14.からの、スピーディーな直接対決
『あなたが、プルワカに志願した異邦人?』
庭を荒らした罰として命じられたお庭の修復作業を、しょんぼり続けていたある日、いきなり背後から声をかけられた。
異邦人というのはここでの私のあだ名のようなもので、何万回も聞かされてきた単語だったから、脊髄反射でふりかえる。
と、そこには美少女がいた。
え。
何このイキモノ。
まじか。
金髪に青い瞳、絵にかいたような美少女。
え、え、お人形さんみたい!
何これ!
おやかた!空から美少女が降ってきました!(違う)
「かわいい!!」
『はぁ?』
私の言葉に、お人形さんの顔が怪訝そうにゆがむ。
うわ、その顔もかっわいいい!じゃなくて、思わず日本語で言うてしもうた。
『かわいい!』
『!?』
こっちの言葉で言い直すと、美少女の表情が別の感じにゆがむ。
『かわいいかわいい!すごくかわいい!お姫様!理想のお姫様!すごい!すてき!』
『!?!?!?』
お日様の下でキラキラ光る金髪はやっぱりどう見てもきれいだし、ぱっちりした目の青さもふっさふさのまつげも、真っ白な肌も、女の子の憧れそのまんまだ。
すごい、そうか、美形男子ばっかり見てたけど、そりゃそうよね、美少女もいるのねこの世界。
いや、シリスがきれいじゃないということではないんだけど、ケタが違いますよこれ!
『きれいなお姫様、私に、ご用、ある?です』
あわてて何かしゃべんなきゃ、と焦ったら、文法ちょっとおかしくなった。
通じたかしら。
期待のこもった目で見ていると、美少女は口をはくはくさせて、数秒フリーズしたあとで、背後の誰かを振り仰いだ。
と、そこへ息を切らせて駆け寄ってきた数人の使用人たち。
服装からして、いわゆるメイドさんよりも格が上の、高貴な方々の”おつきのひとびと”というやつだ。
追いついてきたということは、このオヒメサマが彼らを振りきって走ってきたのだろうか。
その数ざっと見て5~6人。おお。厳重体制。
ってぇことは。そうとう身分が高いお貴族様?
それとも、キャリーの妹とかかな?髪の色が似てると言えば似てる。
『質問に、こたえなさい』
使用人らが追いついたのに勢いを得たのか、オヒメサマさんはそうおっしゃった。
質問ってなんだっけ、と頭の中をぐるりと検索する。
ええと。
あ、ぷるわか?のこと?
さっき言ってたやつ。
うーんと、志願した、と言ってもいいのか。
なりたいわけではないけれど、なると言ったのは事実だし。
え、ニュアンス難しいな。伝わるかな。
伝わる気がしない。
あきらめる。
きつくにらんでくるオヒメサマに、どう返事をしようか迷った挙句、視界に入ったものをぱっとつかんだ。
綺麗に咲いていたまっ青な花。
名前は知らないし、すごくいい匂いだし、彼女の目の色に似てる気がしたので、それをとっさに差し出した。
『お姫様、あげる。目の色、一緒。すてきすてき!』
『・・・っ!?』
こっちの人って、よくこういう表情するなぁ、というものがあって。
私が何か言うと、(とくにアレンが)こういう表情するんだけど。
何とも言えない、怒るのと驚くのと呆れてるのはまちがいなくて、でも最後にほんのちょっぴりにじみかけた笑みを無理やりねじ込めたような、でも目には不審をたたえたすげぇビミョーな表情を、この時の彼女も、した。
そして花は受け取らず、息を大きく吸い込んで・・・プイっと顔をそむける。
そして私など最初からいなかったように、振りかえらずに去って行ってしまった。
あとを追うおつきの方々。
うん?何か失敗?
振られた気分で青い花を握りしめるしかなかった。
帰宅後、シリスにそのエピソードを伝えると、大爆笑とともに背中をバンバン叩かれる。
いてっ。
『それきっと、ユキルカ嬢。第二王子のプルワカ予定』
えええええまじか。
『知らなかった』
『でしょうね』
笑いながら目じりの涙を拭きつつ、シリスがまたぷふーっと吹き出すので、こちらもだんだん気分悪い。
笑いすぎじゃね?
『それにしても、そうよね、向こうからすれば、あなたは自分を邪魔する女。なのに、ピスポの花でプロポーズって…ふふ』
『ぷろぽーず!?してない』
すかさず訂正すると、手を横に振って いやいや、 みたいなジェスチャーをされた。
この仕草は万国共通なんだろうか…。
『まず、相手の目の色と同じ花を一輪渡す、っていうのは、プロポーズの意味なのよ』
えええええ。
『しかもいい匂いがしてこの時期に咲いてる王宮の庭の青い花、ってピスポじゃない?ピスポの花言葉は”永遠を約束する”…くくっ…』
あはははは、と豪快に笑いとばされるに至り、まじでか!と焦った。
そんなロマンチックなこと、素でやっちゃったの私!?
うっわ、はっず!
恥ずかしすぎて死ねる!
初対面でライバルに求婚する女!頭おかしい!
『知らなかったーーーー!教えてよそういうことは事前に!!』
『予想できるわけないじゃない』
ぐぬぅ・・・
確かに。
『ユキルカ嬢は、また複雑な事情でね…』
と。
シリスが珍しく、神妙に語った彼女の身の上は、確かに複雑なものだった。
そもそもこのプルワカ制度自体が私のお気に召さないのだけれど。
それでも身分ある人たちからすれば、プルワカは準王室としての名誉だし、それをあやしい異邦人に邪魔されたら面白くないわけで。
でも、あんなにかわいくてきれいな子が、そんな制度の犠牲になるとか。
納得がいかんのです。
私はひそかに決意する。
キャリーとユキルカ嬢のために、何かを何かする!
うん、何かを…ね!




