プロローグ
ドグゥァン ドグゥァン
-しきりに大きな音が城内を震わせる。振動が伝わる度にパラパラとかけらが落ちていった。
「お父様・・・。」
姫と思しき少女が王の手に右手を添える。左手には龍をかたどった槍が握られていた。少女の体格とは不釣り合いなほど槍は大きく王家の威厳を感じさせる。だが槍を握った手はどこかふるふると震えていた。
ヒュードラム王国セフィロスは小国ではあったものの交易を中心に栄えていた王国だった。隣国は友好関係にありその架け橋としてこの国は存在していた。そのため他の国から侵略を受けることはなく平和な時代が訪れていた。
だが、それは突如として終わりを迎えた。魔物が街に侵攻し、街が滅びようとしているのだ。
「ついにゴブリンどももここまで侵略してきましたか・・・」
王の後ろに控えている執事がうなる。その横には二人のメイドが控えていた。その一人の腕の中に赤ん坊が抱きかかえられていた。
執事が前に出て腰におびていた長剣を手に取った。
「このアンドレがゴブリンどもの相手をいたしましょう。王よ。その間にお逃げください」
「そうか・・・」
王はひとつ息をはくと
「忠実な家臣アンドレに命ずる」
「は。なんなりと・・・」
「・・・いますぐルミリアをつれて城を出ろ」
は、とアンドレは自分の耳を疑った。王はメイドの腕の中の赤ん坊を見る。
「・・・お前も分かっているだろう。わしはこの国の王だ。そして我が娘・ラーミアはこの国の女王だ。・・・この国を守るのがさだめだ」
「しかし!」
「アンドレ」
ラーミアと呼ばれた少女がアンドレをみる。
「行きなさい」
「ですが!!」
「私はこの国の女王です。民が命をかけて戦っている今、私たちが逃げるわけにはいきません」
轟音と共に扉が破られる。ゴブリン、オークといった魔物が群れをなしてこちらに向かってくる。
「早く行きなさい!」
「・・・」
「・・・大丈夫ですよ。私たちは後で追いつきます。絶対・・・」
「・・・御意」
苦しみながら返答してメイドの元へ行き赤ん坊を抱きかかえる。王座の後ろに隠されている脱出用の裏道へと走った。
「アンドレ」
姫は前の敵をにらむ。
「妹を・・・頼みますよ」
その言葉を聞きアンドレは深い暗闇へと姿を消していった。