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第17話



 木々の枝葉を揺らす爽やかな風に似合わず、ティファニーたちは真剣な顔で古いウッドテーブルを取り囲んだ。


「……ティファニー、これはどういう結果なのかな」

「ええと、そうね……」


 3人の視線が集まる先には、3枚のタロット。

 不吉な結果に、ティファニーは思わずうなった。


ーーまたソードの7。


 盗みと裏切りのカード、ソードの7。つい何時間か前にこの家の経理担当を占ったときに見たばかりだ。

 「現在」「原因」「未来」の3枚のうち、「原因」にそのカードは現れた。

 ふむ、と3枚全体を通して見る。

 「仲良く過ごしていた2人だったが」「何らかの邪魔が入ったせいで」「突然の別れが訪れる」……といった流れだろうか。

 そして恐らくこのソードの7が表す人物は、先ほどのランスロット卿の占いで出た人と同一人物だろう。直感がそう告げる。しかしランスロット卿が意図的に家族に隠していたように思える以上、先ほどの占いのことは不用意に話すことはできない。

 一旦ソードの7が誰なのかは置いておき、このカードを現状に当てはめて考える。


ーーやっぱり、この馬の価値に目が眩んで何者かが盗もうとしているんだわ。朝に馬が興奮しているのはこのことが関係してきそうね。


 ということは、将来自分が盗まれることを察知して暴れている? ……いやいやまさか。

 変な思考の飛躍は良くない。


「ねえヴィクター、馬ってどういうときに興奮するのかしら? 」


 ティファニーの問いかけに、色々あるけど、と少し考える素振りを見せたヴィクターだったが、やっぱりこれかな、と顔を上げた。


「1番は驚いたときだな。驚きがそのまま興奮に変わってしまうことがあるんだ。特にブラスクは少し臆病なところがあるから、大きな音とかは苦手なんだ」


 ソードの7と、朝になると興奮している馬。1つの可能性が思い当たる。

 よし、とティファニーは立ち上がった。手早くカードをまとめる。

 突然タロットを切り上げたティファニーに、ヴィクターとアルベールは目を丸くした。


「ヴィクター、アルベール。今から馬小屋を隅々まで調べるわよ」




「ティファニーの言った通りだったな」


 3人が見つめる壁には、人が立ったまま通れるほどの大きな穴が空いていた。中には掃除道具の棚、外には干し草のブロックが積まれており、一見すると分からない。


「多分、ブラスクを盗むために誰かがこっそり開けたんだろう。盗まれる前に気が付けて本当に良かった」


 良かった、という言葉とは裏腹に、ヴィクターの表情は冷え切っている。

 ティファニーが占いから考えたのは、「ソードの7にあたる人物が、夜な夜な馬を盗む為に小屋に細工をしている」というストーリーだった。

 小屋の扉は毎日ヴィクターが鍵をかけているため、ここから馬を出すことはできない。となると、壁に穴を開ける他無いだろう。

 そして、壁に穴を開けるなんてことをすれば、馬は間違いなく驚いて取り乱すだろう。

 という推理だったのだが。

 壁の穴はヴィクターがギリギリ立ったまま通れるくらいの高さがあった。


「馬を盗むとなると、なるべく幼いうちの方がいい。間一髪だったかもな」

「そうかもしれないわね。穴の大きさから見ても、今のブラスクが通るのにぎりぎりだわ」


 振り返ると、ブラスクもこちらを見ていた。話によると、どうやらとても良い血統の子らしい。黒く輝く毛並みがそれをよく表しているように思えた。


「とにかく、このことはすぐに父に報告するよ。ティファニー、ありがとう」


 力強く握手をされる。その手は普段から剣の稽古に励んでいることがよく分かる、同い年にしてはごつごつとした手だった。

 その日の夕方。家に発つ前にティファニーはランスロット卿に呼ばれた。

 占いの後、ランスロット卿らはさっそく経理担当のルナール男爵らの調査をしたらしい。その結果、男爵兄弟に与えている部屋からは不自然な小切手が複数枚、そして馬用の目隠しと頑丈なロープが出てきたそうだ。

 やはり、とティファニーは無言で頷いた。そしてふと思う。


「ヴィクターにはこのことをおっしゃいませんの? 」


 このこと、つまり馬を盗もうとした犯人が本当は見当がついていることを。

 しかしランスロット卿は、少し困ったような顔をして首を振った。


「いやあ、あいつは図体はでかくなったが、そうは言ってもまだ幼いからな。あまりこういう大人の話は……」

「まあ!面白いことをおっしゃいますのね!」


 思わず大きな声が出た。びっくりした表情のランスロット卿に、そのまま続ける。


「ランスロット卿は8歳だった私に、これまでの女性遍歴を酔っ払って語って父に怒られてたではありませんか。でもそのときは「8歳はもう大人だ」って。覚えてらっしゃりません? 」

「いや、あれはだな……」


 昔の失態を掘り返されて、ランスロット卿は頭を掻いた。その姿はどこからどう見ても「子煩悩な親」である。例え、一国の騎士隊の隊長を務めていようとも。

 先程の驚きがすっと引いて、代わりに思わずふふっと笑みが溢れる。


「ランスロット様は案外過保護ですのね」


 筋骨隆々の戦士でも、かわいいところがあるのだ。

 ティファニーの優しい声に、ランスロット卿は苦虫を噛み潰した顔をした。



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