第21話
校舎は木造で出来ていた。ところどころ歴史を感じる傷跡があるが、それ以上に壁から床の隅に至るまでピカピカに磨かれているので、古めかしい感じはまったくしない。むしろ前世で通っていた、コンクリで固められた校舎の方がボロく感じるのは何故だろうか。
廊下を歩きながら、式典の前に配られた紙を開く。そこには簡単な校舎内の地図と、クラスの場所が示されていた。
「そういえば、私たちの学年にはいくつのクラスがあるのかしら? 」
「何を仰います。1つに決まっているではありませんか」
呆れた声を出したアルベールは、やれやれと言うようにメガネを押し上げた。
「我々の国はそれほど大きくありません。ましてやその中からこの学園に通える者ともなると、50人もいないのは当然です」
「……確かに。そういえばパーティーで見かける子たちって、いつも同じ人ばっかりだったわね」
煌びやかなリボンや髪飾りをあしらった少女たちを思い出す。言われてみれば、自分の周りにいるのはいつも同じメンバーだったような。
「ティファニー様! 」
語尾がきゅるんと上がった声に、後ろから呼び止められる。振り返ると、ちょうど今顔を思い浮かべていた子たちの何人かが揃ってこちらへ向かってきているところだった。
「ティファニー様、お久しぶりです! 」
「ご機嫌よう、ステファニー様、イザベル様、パトリシア様」
「半年振りですわね! これからは3年間もティファニー様とご一緒できるなんて、本当に光栄ですわ! 」
「あら、私もですわティファニー様! 」
暑い。彼女達の「光栄ですわパワー」に気圧される。ティファニーがなんとなくパーティーの類に積極的ではなかったのは、このやりすぎなくらいのご機嫌とりにどう対処していいか分からなかったからだ。
そして1年前までは分からなかったが、今なら分かる。彼女たちはおそらく、ゲームで出てきた"ティファニーの取り巻き"だ。つまり、ティファニーと同じ"悪役サイド"である。
……ということは?
ーーもしかして私がなにもしなくても、彼女たちがヒロインをいじめる、みたいな展開もあるのかしら?もしそうなったら、仮に関わっていなくとも私が矢面に立たされる可能性もあるかもしれない……。
ふと浮かんだ可能性に、急に心臓が嫌な音を立て始める。
しかしそんなティファニーをよそに、彼女たちは教室はあちらですわ! とティファニーを伴って歩きだす。
「そういえばティファニー、ご存知でいらっしゃいます? 今年は光の魔力を持つ子が入学しましたのよ! 」
ーー早速きた!!
思わず身構えるティファニー越しに、知ってますわ! と隣を歩く令嬢が答えた。
「なんでも100年振りだとか言って、先生方が大慌てで準備していたそうですよ」
「確かに教えるのも一苦労しそうですわね。そもそも光の魔力を扱える人間がいませんもの」
「ティファニー様はご存知でして? 」
「え! ええと、そうね、噂は。でも詳しくは知らないわ」
「私たちもお会いしたことはありませんの。お名前を何て言ったかしら……。イザベラ様、覚えていまして? 」
その場全員の視線が1人に集まる。
眩しい黄色のドレスを纏った彼女は、ええと、と人差し指を顎にあてた。
「確か、グラント男爵家の御息女、と言ったかしら」
グラント。ああ、そう言えばヒロインはそんな苗字だったかもしれない。
…………って男爵!?




