第1話
はじめまして、松原いづめと申します!
一大ジャンルの悪役転生モノに参加したくなり、今回書き始めることにしましたʕ•̫͡•ʔ
週1更新を目標にマイペースに連載していこうと思います!
お付き合いいただける方、よろしくお願いいたします☺︎
「ーーっ!」
突然目が覚めた。さっきまで起きていたかのようにぱっちりと瞼が開く。
目に飛び込んでくるのは、慣れ親しんだ真っ白なレースの天蓋が下がったベッドの天井。右手の大きな窓からは朝日が差し込んでいる。
いつも通りの静かな朝の風景。しかし、そんなのどかな空気の中で脳は高速で回転していた。
「ただの夢……、じゃ、ないわよね」
うん、間違いなく違う。
さっきまで見ていた夢ーーと言うには随分と長く感じたーー、そこで私はどうやら自分の前世を思い出した。
あらゆる物が便利に発達していて、こことは何もかもがまったく違う生活様式の国。私はそこで生きる、ごくありふれた学生だった。
部活をして、アルバイトをして、帰宅して、夜通し趣味のゲームをする。
そしてもう1つ思い出した、とても重要なこと。
それは、私が夢中になっていたゲームとこの世界が「同じ」だということ。
信じられない、ありえないと否定したがる心とは反対に、冷静に確信を持つ自分がいる。
だって、なにもかもゲームに出てきたままだ。聖クレール王国という国の名前、レンガ造りの家々が連なるの街並み、この国の王子たるレオン・マクシム・ヴァレリー、従者のアルベール・ガーランド、
そして私、ティファニー・ライザ・トラヴァーズ。
***
舞台は中世風のどこかの国。光魔法という特別な魔力を持つ庶民の主人公が、同じ学園に通う貴族のイケメンを次々と攻略しつつ、時たま現れる敵と魔法で戦う恋愛シミュレーションゲーム、それが『光の少女が祈る時』だ。
周囲の男を見境なく攻略するなど現実だったらまず反感を買うが、そこはまあ、ゲームだし。
もちろん、すんなり攻略できるという訳ではない。攻略したいキャラが望む選択肢を選ばなくてはならないし、ライバル的立ち位置にいる金持ち令嬢の虐めにも耐えなくてはならない。
その金持ち令嬢が「私」だ。
ベッドから降りて、全身鏡の前に立つ。
人1人を丸々映してもまだ余裕のある鏡には、朝日を受けて輝く金髪に澄みきったライトブルーの瞳の少女が立っていた。
「間違いない……」
ゲームでの記憶より僅かに幼いが、間違いなく「ティファニー・ライザ・トラヴァーズ」だ。昨日まで毎日見ていたはずの自分の顔なのに、不思議と懐かしく感じる。
ティファニーは、ヒロインの攻略対象の1人であるこの国の第一王子の婚約者だ。
細かいところまでは思い出せないが、とにかくヒロインを虐めて虐めて虐め倒す典型的な「悪役」である。
そして最終的には彼女に卑怯な行為を働いていたことが明るみになり、学園からの除籍と婚約破棄を言い渡されるのだ。しかも同時に、この国の貴族における"命"とも言える魔法の力を失って。
ゲーム画面越しに見た「ティファニー」の最後を思い出し、ぶるっと震える。
でも、今の自分がヒロインを虐めるとは到底思えない。結末を知っているというのもあるが、誰かを虐めるなんて想像もつかない。
ーーヒロインと会ってみたら、また違う感情が湧いてくるのかしら。
取り敢えず、少なくとも今の自分なら大丈夫だと思える。
それよりも問題なのは、
「魔力……」
魔力の喪失。
ティファニーがなぜ魔力を消失したのかは、ゲーム内では説明がなかったはずだ……確か。
衛兵に連行されそうになった瞬間、最後の足掻きとして魔力を使おうとしたら発動しなかった、みたいな描写、だったような。記憶がぼやけてよく思い出せない。
あれはヒロインを虐めた天罰的な何かだろうか。それならばヒロインを虐めなければ魔力は失われないかもしれないが、はっきりと原因が分からない以上、このまま行けば魔力を失ってしまう可能性は残っていると思う。
この世界では、科学の発展の代わりに「魔力」というものが幅を利かせている。
魔力はその名の通り「摩訶不思議な力」であり、さまざまな超自然的なことが出来る。
魔力を持つのは基本的には貴族のみで、貴族は魔法の力で領地や民に貢献することで、その豊かな暮らしを保証されている。
学園にいた過去も抹消され、貴族としての義務も果たせず、ただのお荷物になってしまったら、私の未来は?
「そんなの絶対に嫌……!」
思わず掌を握りしめる。
ーーでも、今の私なら。
今の私なら、「タロット」があれば生きていけるかもしれない。
この世界にタロットはあるのだろうか。すぐに調べなくては。図書室なら何らかの情報が手に入るかもしれない。
ネグリジェ姿のまま部屋を出るなんではしたないかもしれないが、着替える時間が惜しい。
どうか誰にも見つかりませんようにと祈りながらドアをそっと開けて廊下を伺うと、ちょうど部屋の前を通り過ぎようとしていた人間とばっちり視線が合った。
「あ……」
「……何をなさっているんですか。まだご起床の時間ではありませんよ」
そう言うと、私付きの従者ーーアルベールは少し驚いたような表情でこちらへ向かってきた。こんな時間から働いていたなんて知らなかった。
真っ白なシャツはシワ1つ無く、薄いフレームのメガネのレンズは完璧に磨き上げられている。寝起き5分の自分とは対照的な姿に押し戻されるように、ドアの隙間から出していた顔を引っ込める。
「何かご所望で? ああ、ついでなのでティファニー様宛の手紙をお渡しいたします。御誕生日のお祝いが27通来ておりますよ」
「……そう、ありがとう」
分厚い封筒の束を片手で受け取りつつ、思わずじっとアルベールの顔を見つめた。
さっきまで夢に見ていた「ゲームの中の登場人物としてのアルベール」と同じ顔……いや、私と同じで少し若い。ゲームよりも少し柔らかく感じるのは年齢のせいだろうか。
ぼーっと見つめる私に、アルベールは片眉を上げた。
「私の顔に何かついてますか?」
「いえ、違うのよ!ただちょっと……ね」
「はあ。……おや、左手のそれはいかがされたのですか?」
それ、の言葉と共にアルベールの視線が下へ、私の左手の辺りへ向く。
「え?」
反射的に左手を胸の前に上げる。その瞬間、さっきまで何も感じていなかった左腕に僅かな負荷が掛かっているのに気がついた。
驚いて視線をやる。
「嘘……」
「トランプ……ですか?それにしては少し大きいようですが」
アルベールの声が耳を素通りしていく。
私の左手にいつの間にか収まっていたもの。それはまさしく、前世の私が使い込んでいたタロットの束だった。