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9.SHALL WE DANCE?(NO THANK YOU)

とりあえずシリスをふりかえって、私は言葉を探していた。文字通り。

「頭がおかしい、って、こっちの言葉でなんて言うの?」

「?」

シリスはかわいらしく小首をかしげている。

「イカれてる、でも、ご乱心でもいい。アレンを正しく形容する語彙をいますぐ授けて」

「アレン?」

固有名詞しか通じなかった。

ああああああいらいらする!!まじで言葉の壁がもどかしい!!

私は悩んだ末、部屋のすみっこに控えているアレンをちらりと見やり、シリスに向かってジェスチャーを始める。

指を自分の頭のななめうえでクルクル回し・・・ぱっと全指を開く!

「ソレ、『ブワルク』」

よし!

『ブワルク!』

さっそく会得した言葉を彼に投げかけると、誰がブワルク(バカ)だ!的な言葉が返ってきた。

おお、合ってるっぽい。

花も料理も謎の宝ものも、犯人がアレンだということはわかった。

目的はわからないけれど、あいつがバカだということで結論は変わらない。

もうそれ以上、問答の余地はない。

今後、二度と私の近くに寄らないでいただければそれでいいのに、彼は翌日も妙な招待状を持参してきたのだマジ懲りねぇやつ。

もちろん文字など読めないので、シリス嬢に翻訳していただいたところによると、近々王室主催のパーティーがあるのだという。

そしてそれに、出ろと。俺と。

このバカは招待状経由で言ってきたわけだ。

「なんで?なんで私がそんなのに出なきゃいけないの」

日本語で食ってかかると、伝わらないアレンに代わってシリスがざっくりと説明してくれた。

パーティーは男女一組で参加が必須、なぜなら一人ではダンスができないから。それができないと恥をかく。

アレンはあなたを指名している。

そこまで聞いた私は、仏頂面な彼に向って、さわやかに笑んで見せながら言うてやった。

『死ね』

『そこまで言うか!?』

アレンのおかげで、悪口のレパートリーがじゃんじゃか増えている。

恥なんてかけばいい。

ましてやダンス必須とか、どういうことだ。

私は盆踊りかマイムマイムしか踊れん。

仮にそのパーティー用のダンスが踊れたとしても、踊れたとしてもだ。

『お前、嫌い』

『~~~~~~~~~っ!!』

対アレンに使うべき単語は、着実に覚えて行っている自覚がある。

我らの会話にひとしきり笑ったあと、シリスがなだめるように話してくれた。

いわく、この世界でパーティーに出られるのはとても名誉なこと、出世にも響く、ましてやアレンはこう見えて近衛隊長なのだ、と。

近衛隊長というのは私の脳内補足だけれど、彼女の説明だと王族を直々に警備する、王族直属の騎士たちのことらしい。

たぶん近衛兵団的なやつなんだと思う。知らんけど。

そう解釈し、へぇぇ、こいつがかよ、と小馬鹿にした目で見てやると、怒りをひたすらこらえて震える赤毛がいた。

ってか、そんな立場なら、他にも誘いにのってくれるご令嬢がいるんじゃないの?

最悪、シリスでもいいじゃない。

「私は仕事で行けない。あなたがアレンの隣にいないと、アレンが泣いてしまう」

「泣けばいい」

「彼にとって、すごく名誉なことなの」

「知らん」

「どうしてもだめなのか」

「絶対」

「・・・。」

シリスの眉尻がちょっと下がってしまった。

何よ何よ、なんであいつの肩持つかなぁ。

「とにかく、行かない」

ぷいっと顔を背けると、シリスとアレンの困ったようなため息が二重奏で聞こえてきた。

知ったこっちゃないわ。



と、思ってたのに。



「何よこれーーー!!」

翌日から、強制的ダンスレッスンが始まってしまった。

ひっつめ髪の、いかにも厳しそうな女の人が私の首根っこをつかんで、鏡張りの部屋に引きずったかと思えば、手拍子と共になんか手を、足を、と、命令してくる。

いやいやいや、どうしろって言うのよ!

むりむり、と首をふる私に、その女性はただでさえキツイ両目を釣り上げて、伝わらない言葉でぎゃーぎゃーわめいてきた。

うわーん、わかんないってば!

やがてその部屋にアレンがひょっこり顔を出したので、私の罵詈雑言を一気に浴びせるチャンスとなった。

それまでしゃべれなかった私が、怒涛の悪口を彼に浴びせたことで、ダンスの先生もびっくりしたらしい。

追加でガミガミと私がなんか言われてしまった。

それを見ていたアレンが、明らかに鼻で ふっ と笑ったものだから、今すぐ殺す、マジ殺す!!と、私の殺意は膨れ上がる。

先生は困ったわねぇ、というように私とアレンを見比べた後、いい案を思いついたと言わんばかりに、アレンを手招きして私と踊るよう指示しちゃいました。やだってば!!!


全身をハリネズミみたいにとがらせて拒絶する私の間合いにひょいっと入り、逃がさないようがっちり両手をつかまれてしまった。

抵抗する私、離さないアレン、がっつりにらみ合って格闘技のような雰囲気になってしまった。

いーやーだー!お前と踊るとか嫌すぎる!

しかもこれ、あれでしょ、ゴールはどうせお前と一緒にパーティーに出させられるんだろ、分かってるからやりたくな、い、のよ!と手に力をこめる。

でも力でかなうはずもない。

結局先生の厳しい監視のもと、イヤイヤ踊らされてしまった。

ぴえんのぱおん。

怒る力もげっそりそがれてしまった。

むかつく、本当に不本意、嫌すぎる。

にらみつけると、アレンも不機嫌そうに、でもていねいにダンスをリードしてくる。

それがまた二重に腹立つ。

しかも見てくれはまぁイケメンなので、三重にむかつくわけだ。

いつか、どこかで役に立つかもしれないから、ダンスくらい覚えてやるけど、だからってコイツのエスコートで例のパーティーに行くなんて冗談じゃない。

大体どういうつもりだ。

あのプレゼント攻撃は、さてはこのための懐柔だったのか。

賄賂のつもりで貢いでたのか。

きっと性格も悪くて不愛想なアレンのこと、のきなみ女性に振られまくって、困った挙句に言葉も満足に話せない私をイケニエにしようって魂胆だったのだ。

なんて卑怯もの、ますます嫌いだ。

優雅に踊るふりして、思い切り足を踏んでやろうと思ったのに、そういうことろは機敏に反応し、さっと足を避けてしまうのだ。

むかつくわーーー!!足くらい素直に踏まれろやーーー!!

私とアレンは殺気だったまま、その日も、翌日も、その翌日も、ダンスのレッスンに励んだのでした。

っていうか、アレン、仕事はどうしたよ。


アレンを罵倒したい私は、昼はダンス、夜は語学の勉強にますます力を入れることにした。

今に見てろこいつ・・・。



準備期間はたっぷり2ヶ月。

ここは「〇ヶ月」という概念がないのだけれど、私は勝手に太陽のめぐりで「正」の字を書いて数えることにしていた。

大体60回を経たので、2か月。目安として。

というかそんなに早くから招待状を出すとか、どんだけ根回しするんですか王室。

逃がさない、というような執念を感じる。

出世に響くというのも嘘ではないのだろう。

この頃には私もダンスは目をつぶってもできるレベルになったし(毎日毎日これだけやってりゃ、どんな運動音痴でもサマにはなる)、アレンが来られない日はシリスが相手をしてくれた。

どうせやることもなかったので、少しずつ上達していくダンスは、ちょっと楽しかった。

いつ覚めるのかわからないこの夢、もうどうせなら楽しいこと見つけようと心に決めたのだ。

泣いても笑っても時間は同じだもんね。

でもわけのわからないパーティーに出るのだけは、どうしても解せない。

言葉の通じない、しかも名誉あるパーティーなら、オエライさんたちもたくさん来ているのだろう。

私なんかが紛れ込んだら、それこそ危険な予感しかしない。

やなこった。

しかも持ってる服と言えば、このシリスとおそろいの服だけだ。

こんな格好で王族主催のパーティーで何をしろというのか。

拷問だ。ふつうに無理でしょ。



そしてどうやらパーティー当日、アレンにつかまる前にこっそり逃げてやり過ごすことにした。

あまり遠くに行って、迷子になっても困るから、どこか盲点はないかと考え付いたのが中庭の木だ。

某CMに出てきそうな ♪この~木なんの木 みたいなのが中庭には数本はえている。私は知っている。

それほど高くもないし、ちょうどいい枝ぶりのその茂みに潜んでいれば、なんとかアレン一人の目くらいごまかせそうな気がする。

間違っても、人探しで木に登ったりもしないだろう。アレンのやつ頭カタそうだし。

シリスが「この影時計の針がここに来たら、アレンが来る」と教えてくれた(私たちの世界でいう日時計みたいなもの)のを、はーい、と良い子のお返事で聞いておきながら出勤する彼女を見送り、一息ついて、作戦開始だ。


アレンにつかまってたまるものか。

私はこっそりと部屋を抜け出した。



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