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3話→冒険者ギルド

 

「えっと、また会えて嬉しいです……あはは」


 ぎこちない笑顔を浮かべるネーヴェ。

 早すぎる再開に感動もクソも無かった。

 普通こういうのって、お互い良い感じに成長した後で再開するのが王道だと思う。


 別れてからまだ一時間も経ってないぞ。

 二人の間で微妙な空気が流れる。

 俯き、次に発するべき言葉を探す。


「あー……ネーヴェの目的地も、冒険者ギルドだったんだな。さっきちゃんと聞いとくべきだったな」

「はい。あの、もしかしてアラトさんもギルドに依頼を出すのでは無く、冒険者になりたくてここを訪れたのではないでしょうか?」


 問いかけ、だが確信めいたものを抱いた様子でネーヴェは俺にギルドを探していた理由を聞く。

『も』という事は彼女も冒険者志望なのか。


 ここまでドンピシャだと作為的なモノを感じる。

 まさかネーヴェも異世界人なのでは……? いや、流石にあり得ないか。


 気になるのは冒険者志望というところ。

 俺もただのニートだし人のことは言えないが、悪漢に詰め寄られて怯えていた女の子に果たして冒険者という職業は務まるのだろうか?


 俺が心配するのは筋違いなのは理解しているが、集めた情報によると冒険者は荒事が付いて回る仕事だ。

 登録しようとしても門前払いを受ける可能性がある、勿論俺も含めて。


「折角ですし、二人で登録しませんか? 一人だと心細くて……」

「俺でよければ、何処でも付き合うよ。心細いのは一緒だったし」

「ありがとうございますっ」


 パアッと花が咲くような笑顔を浮かべるネーヴェ。

 出来る事なら彼女の笑顔だけを永遠に見続けたいが、そうも言ってられない。


 何せ俺達はさっきから、ギルド内に居る大勢の冒険者の視線を集めているからだ。

 敵意や悪意は無い……と、思う。


 どちらかと言えば、純粋な好奇心だ。

 これは俺とネーヴェ双方に理由がある。

 ネーヴェは純粋に若い女だからだ。


 フードを被っているから詳しい容姿は分からないものの、立ち振る舞いや纏っているオーラからただの街娘では無いと男達は本能で理解している。


 次に俺だが、これは単純に服装だ。

 この世界でパーカーやジャージを着ている人間を自分以外で見かけたことがない。


 ネーヴェも最初、物珍しそうな視線で俺の衣服を眺めていた。俺はこちらの世界の服装を奇抜なコスプレと称したが、彼女からすればパーカーやジャージこそ奇抜なファッションとして映っているのだろう。


 服のセンスを突っ込まないあたり、ネーヴェの育ちの良さというか優しさを感じる。

 以上の理由から、俺達は今注目を集めていた。


 早にところ登録を済ませた方がいいな。

 ネーヴェを連れて受付らしき場所へ向かう。

 市役所や銀行にある窓口のようで、横一列にズラッと並んでいる光景はやけに圧迫感を覚える。


「けっこう混んでますね、どの列に並びます?」

「そうだなー……あそこにしようか」

「はいっ」


 どの窓口にも五、六人の冒険者が並んでいた。

 俺は『偶然』一番美人なお姉さんが受付員をしている窓口を選び、待っている間ギルド内を見回す。


 机や椅子が幾つもあり、仕事を終えた冒険者が報酬を受け取るまでの間休んでいる。

 あるいは共に仕事を受ける仲間を集めているのか、声をかけて勧誘している者も珍しくない。

 俺の偏見だともっと荒々しい雰囲気を想像していたが、意外にも秩序のある場に驚く。


 あと、勝手に冒険者ギルドは酒場と併設されているイメージがあったけど、そんなモノは無かった。

 よく考えたら当たり前っちゃ当たり前だけど。

 何でもかんでもアニメやライトノベルの設定と照らし合わせるのはよくないな。


「次の方、どうぞー」

「行きましょう、アラトさん」

「ああ」


 考え事をしている間に時間は進み、俺とネーヴェは窓口の前に立って受付員のお姉さんと向き合う。

 俺と同じか少し上くらいの美人さんだ。


「今日はどのようなご用件でしょうか?」

「冒険者になりたくて。隣の彼女も同じです」

「かしこまりました、ではこちらにサインを。その後冒険者ライセンスを発行しますので、待ち時間の間に簡単な説明をさせて頂きます」

「え? あ、はい」


 余りにもアッサリとした登録に拍子抜けする。

 てっきり試験とかあるかと思っていた。

 そんな俺の様子を不審に思ったのか、ネーヴェがポツリと呟く。


「どうかしましたか? アラトさん」

「いや、やけに簡単に登録出来るなと思いまして」


 その疑問にはネーヴェの言葉を聞いていた受付のお姉さんが答えてくれた。

 もしくは後で話すつもりだったのか、用意されている答えを読むかのようにスラスラと説明してくれる。


「最近はモンスター関連の騒動が立て続けに発生していますから、何処の街も戦力不足なんです」

「へぇ……」

「一ヶ月前には、北にある小国がモンスターの群勢にやられて滅びましたから。街だけじゃなく、各国も戦える人材は常に欲しています」

「く、国が滅びたんですか……!?」


 お姉さんの言葉に狼狽える。


 モンスターがどの程度の脅威を持つ生物なのか、まだ詳しい事は分からないが、それでも異常事態かつ危険な状況に世界が陥っている事は分かった。


「はい、どういうワケか王都の四方八方にモンスターが出現し、平民も貴族も皆餌食に……噂では一部の王族だけが難を逃れたと――」

「すみません、急いでいるワケではありませんが好んで時間を浪費する趣味もありません。冒険者についての説明を優先させてもらっていいでしょうか?」

「ネ、ネーヴェ……?」


 突然ネーヴェが会話に割って入る。

 無表情だが、瞳には薄暗い何かが宿っていた。

 彼女が怒っているのは火を見るより明らか。


 確かに少し脱線していたが、何もそこまで怒らなくても……いや、ここはちゃんと謝るか。


 怒りのスイッチは人それぞれ違う。

 俺は知らぬ間に彼女の地雷を踏み抜いていたのかもしれない。


「も、申し訳ありませんでした……! 職員としてお詫びします。お連れの方も、すみません」

「いえ、元々俺が切り出した話題ですから……ごめん、ネーヴェ」


 俺とお姉さんが謝ると、ネーヴェは意識を取り戻すかのようにハッとしながら口元に手を当てた。

 そしてシュンとしながら今度は彼女が謝る。


「こ、こちらこそすみません! あの、私のことは気にせずにどうぞ続けてください!」


 先程見せた冷たい怒気は既に消えていた。

 彼女自身、自分の変化に驚いているようだが、まだ会って間もない俺が踏み込んでいい領分じゃない。


 とりあえず二人でサイン……俺は文字を書けないのでネーヴェに代筆をしてもらい、登録を済ませる。

 若干重い空気だったが、お姉さんさんは直ぐに切り替え、冒険者という仕事について説明を始めた。


「冒険者とは主にギルドへ依頼された様々な仕事を請け負い、達成する事で報酬を得る仕事です。依頼には達成期限があり、期日を過ぎるとペナルティの罰則金を支払ってもらいますので、身の丈に合った依頼を受ける事をオススメします」


 説明の途中、お姉さんはギルド内のある場所を指差す。そこは沢山の依頼書が貼り出された掲示板で、今も何人かの冒険者が依頼を選んでいる。


「依頼はあちらの『クエストボード』から各々お好きな物を選んで頂き、受付で我々職員が受注の印を押した瞬間から期日のカウントが始まります。基本的に冒険者の方々がどんな依頼を選んでもギルド側は関与しませんが、あまりにも依頼のランクとご自身のランクが離れている場合は止めさせて頂きますのでご了承ください」

「依頼と自分のランク……?」


 俺の疑問にお姉さんは嫌な顔一つせずに答えた。


「『冒険者ランク』。冒険者の評価を表す基準で、階級は全部で五段階あります。最初は『ストーン』から始まり『ブロンズ』『シルバー』『ゴールド』そして最上位の『プラチナ』と続くます。是非上のランクを目指して頑張ってください――丁度ライセンスが発行されました、こちらをどうぞ」


 俺とネーヴェは発行されたばかり、出来立てホヤホヤの冒険者ライセンスを受け取る。


 文字が読めないので何が書いてあるのか分からないが、恐らく俺の名前と現在のランク――石のマークの上にはストーンランクと刻まれているだろう。


「……俺、本当に冒険者やるんだなぁ」


 思わず呟いてしまった言葉。

 俺は暫くの間、受け取った冒険者ライセンスを感慨深く眺めていた――

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