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第11話



「お父様!! 」


 ノックもせずに父の執務室の扉をバンッと開く。中にいた複数名の執事は一様に驚いた顔でこちらを振り返ったが、当の本人はおや、といった風に顔を上げただけだった。


「どうしたんだい、ティファニー。こんな時間に」

「へ、部屋にアルベールの偽物が!! 」

「偽物? 」


 一瞬考える素振りを見せた父は、ああ、と手を打った。


「彼は君の2人目の従者だ」

「ふ、ふたりめ!? 」

「そうだ。最近、ティファニーは魔力の勉強の為に、以前の倍以上の頻度で城へ通っているだろう? 」

「はい」

「君が2倍忙しくなると、従者は4倍忙しくなる。アルベール1人に任せるには、そろそろ仕事が多くなりすぎる頃だと思っていたんだ」


 ……そうだったのか。アルベールがそんなに忙しくなっていたなんて、気が付かなかった。


「今日仕事で会った親戚の子爵家に息子がいてね。社会勉強として1年間、ティファニーが入学するまで従者として働かないかと持ちかけたところ、合意に至った」

「今日!? 」

「そうだ。……アルベール、ティファニーに伝えておいてくれと頼んだはずだが? 」

「え? ……うわっ! 」


 父の言葉にぎょっとして後ろを振り向く。そこには完全に気配を消したアルベールが立っていた。


「申し訳ございません、旦那様。行き違いになってしまいました」

「そうだったのか。ま、そういう訳だティファニー。お前と合わなければ帰してもいいから、いつでも言ってくれ」

「……分かりました、お父様」


 一礼をして部屋を出る。執務室の重たい扉が閉まった音が、廊下に響いた。

 部屋までアルベールを従えて歩く。2人分の足音だけが聞こえる。どことなく空気が重たい。


「……別に、私が欲しいって言った訳じゃないわよ」


 沈黙に耐えきれず、ティファニーは口火を切った。口に出してから随分と言い訳がましい言葉だと気がついたが、アルベールははあ、と小さくため息をついただけだった。


「存じ上げております。経緯と詳細は先程旦那様から伺いましたから」


 事務的な言葉遣いからはしかし、抑えきれない感情が僅かに滲み出ている。

 当然だろう。アルベールからすれば、"お前1人では仕事が回らない"と宣告されたも同然だからだ。


「……でも、あなたの仕事ぶりがどうこうではなくて、お父様は本当にあなたのことを気遣ってもう1人雇おうと思ったんだと思うわ」

「それも承知しております。……ただ、そう気遣わせてしまったことが……」

「……悔しいわけねね」


 アルベールに代わって結論を出す。彼の無言はすなわち肯定だ。


「それで、実際のところあなた1人で仕事は大丈夫なの? 」

「それは勿論。ご心配には及びません」

「だったら彼は帰すわ」

「……は、」


 自分の後ろの足音が止まる。くるりと振り返ると、アルベールは僅かに驚いたような表情を浮かべていた。


「だってあなた、今後彼を見る度に、お父様に気遣わせてしまった自分を責めるでしょう? それってすごく精神衛生上悪いと思うわ。私だったらそんな職場で働くの絶対に嫌」

「……彼を雇うかは、私ではなくティファニー様のご都合でお決めください」

「あら、私だって元からそんなに乗り気ではないわ」

「なぜです? 複数人の従者を引き連れる御令嬢は少なくありませんよ」


 それくらい知っている。高位の貴族令嬢の中には見目麗しい従者を沢山置いて、所謂"ハーレム状態"を作っている者がいる。

 さらには自由に恋愛できない令嬢の為に、彼女と疑似恋愛をする従者もいるらしい。もちろん、これも仕事の一環だ。そういうこともあり、能力重視の第一従者とは違い、第二従者は見た目を重要視して選ぶこともあるらしい。


「先程の彼もなかなか美しい顔をしていましたし。金髪も輝くばかりでしたよ」


 そう言われて想像してみる。金髪の美青年と眼鏡の堅物を両サイドに従えている、吊り目金髪の公爵令嬢。腕を組んで高いヒールを履き、勝ち気な唇は三日月のように弧を描く。

 ……想像しなくても分かる。「悪役令嬢」ど真ん中である。絶対に避けたいスタイルだ。周りの印象というものは大切である。

 と言っても「悪役令嬢」などという意味不明な単語を出すわけにもいかず、「……ハーレムなんていらないわ」と反論するに留めた。


「別にハーレムを勧めている訳ではありません。ただ、他の御令嬢のように、甘い言葉を囁く従者が1人くらいいても悪くはないのではと申し上げているのです」

「……あなた、やけに食い下がるじゃない? 私に彼を雇ってほしいの、ほしくないの? 」

「私の意見など。ただ、ティファニー様の気がついていないであろう利点を申し上げたまででごさいます」


 妙にねちっこい。ティファニーは痺れを切らしてもう! と地団駄を踏んだ。


「別に甘い言葉なんていらないわ! そういうのは本当に好きな人に言ってもらうものよ!」


 言い切ってから、はっと口を閉じる。今のセリフ、あまりにも乙女チックではなかったか。

 やや驚いた顔のアルベールと目が合ったまま、じわじわと顔が熱を帯びていくのが分かる。


「……ティファニー様はあれですね、意外と……」

「いいから! とりあえず部屋へ戻るわよ! 」


 くるっと前に向き直って、ずんずんと歩く。赤い耳はきっと隠せていないだろう。後ろで笑っている気配がしたが、無視して部屋までたどり着いた。

 扉を開ける為に前に出たアルベールの背中に話しかける。


「さっきはああ言ってたけど、あなたも彼がどういう人物かちゃんと見るのよ。同僚になるかもしれない男なんだから」

「……畏まりました」


 言い終わると同時に扉が開く。

 部屋の中央には暗い瞳をした青年が、中央にぽつんと立っていた。




こんばんは!

本当はもう少し早い時間に投稿したいんですけど、書いて出しなのでどうしても遅くなってしまいます……

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