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17/23

17話→シルバーランクの実力

 

「……おふざけもここまでだ、来るぞ」


 アスピダの一言で弛緩していた空気が変わる。

 それまでは良くも悪くも学生グループの雰囲気だったが、今は歴戦の猛者と見間違うほどの圧を感じた。


「アラト、ネーヴェ、お前たちは自由に攻めていい。下手な連携は不和を生むからな。ジョーフロッグの攻撃は全て俺が受け持つから安心しろ」

「疑っちゃいないが、いいのか? 俺も一応壁役は出来るけど」


 左腕に装備した盾を見せながら言う。

 攻撃を受け返したりする技術は身に付けてないが、防ぐだけの壁なら務まる。


 しかし彼は首を横に振った。


「大丈夫だ、俺の盾は『二枚』ある」

「……? とりあえず分かった、任せるよ」


 どう見てもアスピダは盾を一つしか持ってない。

 俺のよりも一回り大きい円形の盾。

 二枚の盾が重なっているワケでも無さそうだ。


 とは言えこの場面で彼が嘘を言うメリットは一つも無い、信じていいだろう。

 それに人の心配をしている暇はない。


 鞘から剣を抜き身構えた。

 ネーヴェはいつもの巨大ハンマーを生成し、隣で同じように臨戦態勢へと移る。


 数秒後……茂みから赤黒い物体が飛び出して来た。


 見た目はカエルそのままの姿。

 赤黒い体表は不気味だが、もっと恐ろしいのはギョロリとむき出しにされた二つの眼球。


 加えて軽自動車程の大きさとくれば、如何に外見がカエルでも立派なモンスターだ。

 自然と剣を握る力が強まる。


 今まで戦ったモンスター……ストレートボアやゴーレムと比べたら一段階上の強さだと肌で感じた。

 そんなジョーフロッグは大口を開けて叫ぶ。


「ギョゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!」

「す、凄い数の牙ですね……」


 ネーヴェがポツリと呟く。

 ジョーフロッグの口内は、小さいが鋭利な牙でビッシリと埋め尽くされていた。


 アレに噛み砕かれたらひとたまりもない。


「じゃ、いこっか! マニちゃんお願い!」

「はい!」


 リーダーらしく、戦闘開始の合図はシュテルンが。


 彼女の言葉に応じたマニは杖を掲げた。

 すると何かを悟ったジョーフロッグが彼女に向かって長い舌を伸ばす。


 が、割って入ったアスピダの盾に舌は防がれる。

 盾と舌が触れる瞬間、彼は自ら後退する事で威力を殺し、安全に攻撃を受けていた。


 凄いな、俺にあんな事出来るか……?

 感心していると、次はマニが妙な言葉を唱えた。


「《我が紡ぐは活力の声》!」


 途端、彼女が持つ杖の先端が光る。

 そして淡い光が俺達全員を包んだ。

 不思議と力が漲ってくる。


 体の底からエネルギーが湧いてくるこの感覚は、循環で身体能力を強化した時に近い。

 味方を強化する類の魔術だろう。


「ギョゴゴゴ、ギョギョ!」

「あらよっと!」

「ギョゴゴゴッ!?」


 ジョーフロッグはカエルらしく高く跳躍し、上空から舌を伸ばしてマニを狙う。

 本能で彼女の能力が危険だと理解しているようだ。


 しかしヴァンがジョーフロッグと同じ、いやそれ以上の高さにまで跳び上がり、無防備な背中に向けて槍の刃先を二度三度と振り回す。


 背中を傷付けられるジョーフロッグだが、器用にも伸ばしていた舌を旋回させてヴァンを狙う。

 危ない――思わず喉から漏れかけた言葉。


 しかしその心配は杞憂に終わる。


「……虚構の壁」


 アスピダが言葉を紡ぐ。

 瞬間、ヴァンに届きそうだった舌はガツンと弾かれたように吹き飛んだ。


 まるで見えない壁に突っ込んだかのように。


 抵抗虚しく落下するジョーフロッグ。

 ヴァンはジョーフロッグの背中を足場に離脱し、空中で華麗に一回転を決めてから着地した。


「いっちょあがりっと」

「ギョ、ゴゴゴ……!」


 身軽だとは思っていたが、まさかあそこまでとは。

 一方、着地に失敗したジョーフロッグは地面と派手に激突しうめき声をあげていた。


「それにしても、さっき舌を防いだのは一体……」

「アスピダ君の魔術だよ。見えない壁を作り出して、視界に映る好きな場所へ置く事が出来るの」


 大剣を携えたシュテルンが横に立ち、アスピダの魔術について解説してくれた。

 成る程、だから『虚構の壁』か。


 応用が効きそうな魔術で羨ましい。

 俺も毎日特訓はしているが、魔術に目覚める気配は一向に訪れてなかったりする。


「聞いておいて何だけど、仲間の手の内を晒していいのか?」

「ちょっと考えれば誰でもすぐに分かる事だから、平気だよ。それに知られたからってどうこう出来る力でも無いし」


 彼女の言葉は的を得ていた。

 それに複数配置の可否や壁の大きさと厚み、時間経過で消えるのか等、肝心なところは話してない。


 油断があるようで隙が見えない少女だ。


「折角だし、あのジョーフロッグは私がトドメを刺しちゃうね。普段の私達の連携って、大体こんな感じだから」


 目前ではマニの支援魔術で強化されたヴァンとアスピダがジョーフロッグを追い詰めている。

 あと一撃、強力な一手で勝負は決まるだろう。


 その一手を担うのが、リーダーたるシュテルン。

 彼女は大剣を真上に持ち上げる。

 やがて眩い光が収束し、刀身が黄金色に染まった。


「流星一刀!」


 掛け声と共に黄金色の大剣を振り下ろす。

 長く眩い刀身は、一瞬でジョーフロッグを真っ二つに斬り伏せ命を奪った。


「凄い……」

「今の俺達じゃ逆立ちしても敵わないな」

「はい。個々の実力は勿論、連携も……分かっていたのに、悔しいです」

「ああ、俺も同じ気持ちだ」


 俺とネーヴェは互いに力不足を痛感する。


 ジョーフロッグは決して弱いモンスターでは無い筈だが、終わってみれば終始シュテルン達が優位に立ち、危ない場面など一秒も無かった。


「……って、落ち込んでる場合じゃないぞネーヴェ! 今の戦闘音で周囲のモンスターが集まって来てる!」

「はい! 今度は私達の番ですねっ!」

「よっしゃ、やるぞ!」


 力の差を見せつけられた筈なのに、何故か気分はとても高揚していた。

 本気で悔しいと思ったのなんていつ振りだろうか。



 ◆



「皆んな今日はお疲れさまー! カンパーイ!」

「「「「「「乾杯!」」」」」


 依頼を終えた俺達は酒場に来ていた。

 六人用の円卓には数々の料理が並び、各々の片手には酒やらジュースやらの飲み物が行き渡っている。


「いやー、途中でジョーフロッグのボス個体が出て来た時は流石に焦ったね。その分報酬は美味しいけど」

「ああ、今日誘ったのは偶然だったが、二人が居てくれて助かった。礼を言う」

「臨時とは言え同じパーティーなんだから、頑張るのは当然だろ? 礼とかは要らない」

「はい、それに所々でミスをしていましたし……やっぱり皆さんのようにはいきませんね」


 途中までは順調だったが、ついでとばかりに辺りのモンスターを軒並み倒していたらジョーフロッグの群れのボスが出張って来て大変だった。


 六人全員で戦って事なきを得たが、俺とネーヴェの戦績はやはり四人に比べると見劣りする。


「いやいや、ストーンランクであれだけ動けりゃ十分だって。二人なら直ぐシルバーまで来れるさ」

「私もそう思います。実力は勿論、現状に満足せず学ぼうとする意欲が伝わってきましたから」

「お、今のマニ教師っぽいな」

「そうですか……?」


 ヴァンとマニのお墨付きを貰う。

 あんまり自虐的になっても意味無いし、今はとりあえず呑んで楽しむか。


「ネーヴェ、これ美味いぞ」

「はい……ん、美味しいですっ」


 そんな感じで打ち上げを楽しんでいると、シュテルンが唐突にとある提案を持ち掛けてきた。


「二人が良ければ、これからも共同依頼を受けない? 今はまだランク差があるから偶にしか出来ないだろうけど」

「……いいのか? 俺達は大歓迎だけど」

「はい、シュテルンさん達にメリットがあるようには思えません」


 するとシュテルンは眩しい太陽のような笑みを浮かべながら言った。


「メリットならあるよ? アラト君やネーヴェちゃんのような、信用できる冒険者と将来継続的に組めるかもしれないって事かな。ギルドに居る他の冒険者の人たちってさ、こう……感じ悪いよね?」


 オブラートに包んではいるが、要するに荒くれ者ばかりで信用出来ないという意味だろう。

 その点に関しては全面的に同意する。


「私達も四人パーティーだからさ、今日みたいに臨時で他の冒険者と組んだりするけど……若いってだけで舐められたり、逆に嫉妬されたり、酷い時は所構わずナンパしてくる人もいたし」

「思い出したくありません……」

「確かに……そういう人も居ますね……」


 過去にそういう出来事があったのか、マニは辛そうな表情を浮かべながら意気消沈する。

 ネーヴェも身に覚えがあるのか、彼女に同情的な視線を送りながら呟いた。

 二人とも可愛いけど、内向的なタイプだから男の冒険者達から狙われやすいのだろう。


「その点ネーヴェちゃんは女の子だし、アラト君はそういうの全然無かったから安心して組めたよ」

「あー……俺の場合は余裕が無いだけだと思うぞ? 未だにモンスターを前にすると緊張するし」


 シュテルンもマニもネーヴェも可愛いと思っているし、出来る事ならもっと仲良くなりたい。

 俺だってその辺に居る男と根っこは同じだ。


 ただ、今はそれ以上に冒険者として成長し、強くなりたいと思っているだけ。

 余裕が生まれたらどうなるかは分からない。


「その緊張感はむしろ取っておいてほしいな。冒険者は少しの油断が命取りだから」

「ああ、それに自制出来ているのなら何を考えていようが問題無い。大事なのは自分をコントロールする強い精神だからな。今日はその辺りを『試す』為の共同依頼でもあった」


 アスピダがネタばらしのように言う。


 今はまだ話せない事ってそういう意味か。

 今後も関係を続けていく価値があるかどうか、彼の目で審査されていたようだ。


 で、見事俺達は合格したと。


「悪いな、試すような真似をして。ただ、それだけ悪質な冒険者も多いという事は覚えていてほしい」

「別にこれくらいじゃ怒るもなにも、なあ?」

「はい、アスピダさんは仲間想いなんですねっ」

「……俺の話はいいだろう」

「おー、アスピダが照れてる。珍しいな!」

「うるさいぞヴァン……!」


 ネーヴェの純真さの前には、鉄仮面アスピダも白旗を上げるしかないようだ。

 そんな和気藹々とした空気の中で、俺は決めた。


「その申し出、受けさせてもらうよ」

「私も、シュテルンさん達とはもっと一緒に居たい……素直にそう思えました」


 ネーヴェも同じ気持ちだったようで、二人してシュテルンの提案を了承する。

 今すぐ何かが変わるワケじゃないが、少しでも早く彼女達に追いつけるよう、明日から頑張らないとな。


「ありがとう! よしっ! 今日は私の奢りだから、もっとジャンジャン呑んで食べよう!」


 打ち上げは酒場の閉店時間間際まで続いた。

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