運さえもない
今日もありがとうございます。
1章ラストです。
前回の簡単なまとめ。
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老人の正体は南の国の王であった。
紛らわしくも”姫”と呼ばれる女性の王は自身の『何でも執事』に昨日の出来事を語る。
その内容は、簡単にまとめると姫が夏瑠亜と結婚したいというものだった。
強い人が好きな姫は夏瑠亜が成長するのを待ち、そして執事に”彼の護衛を影ながらするように”と命じる。
姫はそう言い残し、寝巻きのまま会議室に向かうのだった。
「すまん、遅れてしまった。」
姫は会議室に駆け込み、玉座に座る。
姫の見た目はまるで背の低い中学生。
玉座にすっぽりと収まった姿はとてもかわいいものだった。
しかし全体の見た目、五賢という高齢のおじさん5人が既に席に着いていたため、会議室は異様な場所と化している。
「姫様、その服は、、、」
先に待っていた五賢の1人、チェインが質問する。
「寝巻きじゃ!別に構わんじゃろ!わしら身内みたいなものじゃしな。さ、話しを進めるぞ。」
五賢はいつも通り姫の楽天さに呆れる、、、、。
気にせず姫は発言する。
「で、まずあれじゃな。今回の大会のことじゃな!
あれは今年はなしじゃ。」
唐突な決定に五賢は皆表情を変える。
「どうしてですか、姫様?前王が亡くなってから決めたじゃないですか、王家だけではなく国民の手でも国を守ろうと。そのための大会じゃなかったんですか?」
五賢のサソリが反論する。
あせることもなく姫は答える。
「そうなんじゃがもう国民には強いやついないじゃろ?
シウスとダインとシアン、3人選ばれてもう終わりでいいんじゃないかの。
他に強いやつは思い当たらんし、どうみても3人だけ強さが圧倒的じゃったろ、今までの大会で。」
「しかし、私の息子は、、、」
「ぬしの子は王家じゃろ?大会で権力を得なくとも別の方法で権力を手に入れられるじゃろ?何か不服か?」
「いえ、、、、姫様の言うとおりでございます。」
「他に何か言いたいものはおるか?」
五賢は黙る。誰も答えようとはしなかった。
「じゃあ決まりじゃ。それにこれでお金が余るの!」
姫はどちらかというと節約派である。
「ならそのお金を使って式を挙げるのはどうでしょうか、姫様。そろそろ結婚をご考えになってもよろしいのではないかと、、。」
チェインが提案する。
「いいの!それ!」
姫はお金を使うときは派手に使う。
昨日のこともあって姫は乗り気であった。
「僭越ながら姫様、お相手として私の息子のカテーナはいかがでしょう?先月仲良くされたとおっしゃっておりましたが。」
チェインは攻める。
「あー、やつか。ぬしの息子の割には容姿は良いし優しいやつだとは思ったが嫌じゃの。」
「姫様、それは少し言い過ぎ、、、」
「事実だからいいじゃろ!チェインはブサイク属に入るではないか!
その息子の割にはどう見ても上出来じゃろ、あの容姿は!」
チェインは王であり姫ではあるが、年下にそんなことを言われて少々暗くなる。
「そんなことはさておき、ぬしの息子じゃが、最近たまたま部屋から千里眼を使って町を覗いて遊んでおったらぬしの息子が他の女と一緒にいたんじゃ。それも儂と一緒にいるときと違う顔をその時しておったしの。そんなやつは無理じゃ。却下!」
さらにチェインは下を向き、姫にバレないように悔しそうな顔をする。
姫はそんなことに気づきもせずに発言する。
「儂の中では相手は決まっておる。じゃが相手が了承してくれるまでは結婚はしん。強引は嫌じゃ!少しずつ攻めつつも待つ。そんな感じじゃ。
だから式はもしやるなら今年の終わりくらいじゃな。
ちなみに大会がないことも式をもしかしたら挙げるかもしれないことも民には秘密じゃからな!たまにはサプライズ的なのも良いじゃろ!そういうことじゃ。
もう今日は疲れたから終わりじゃ。細かいことは好きにするがよい。儂は眠いからもう少し寝る。」
姫はそう言って玉座から一瞬にして消えた。
今回は魔法でベッドへひとっ飛びしたのだった。
こんな適当に見える王であっても姫は国民から好かれている。
姫は執事の目を盗んで畑仕事を手伝ったり、酒場で飲んだり、賭け事をしてみたり、時には悪いことをしたものを咎めたりと近い位置で国民と接している。
国の何が不便で何が便利なのかもよく知っている。
国民が何を求めているのかも知っている。だからこそ、それを解決すべく方法を城の方ですぐに提案することができる。
今、国民に不満はほとんどない。姫が王になってから少しずつ、少しずつ国は変わっていったのだから。
打って変わり不満を持つ連中がいる。それは五賢。
今回のようにうまく権力を握ろうとしても正論で姫に却下されてしまう。
”自分が自分が”と前に出るが全て無意味。
綺麗なやり方であっても姫の側近に自分の支配下である人間を付けることさえもできない。姫はブラドしか本当に信用していない。
それでも諦めはしない。野心の強いものは次の王、いや、権力を狙おうとする。
五賢の1人は少しずつ、汚いやり方に手を伸ばしていくのだった、、、、。
そして夏瑠亜。
彼の目標である”国で1番になって飛行船に乗る権利を得る”ということは今、この場で不可能とされた。
なぜなら”大会”は今年、開かれないのだから、、。
彼はそんなことも知らずに自分の願いを叶えるため全力で生きる。
「運がない」
それだけ言えるうちはまだましである。
そう、この世界に希望なんてないのだから。
本当の絶望がこれから始まるのだった。
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