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13.まさかの婚約者あらわる!しかも2人!


そんなキャリーとの生活もつかの間。

「行かなくていい」と、シリスから説明を受けたのは3日前。

え、と思ったものの、まぁ行けと言われたものいきなりだったし、相手は王子だし、そういうものか。


そう思っていた時期が、私にもありました。


まだ長い言葉は聞き取れないけれど、簡潔に、短文で、ゆっくりと話してくれる分にはわかって来たかもという言語レベルになった私に、シリスが説明してくれる。


もうじき、キャリーはお嫁さんをもらう。

それも、2人。


・・・2人!?


あれ、こちらって一夫多妻制なんですか?

まさかの展開だった。

そして、と、言葉を区切ったシリスが私を見た瞬間、何となく察するものがある。

そうだよね、もうすぐお嫁さんをもらうのに、変なオンナがうろちょろしてたら、外聞がよくないよね。

距離を置いた方がいいのだろう。

でもあんなに寂しがりやサンなのに、キャリー、大丈夫かな。

すっかりなついた犬を手放さなきゃいけない人、みたいな心境になってしまった。

けれど相手は王子さまだ。

もう不用意に近寄るなということだ。理解できる。

それが彼のためでもある。

「でも2人て…どちらもお嫁さん、なの?」

その質問に、シリスが何とも言えない表情を浮かべるのでひるむ。

変な質問だったのか、言葉が通じなかったのか。

そんな心配をよそに、シリスがほろ苦く笑った。

「あなたは時々、ものすごく鋭い。そう、正式な嫁は一人。もう一人は”プルワカ”」


ぷわるか?


補足説明によると、まぁ、公式の愛人というか、奥さんの役割をするけれどプルワカが子供を産んでもそれは正式な子供にカウントしてもらえないそうだ。

ひでぇ。

だったら嫁がせるなよ。

王族が血を絶やさないために、たくさんの奥さんをもらうのはまだ理屈がわかる。

でも、生まれた子供を正式に認めないなら、じゃあ、意味がなくないか?

なんなのそれ。

私の憤りが通じたのか、シリスはさらに補足してくれる。


で、これは私なりの意訳だけれど。


要するに、民衆の不満を王族から背けさせるために、いざとなったら人身御供にする。

「王室の広告塔」として、きらびやかな貴族のお姫様を1人、差し出させる。

そして王族夫妻には傷をつけない。

そんな、くだらない因習なのだ。

正室に子どもがいる時、王位継承権は最優先でその子たち。

プルワカが産んだ子は庶子として「お母さんの子」扱いになる。

けれど、もし、正室に子どもがいなければ。

いても、幼くして亡くなってしまったら。

プルワカの子供は「予備」として、王位継承権がもらえるらしいのだ。



ぐわーーーー


納得いかねーーーー



なんだその制度ーーーー!!!



私の中の何かが、いっせいにちゃぶ台をひっくり返す。

ちゃぶ台って名前しか知らないし触ったことないけど。

でも心の中のちゃぶ台が一斉に宙に翻るような心境だった。

おこです、激おこですよ!

プルワカになるお姫様がかわいそう!

キャリーだって、そんな可哀そうな女の子をもらっても嬉しくないよね。

私の中のお節介虫が大暴れする。

そしてひらめいた。

「私が、なる」

真顔で言う。

「私が、キャリーのプルワカになる」

そうすれば、悲しい女の子を1人助けられる。

私とキャリーは仲良しだから、まぁ、夜的な?ケッコンは無理だけど、うまくやっていける。

それに、この世界にいる間だけの関係だから、後くされなさそうじゃん。

私だったら、ちゃんと奥さんとキャリーの仲を取り持ってあげられる。

うん、すごくいい案じゃん!


『却下だ』


とつぜんの第三者の声、振りかえらなくてもわかる。

アレンだ。

ったく、いちいちうるさいなこの男。

舌打ちせんばかりに振りかえると、険しい顔をした赤毛の男がそこにいたわけだ。

『だって、可哀そう』

『可哀そうではない。名誉だ』

『名誉なわけない。ブワルク(馬鹿)、アレンは相変わらずブワルク。まじブワルク』

『なぜ3回言った』

『大事なことだから』

ここで、ダン!とテーブルを手のひらでたたかれる。

シリスと私、同時に肩をすくめた。

うるせえ。

『いいか、もう王子とのお遊びは終わりだ』

まじで腹立つんですけどこいつ。殴っていいかな。

『だが、このところお前が来なくて王子が憔悴している。明日から、王子の部屋から見える庭に行き、お前が元気であることをお見せしろ』

それが、キャリーの厳命だそうだ。

実際、私と引き離されたキャリーのヤバさは、ちょっと説明できないヤバさだった、らしい。

そりゃぁ、あんなに寂しがり屋で、心配性なんだもん。

キャリーがかわいそう。

アレンの言うことを聞くのは癪だけど、キャリーのために一肌脱ぐことにした。



翌日、指定された朝一番、お庭からお城を見上げてみる。

キャリーの部屋は3階。表情がぎりぎりわかる高さ。

私が行く前からキャリーは窓辺にいたようで、食い入るようにこちらを見ているのがわかる。

おおい、私は元気だよ!

手を振って見せると、同じような仕草が返ってくる。

そして、ちょっと泣きそうなのも、見えてしまった。

会えない間、心配をかけてしまったのだろう。

ますますかわいそうで、なんとか元気にしてあげたくなった。

何かいい方法はないだろうか。

数分だけの逢瀬だったけれど、私に何かできることはないか、考えた。


で、思いついた。




翌日、私は約束の時間よりも早く・・・否、正式には前夜から作業にいそしんだ。

あの窓から見えるこの庭の、この辺りに、と。

せっせと準備したそれを満足げに見下ろしながら、キャリーが窓辺に現れるのをドキドキと待つ。

どうかな、喜んでくれるかな。

やがて、約束の時間より少し早めにキャリーの金髪が窓に駆け寄り・・・


そして、窓を開け放った!


両脇から、召使風の人たちがあわてて制しているのが見える。

昨日は窓を開けなくて、ガラス越しにしか会えなかった。

たぶん本当は『窓を開けてはいけない』という約束だったんだろうな。

けれどそれを振りきるほど、キャリーは喜んでくれたということだろう。


窓の下には、王宮の庭という庭に咲く花々を、かたっぱしから摘んできた!

色とりどりの花をあちこちからかき集めて、敷き詰めたのだ。

範囲にしてみれば、それほど広くはないけれど、そこにかき集めたという意志は伝わっただろう。

キャリーに見せたかった、という気持ちは、分かってもらえたんだろう。

どう?と微笑む私。

キャリーは数秒動かずに固まっていたけれど、やがて身をひるがえした。

慌てて召使さんたちがそれを追うのが窓越しに見えた。


お、予感がする。


何となく、予感がするぞ。


さっきと同様、ドキドキしながら待っていると…庭先に、金色のまぶしい光が見えた。

駆けてくるのは、キャリーだ。

満面の笑みの私と反対に、泣きそうな顔をしている。

しかも、裸足だ。

まるで出会ったあの日のように…


そんなことを考えている間に、抱きしめられていました。

うあああああ数日ぶりだけど、相変わらず熱烈だなキャリー。

それだけ喜んでくれたのなら、私も嬉しいや。へへ。


『会いたかった』

彼は言う。

それ、ちょっと前にも聞いたよ。

『そばにいてほしい』

うん、いてあげたい。やっぱり、こんなに寂しがられるとね。

ついつい、ほだされてしまう。

しがみついてくるようなキャリーの背に、私の両手なんかを添えてみる。

まるで抱き合う形だ。

あ、そうだ。

提案しちゃおう。

『私、ぷるわか、になりたい』

『・・・・!!』

腕の中のキャリーが震えた。

驚かせてしまったのかな。

恐る恐る、というように身を離され、顔をのぞき込まれる。

信じられない、というような、何かに衝撃を受けた風の超絶美形の王子さまは、私の言葉を反芻する。


『プル ワカ…?』

『そう。あなたのプルワカになりたい』

『・・・。』

沈黙ののち。

更に強く抱きしめられてしまった。


ぐえっ、ちょ、苦しい・・・!これは無理・・・!


『プルワカなど!君はパードンだ。君以外は誰もいらない・・・!』

キャリーが震えるようにそう繰り返すのを、なだめるように背をさすってあげる。

そうだよね、キャリーもプルワカなんてよくないと思ってるんだね。

『パードン?』

私が尋ねると。

『パードン!』

またぎゅっとされてしまった。

うへぇ。


血相を変えたアレンがこちらに走ってくるのを、アレンの金髪ごしに眺める私なのであった。

(ちなみに、あとで庭師の皆さんにしこたま怒られた)




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