#6 裏とのデート
目覚ましが鳴る。
ここは宇宙で、しかも駆逐艦の中。目覚ましがなければ、朝かどうかが分からない。だが、こいつのおかげで朝が来たことが分かる。
この日の朝の唯一の違和感は、隣で寝ているやつがいることだ。
「ううーん……」
あのまま寝てしまったため、素っ裸のままのアナスタシアがいた。
いや、もしかして、魔術使わずとも、一晩寝たら「クラウディア」に戻っているとか、そういう展開はないのか?
「あーっ、よく寝た!にしても、やっぱり狭えな、このベッドは!」
ああ、そんなことはなかった。やっぱりアナスタシアのままだ。なんだこいつ、ちゃんと寝られるじゃないか。
「おう、レオン……おはよう。」
「おう、おはよう。」
そっけない挨拶をする2人だが、お互いに着るべきものを着ていない状態。それに気づいたアナスタシアの顔は、耳の先まで真っ赤になる。
「おい……あまりこっちを見るんじゃねえよ!恥ずかしいだろうが!」
それにしても、口は相変わらず悪いが、なんていうかこいつ、随分と感情を制御できるようになってきた。それにも増して、恥ずかしさのあまり布団で体を隠しているしぐさなど、いじらしくて仕方がない。
「まあ、いいじゃないか。今さら隠してもな……」
「おい!何を……うわぁぁぁ……ひ、卑怯だぞ、お前……」
毛布をめくり、一糸まとわぬアナスタシアを抱きしめる私。私に抱きしめられると、抵抗したくても抵抗できなくなるアナスタシア。柔らかい彼女の身体を、私はまるで抱き枕のように抱きしめる。動けないアナスタシアだが、口ではぎゃあぎゃあ言っているが、まんざらでもなさそうな感じだ。
こうしてしばらくじゃれあった後に、私はアナスタシアに言う。
「そうだ、アナスタシア。そろそろ、戦艦に着く頃だ。」
「な……なんでえ、戦艦って?」
「駆逐艦の補給基地の役目をしている船だ。この駆逐艦などよりはるかにでかい船で、中に街があるぞ。一緒に行かないか?」
「えっ!?街だって!?そりゃ楽しそうだな!おい、早速行くぞ!」
「いや、だからまだ着いてないって……」
「なんだおめえ!期待させておいてお預けかよ!ったく、そういうことは、着いてから言え!」
ほんと、自分の欲求に正直なアナスタシアだ。しかも気が短い。彼女らしいと言えばらしいな。だがその直後に、艦内放送が入る。
「達する、艦長のラーテンだ。これより当艦は、艦隊標準時、2200(ふたふたまるまる)に戦艦ティルビッツへと入港する。各員、戦艦への乗艦に備えよ。以上だ。」
もうまもなく、戦艦ティルビッツに入港する。私はベッドを降り、軍服に着替えた。
さて、アナスタシアだが、そういえば彼女はパジャマしかない。一旦部屋に戻らないと、普段着に着替えられない。
ということで、そそくさとパジャマに着替えるアナスタシア。枕も抱えて、部屋に戻るために扉を開けた。
「あ……」
が、タイミングの悪いことに、そこにはセレーナ少尉がいた。
「あの、クラウ……いや、アナスタシアさん。ここで一体、何を……」
「ああ、いや!戦艦に入港するって言うから、何のことかなあと思って、こいつのところへ聞きにきたんだよ!」
「……パジャマ姿で、しかも枕を抱えて?」
ああ、セレーナ少尉にはバレバレだな。もはやこれは、言い訳のしようがない。
「いやあ、慌ててたからさ、思わずこのまま来ちまったんだよ!ってか、なんでえ!枕抱えて歩いちゃいけないのかよ!!」
「い、いえ、そんなことはないですよ?」
最後はいつもの恫喝で、この場を乗り切ろうとするアナスタシア。
「と、とりあえずだ!出直してくるぜ!おい、レオン!また、あとでな!」
と言って、早足で自分の部屋へと戻るアナスタシア。
身なりを整えて出てきた私をチラッと見るセレーナ少尉、私の顔を一瞥して一言。
「……ケダモノが……」
随分と冷たい一言を投げかけるなぁ。だが、私だって一晩中、アナスタシアを落ち着かせるために奮闘していたんだぞ?さもなければ、あの魔術を放っていたかもしれないところだったんだぞ?その過程で、セレーナ少尉のいうケダモノっぽいことをしたに過ぎないんだ。私は、私の責務を全うしただけなんだ。私は、自分にそう言い聞かせる。
ということで、私はセレーナ少尉の言葉に特に応えることなく、彼女を横切りアナスタシアの部屋へと向かう。
そこに現れたのは、セレーナ少尉から借りた私服を着たアナスタシアだった。
いや、別にこの姿を見るのは初めてではない。この船に来て以来、クラウディアの時もアナスタシアの時も、この服を着ている。だが、上手く言えないが、いつもと違う。
……妙だな。アナスタシアって、こんなに可愛かったっけ?
「おい!どうした!?なんかぼーっとしてっぞ!」
「あ、ああ……大丈夫だ。そういえばもうすぐ入港だから、艦橋に行ってみるか。」
「なんでわざわざ艦橋に行かなきゃならねえんだよ!」
「いや、お前に戦艦の姿を見せておいた方がいいと思ってな。」
「はあ!?俺はそんなもの、興味ねえよ!そういうのは『クラウディア』の方が喜ぶんじゃないか?」
「そうだろうな。だが、今は『アナスタシア』だ。代わりに見ておいてやれ。」
「ちっ、めんどくせえな!」
同じ人物で、記憶も共有しているというのに、どうしてこうも性格が違うんだろうか?おそらく好奇心の強いクラウディアなら、喜んで艦橋に行きたがるシチュエーションだというのに。
ぶつぶつ言ってるアナスタシアを連れて、艦橋に向かう。エレベーターに乗り込むと、中にはセレーナ少尉がいた。
私は黙って乗り込む。私を睨みつけるセレーナ少尉。その雰囲気を察して、セレーナ少尉に声をかける。
「よお、セレーナ!なんだっておめえ、下から上がってきたんだ!?」
「私、主計科ですから。艦橋の照明がひとつ切れたって言われて、下の倉庫から電球を持ってきたんですよ。」
言っていることはごく普通の話だが、口調がアナスタシアですらたじろぐほどの不機嫌ぶりだ。どうしたというのか、セレーナ少尉よ?
「お、俺も艦橋に行くんだ!ちょうどよかったなぁ、おい!」
「すいませんね、一夜を共に過ごしたおふたりさんの邪魔をしてしまいまして。」
……露骨に言ってくれるなあ、セレーナ少尉。そういえば彼女はこの艦内でも、特に男嫌いで有名だ。だから、この手の話を嫌う。
「しょ……しょうがねえだろ!アナスタシアのまま夜を過ごしたのは初めてだったんだよ!もし油断して、魔術放っちまったら困るからさ、レオンに頼っただけなんだよ!」
「……なーんだ、やっぱりレオン少尉の部屋にいたんじゃないの。何よ、さっきはちょっと部屋に寄りました、って言ってたのに。嘘が下手ですねぇ、アナスタシアさん。」
「う、嘘じゃねえぞ!一晩なんて『ちょっと』じゃねえか!」
「その『ちょっと』の間に、何してたんですか!?」
「そりゃあおめえ、ベッドに入って、服を脱いでだなあ……」
言い訳というものがおよそ不可能なアナスタシア。昨夜の状況を、セレーナ少尉に馬鹿正直に克明に語ってしまう。考えてみれば、こいつの性格で「ごまかす」ということは期待できない。
「……なるほど。レオン少尉、これはやはり、問題ですね。」
「まあ、そうだけど……魔術を使われるよりはマシだろう。」
「いや、昨晩のことを言ってるわけじゃないんですよ。このまま『アナスタシア』でいることの方が問題だと言ってるんです!」
「そ、そうか?別に暴れてるわけじゃあないぞ?」
私は、自分でそう言いながらふと振り返る。そういえば、昨日からアナスタシアが妙におとなしくなった。なにせ、セレーナ少尉に押され気味なほどだ。前回の暴虐ぶりからは考えられない。どうしたというのだろう?
「なればこそじゃないですか!おとなしくなった彼女を見て、他の男どもがアナスタシアさんに群がるかもしれませんよ?その度に彼女が、さっきのように馬鹿正直に昨晩の出来事を話しちゃうかもしれないんですよ?それでいいんですか!?」
ああ、それは確かに問題だな。丸くなりすぎたアナスタシア。牙の抜かれた龍のようなアナスタシアは、わりと無防備だ。確かにこれは、あまりいいことではないな。
だが、エレベーターから降りて早速、寄り付いてくる男がいる。
「あれえ?クラウディアさんじゃないですか!レオン少尉ばかりでなく、たまには俺に付き合いませんか?」
ゲアト少尉だ。おとなしいアナスタシアを、クラウディアだと思っているらしい。だが、それを聞いたアナスタシアは、激怒する。
「なんだと!?よく見やがれ!俺はアナスタシアだ!!なんだおめえ、よく見ればこの間俺に抱きついてきやがったやつじゃねえか!!今ここで、おめえを消してやろうか!!」
「ひ、ひぇぇぇ!」
いつものように暴走してしまった。怒るアナスタシアを見て、慌てて逃げるゲアト少尉。あーあ、せっかく大人しくなったというのに、また私が止めなきゃならないのか?
「……ふん、だらしねえ男だ。」
ところが、どういうわけか逃げるゲアト少尉をそれ以上追わず、自制してしまったアナスタシア。てっきり私が抱きつかないと止まらないと思ってたのに、自分で踏みとどまった。
「ねえ、アナスタシアさん。」
「なんでえ、セレーナ!」
「あなた……やっぱりどこか変わったわね。」
「はあ!?何言ってやがるんだ!俺は変わっちゃいねえって!」
「そんなことないわよ。前回とは明らかに違うわ。自覚してないの!?」
「俺は別に変わったと思ってねえよ!ほれ、この通り、口調も性格もこの通りだしな!」
「そうかな……」
にやにやしながら、アナスタシアの顔を見つめるセレーナ少尉。
「やっぱりあれね!これは、レオン少尉の愛の力ってやつよね!」
「はぁ〜っ!?愛!?おめえ、何言ってんだ!?」
「よかったわねえ、こんな頼りない男の愛の力でも、あのアナスタシアさんがここまで変わるんだ!」
「ち、ちげえよ!俺はなんにも変わってねえって!」
いや、変わった。前回までなら、ここで激怒し、セレーナ少尉に向かって右手を向けているところだ。それが、顔を真っ赤にしてセレーナ少尉に反論するだけのアナスタシア。しかも、どちらかといえばセレーナ少尉に押され気味である。
まあ、愛の力かどうかは知らないが、変わったのは確かだ。
そんな話をしていると、艦橋へとたどり着く。皆は艦橋に現れたアナスタシアを警戒しているが、私は平然と彼女を連れて入る。セレーナ少尉は、黙々と電球の交換をしている。
すでに目の前の窓いっぱいに、大きな岩肌が広がっている。すでに戦艦ティルビッツ入港直前だった。
「第14番ドックまでの距離700!」
「両舷停止!」
「600前!」
「両舷減速!速力を40まで落とせ!」
「500前!」
灰色の岩肌の表面に建てられた2つの塔のようなドックに向かって、ゆっくりと近づく駆逐艦1521号艦。大きな船と聞いていたアナスタシアは、その外の岩肌を見て私に尋ねる。
「おい!岩しか見えないぞ!?船は、どこにあるんだ!」
「どこも何も、あの巨大な岩のようなものが船だ。全長はこの駆逐艦の10倍以上あり、全部で35隻の駆逐艦を繋留可能な船、それがこの戦艦ティルビッツだ。」
「はぁ〜っ!これが船かよ……しっかし、妙な形だなあ!」
「小惑星をほぼそのまま船体として使用しているから、こういう姿になっている。」
「なんだぁ、その小惑星っていうのは?」
「宇宙に浮かぶ、岩のような天体だ。ほら、あそこにも浮いているだろう?」
ちょうど上の方に、小惑星が見えた。全長は10キロほどの中型サイズの小惑星。
そう、この辺りは小惑星帯のため、周囲には無数の小惑星が浮かんでいる。
いや、それどころか、小惑星以外のものも、アナスタシアは目にする。
ここには、艦隊主力が集結している場所。全部で1万隻の艦隊のほぼ大多数が、ここで待機している。それは、不意に攻めてくることが多い連盟艦隊の侵攻に備えるためだ。
このため、周りを見渡すと無数の駆逐艦がいる。唖然とした顔で、そのたくさんの駆逐艦群を見るアナスタシア。
「なんだおい……この周りは駆逐艦だらけだぞ!?一体、どうなってんだ!?」
「どうなってるも何も、クラウディアの時に聞いているだろう。ここには1万隻の艦隊が集結しているって。」
「えっ!?あ、そういえばそんなことを言ってたっけか……」
一応、クラウディアには我々の艦隊のことを説明してはいるが、アナスタシアは興味がないらしく、言われて思い出す。
だが、話に聞くのと実際に目にするのとではわけが違う。下に広がる戦艦、周りに広がる無数の駆逐艦を交互に見るアナスタシア。こういうものに興味がないという彼女でも、さすがに窓の外にいる数百、数千の艦艇が並ぶこの光景には、目を奪われざるを得ない。
やがて、2つの塔の間に我が駆逐艦が突っ込む。ガシャンという金属音と共に、船体が固定される。
「前後繋留ロック結合よし!艦固定、入港完了しました!」
「機関停止!各種センサーも停止!戦艦との通路接続を確認せよ!」
「現在、通路接続中……今、接続が完了!」
「よし、艦内マイク!」
艦長が、再び艦内放送を流す。
「達する。艦長のラーテンだ。戦艦ティルビッツとの接続完了、司令部より、ティルビッツへの乗艦許可も下りた。現時刻、艦隊標準時2200(ふたふたまるまる)を持って、戦艦への移乗を許可する。なお、帰還時刻は翌0900(まるきゅうまるまる)、30分前までには駆逐艦内に帰還するよう。以上だ。」
この放送を聞いて、艦橋内の皆が立ち上がる。私もアナスタシアを連れて戦艦へと向かおうとした。
が、そこで艦長に呼び止められる。
「レオン少尉!」
「はっ!」
「戦艦ティルビッツの中にある、射撃演習場の使用許可をもらっておいた。」
「は?射撃演習場ですか?」
「ホテルの反対側、街のすぐ外れにある通路から行ける、中規模演習場だ。」
「はあ、でも、それが何か?」
「そこならば、アナスタシア殿に魔術を使わせて、元に戻せるだろう。」
「あ……そういうことですか。」
「艦隊標準時、翌0200に演習場へ向かえ。『魔術』の解析のため、技術武官も立ち会うとのことだ。」
「はっ!承知しました!」
艦長に敬礼し、私はアナスタシアを連れて艦橋を出る。
「なあ、さっき艦長の言ってた演習場ってなんだ?」
「ああ、銃の射撃訓練をする場所だよ。」
「銃?」
「あれ、そういえばお前、我々の武器のこと、知らなかったか?ちょうどお前が使う魔術のようなものを放つことができる武器があるんだ。」
「はあ!?なんだそれ、そんなものがあるのか!?」
「クラウディアの時に、広報官から聞かなかったか?」
「ああ、そういやあそんなこと言ってたっけな。でも俺は、そういうのに興味ねえからな。」
せっかく記憶を共有してても、人格次第では意味がないようだな。なんというややこしい仕組みなんだ、彼女は。
で、戦艦に入る通路を抜けて、戦艦内に入る。広い場所に出て、その先にある艦内鉄道へと向かう。
「なんだここは?何にもねえぞ!」
「いや、ここはまだドックの下だ。あそこから電車に乗って、街のあるところまで移動するんだ。」
「なんだ、下りたらすぐに街があるわけじゃねえのか!ったく、不便だなあ!」
文句たらたらのアナスタシア。しかしまあ、それでも前回を思えば、随分と自制できている方だ。
これなら、このままアナスタシアのままでもいいかな。魔術さえ使わなければ、さばさばしてて、私としては付き合いやすい。
それに、どういうわけか、今はアナスタシアがとても魅力的に見える。
やはり、昨晩一緒に寝たのがいけなかったのだろうか?私の中で、クラウディアよりもアナスタシアの方がいいと思い始めている。
だが、あと4時間ほどで、射撃演習場に向かう。
そうなれば、クラウディアに戻ってしまうのか……ならばせめてそれまでの間、アナスタシアには出来るだけ楽しんでもらおう。
電車が駅に入ってきた。ドアが開き、一斉に中に乗りこむ。
狭い電車内で文句を言いながらも、比較的おとなしく電車に乗るアナスタシア。3駅ほどで、目的の駅に到着した。
「うわぁ……なんだ、ここは!?」
駅を降りて、戦艦内の街を目の当たりにするアナスタシア。
400メートル四方、高さ150メートルにくり抜かれた空間に作られた、4層構造のごく普通の艦内の街を、彼女は唖然とした顔で見上げている。
「お、おい!これが街か!?なんだこりゃ、王都よりもすげえじゃねえか!」
「さすがに王国の城塞都市よりは狭いぞ。だからこの街は縦方向に積み上げて、面積を稼いでいるんだ。ここには2万人近い民間人が住んでいて、あちこちに店がある。」
「うわぁ……ほんとだ!店がいっぱいあるぞ!」
「というわけだ。お前、どこに行きたい?」
「どこって……そうだなあ、俺は食い物が食いたい!」
「分かった。いい店がある。行こうか。」
そういえば、朝食がまだだったな。私はアナスタシアを連れて、あるファミレスに入る。
手元のテーブルに表示されたメニューを見て、迷うアナスタシア。駆逐艦の食堂のメニューと同じような仕組みだが、見たことがない食べ物がたくさんある。
「おい、この赤と白の妙な食べ物はなんだ!?」
「ああ、それはパフェだ。食後にでも食べようか。」
「えっ!?これ、食えるのか!?」
「女性には定番のスイーツだ。きっとお前も気にいるはずだ。じゃあまず、このトーストセットでも頼んで、あとでこのパフェを注文しよう。」
と言って、まずトーストを頼んで食べる。
まあ、これはこれで美味いと言っていたが、次に現れたパフェには、さすがのアナスタシアも一瞬、たじろいだ。
届いたのは、赤と白のストロベリーパフェ。明るい赤色の部分が、食べ物の色とは思えないのだろう。恐る恐るスプーンを入れるその姿が、なんとも可愛らしい。
だが、一口食べて、理解したようだ。
「なんだこれ……う、美味えじゃねえか、ちくしょう!」
「なんだ、ちくしょうって。」
「こんなことなら、トーストやめてこっちを2つ食っとけばよかったと思ってよ!」
「ああ、そういうことか。」
ばくばくとパフェを食べるアナスタシア。しかし、まるで掻き込むように食べたため、あっという間になくなった。
で、こちらをジーッと見る。
「なんだ。」
「いや……おめえのも美味そうかな、なんて思ってよ。」
私はブルーベリーパフェを頼んだ。アナスタシア的にはさらに食べ物らしからぬ色だったため、出てきた当初は見向きもしなかったが、ストロベリーパフェを乗り越えて、今度はこちらにも興味を示してしまった。虎視眈々と私のパフェを狙うアナスタシア。
「……しょうがねえな。ちょっとくらいなら、取ってもいいぞ。」
「やったぜ!じゃあ、ちょっとだけもらうぜ!」
と言って、遠慮なくスプーンを突っ込んでくるアナスタシア。おい、どこがちょっとだ。気づけば半分ほどをアナスタシアに奪われてしまった。
「ああ〜、食った食った!じゃあ次はどこ行こうか!?」
満足気なアナスタシアだ。うーん、まだ時間はあるな。どこ行こうか?
そういえば、アナスタシアって何が好きなんだ?
思えば、クラウディアの方が付き合いが長い。アナスタシアは話しやすい性格とはいえ、付き合いが短い。このため、彼女の好みが分からない。とりあえず、彼女を連れてあちこちの店を覗いてみることにした。
少し歩くと、ある店の前で立ち止まる。
そこは服屋。ガラス張りの店の奥には、真っ赤なワンピースがあった。
どうやら、それをジーッと見つめているアナスタシア。
「へえ、お前、あんな服が着たいのか?」
「ば、馬鹿!あんな女っぽい服が、お、俺に似合うわけないだろう!」
「そうか?別に買ってやってもいいんだぞ?」
「えっ!?ほんとか……って、いや、だがなぁ……」
「ごちゃごちゃ言ってる暇はないぞ!あと1時間で射撃演習場に行かなきゃいけないんだ。さ、入るぞ!」
「ええ〜っ!?おい!ちょっと……」
私はアナスタシアの手を引いて、店内に入る。
「いらっしゃいませ。」
「ああ、こいつにあのワンピースを着せてやりたいんだが。」
「へ?あ、はい、どうぞ。」
いきなり「こいつ」呼ばわりする相方を連れて入ってきた軍人を、奇妙な目で見つつもそのワンピースを選ぶ店員さん。
「おい、いいのかよ!あれ結構高いんじゃねえか!?」
「いや、そうでもない。ごく普通の値段だ。他にはいいのか?」
「ああ、じゃあ、あの赤の服も、気になる……」
「分かった。」
そう言って、別の赤い服も買う私。結局、3着ほど買った上で、最初に選んだワンピースを着せてもらい外に出る。
真っ赤なワンピース姿のアナスタシア。どうやらこいつ、赤い服が好きなようだ。買ったのは皆、赤い色の服だった。
「なあ、やっぱり似合わねえだろ。」
「いや、そんなことないぞ?いいんじゃないか、赤いワンピースも。」
「そ、そうか!?で、でもこうして歩いてると、おめえ、迷惑じゃないのか?」
「なぜだ?」
「いやあ、こんな横暴な女が横にいてよ、平気なのかよ……」
「そうか、お前、可愛いぞ。」
「か、可愛い……」
ワンピースと同じくらい赤くなってしまったアナスタシアの顔。うーん、ちょっと褒めすぎたかな?
「あ、そういえばもう、演習場に行かなきゃ。」
「そ、そうだったな。さ、行こうぜ!」
「ああ……」
なぜだろうか?正直私は、あまり乗り気ではない。
このまま、アナスタシアでいる方が、いいんじゃないか?私は心の片隅で、そう感じていた。




