベールにストップをかける。


「待って。そういえばあなたの魔力の型は何なの? 」

「私は土です。土の魔力は地面を動かすことができます」

「地面を? 本当に? 」

「はい。例えば、こんな感じに」


 そう言うとアルベールは一歩前に出て、おろしていた右手を顔の前へさっと振り上げた。

 その瞬間、土が波打つ。長いロープの端を持ってそれを振ったときのように、振動の山が手前から奥へとざっと移動する。山は噴水の壁に当たり、ばらりと砕けた。

 土の動きに呼応したように、ざあっと風が通り過ぎた。


「……すごいわね。新年の祝いで国王陛下が火魔力を使っているのは見たことがあるけど、こんなに近くで魔力を見たのは初めてかもしれないわ」

「そうでしたか。確かに、学生になる前は見る機会もあまり無いかもしれませんね」

「それにしてもすごいわ。あんなに綺麗な波になるなんて、あなたもしかして相当上手いんじゃない? 」

「とんでもない。私なぞまだまだです」

「あら、それはそれで護衛として心配だわ」


 押し黙るアルベールを他所に、ティファニーはドレスの裾を片手でまとめてしゃがんだ。空いているもう片方の手でさっきまで生き物のように動いていた土を触る。土などほとんど触ったことはないが、普通の土に戻ったようだった。

 好奇心が満たされると、さっと立ち上がる。


「と、言うわけでよろしくね。お父様なら良いって言ってくださると思うけど」

「承知致しました」


 自在に魔力を操る場面を想像して、ティファニーは胸が高鳴るのを感じた。



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