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第22話



 生徒数の割にやたらと広い食堂の片隅。窓際の2人がけの席をティファニーとアルベールは陣取った。

 沢山の生徒でざわつく食堂内の雰囲気は今世も前世もそれほど変わらなくて、ティファニーはその懐かしさに思わず頬を緩めた。もちろん、料理が席まで運ばれてくることや、その料理の質も前世とは大違いだが。

 正面に座るアルベールに違和感を覚えたティファニーは、数秒考えた後にはっと気が付いた。

 

「そういえば、あなたとこうやって同じテーブルで食事をするのって、もしかして初めてじゃない? 」

「そうかもしれませんね」

「しれませんねって……。そうだわ、アルベールあなた、今日からその敬語をやめてちょうだい」

「え?! 」


 ティファニーの唐突な要求に、アルベールはゲホゲホとむせた。


「そんなに驚くことかしら? 」

「驚きますよ! 一体なんで急にそんなこと……」

「だって、ここは学園よ? フォーマルな場ならともかく、私たちは今はただの学友なんだもの。敬語なんて可笑しいわ」

「そうかもしれませんが……」


 難問に突き当たったような顔をして黙ったアルベールを見て、ティファニーはもう1つの課題を思い出した。

 ヒロインが、庶民ではなかった。

 ゲームの中のヒロインは庶民出身である。しかし先ほどのイザベラの話によると、どうやら彼女は男爵という身分を持っているらしい。

 初めは耳を疑ったが、すぐにその話は真実だと思い直した。

 入学式でヒロインを見て感じた違和感。あれは、ヒロインの服装に対して感じていたのだ。

 今にして思えば、ヒロインの服装はとても庶民のものではない。もちろんティファニーのものとも比べ物にならないが、それでもあれだけの装飾や生地の良さは、間違いなく庶民のものではない。

 しかしその格好も、男爵家の令嬢だとすればなんら不思議ではない。

 それにしても、一体なぜだろうか。

 元々男爵家に生まれていたか、それとも……。


「庶民が爵位を授かることってあるのかしら? 」

「まあ、その、敬語は徐々に……え、なんですか急に? 」

「アルベール、何か知ってたりしない? 」

「……庶民が貴族になることは、稀ですがありますよ」


 行儀良くスープを一口飲むと、そうですねえ、とアルベールは考える素振りを見せた。


「私が聞いたことがあるのは、騎士団の下っ端の下っ端だった庶民が、戦いで大きな功績を挙げて男爵になった、という話ですね」

「そういうことがあるのね! 」

「ええ。何か大きな功績を挙げたり、あとは多額の上納金を納めたりなどすれば、なんでも貴族になれるとか」

「功績、上納金……」


 あるとすれば、その聖女パワーで何か功績を挙げて爵位を授かった、といった感じだろうか。

 と、ああ! とアルベールは納得したような表情をした。


「もしかして、グラント男爵令嬢のことですか? 」

「え、あなた彼女のこと何か知ってるの? 」

「まあ、多少の話は」

「彼女って、その……」


 元々は庶民だったの? と聞こうとして少しためらった。あまりにもただのゴシップ好きの話題なような気がして、口を噤む。

 しかし、なんて事ない顔でアルベールは続けた。


「ええ、元は庶民でしたよ」

「……! そうなのね」

「はい。ですが、ごく最近になって、爵位を賜ったようです」

「それって、やっぱり何か功績を挙げたとか……? 」

「私も直接本人から聞いた訳ではないので、詳しいことは存じませんが……」

「いいから、もったいぶらないで教えてちょうだいよ」


 いつになく強引なティファニーに目を開きつつ、アルベールはすんなりと口を開いた。


「どうやら、何かでひと財産を築かれたようですよ」



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