#2 二重人格の勘当令嬢
「あの……もうちょっと冷静になりませんか?」
「うるさい!今、俺はすこぶる機嫌が悪いんだ!ぶっ殺してやるから、覚悟しろ!」
私はこの時、彼女のことを見くびっていた。
いくらなんでも、剣すら持たないドレス姿の女性。それに対して、軍事訓練を受け、それなりの体術を持つ私が負けるわけがない。この時は、そう考えていた。もしかかってきても、簡単に返り討ちにできる、と。
だが、それはとんでもない思い違いだった。私の目の前で、信じられない現象が起こる。
なんと、彼女の右手のひらが突然、青白く光り始める。その光は、手のひらの中でどんどんと大きくなる。
私は、直感で悟る。まずい……これは、どうみてもやばいやつだ。
そして、その右手を私に向ける。
その瞬間、とっさに私はその場に伏せる。間髪入れず、頭上をまるでビームのような光の筋が通り過ぎる。
私の頭上を通過したその青白いビーム筋は、林の中の一本の太い木に着弾する。ドーンと言う猛烈な爆音とともに、あっけなくその太い木は粉々に吹き飛んだ。
ひええ……なんだこれは。こんなの聞いてないぞ。なんてやつだ。
まさかと思うがこの星には、ビーム兵器が実用化されていたのか!?いや、そんなはずはない。ありえない。だいたいビーム兵器なんてものが実用化されていたら、城塞都市なんて築く意味がない。
ところが、アナスタシアと名乗るその女は、ふらふらし始める。
「く、くそっ……外したか……」
悔しそうにそう言いながら、その場にバタンと倒れるアナスタシア。
たった今、私の目の前で起きたことが、まだ信じられない。だが、あれは明らかにビーム兵器だった。後頭部と背中が、さっきのビームの熱によってまだ暖かい。
油断していた。完全に私は、油断をしていた。こんなことなら、バリアを展開すればよかった。
間一髪、避けられたからよかったものの、とんでもない兵器の登場に、私はビビってなかなか立ち上がれない。
だが、さっきの女性は倒れたままだ。
おかしい。ピクリとも動かない。
いや、罠の可能性もある。私が心配して近づいたところを、再びあのビーム兵器を放ってくる可能性がある。
ほふく前進をするように、私は伏せたままその女性に近づいた。
そして、そっと顔を見る。すっかり気絶している……ように見えるな。
彼女の右手を見る。てっきり銃でも仕込んでいるかと思ったが、何もついていない。どういうことだ?
私は、恐る恐る彼女の頬を叩く。
まるで反応がない。こりゃまずい。私は彼女を抱え、声をかける。
「おい!しっかりしろ!大丈夫か!?」
すると、彼女はゆっくりと目を覚ます。まだ虚ろな表情だが、私に問いかける。
「あの……あなたは、誰ですか?」
……なんだ?さっきとはまるで違う口調で話しかけてきた。
「ええと、私はレオン少尉と申します、アナスタシアさん。」
ところが、驚いたことに彼女はこう応える。
「いいえ、私の名はクラウディアです。」
「は?クラウディア……さん?」
「はい。」
なんだって?さっきと違うことを言い出した。どうしたというのだ、おかしくなったのか?
「でもさっきあなた、自分をアナスタシアだと……」
「ああ、あれは私の裏の顔です。私の本当の名は、クラウディア。オルレアンス公爵家の長女、クラウディア……でした。」
なんだと、公爵令嬢だと?確かにこの身なりは、いかにもご令嬢といった風貌だ。
今度は「クラウディア」を名乗るこのご令嬢、言葉遣いも、さすが公爵令嬢と言うだけあって、とても品のいい口調である。外観とも一致している。
だが、彼女はさっき、私に向かってビームを放ってきたやつだぞ?しかし、今の彼女からはあの殺意のようなものはまったく感じられない。もしかしてあれは、夢だったのか?
いや、そんなことはない。まだ背中が暖かい。あれは紛れもなく現実に起きたことだった。
「ええと、クラウディアさん。あなたには尋ねたいことがいくつかあるのですが。」
「はい。」
「こんな林の真っ只中ではなんですから、私の哨戒機に来ませんか?」
「え、ええ……分かりました。」
私は立ち上がり、手を差し伸べる。その手を取って立ち上がるクラウディアさん。
そのクラウディアさんの手を引いて、私は哨戒機へと向かう。そして、ハッチを開いた。
だが、ハッチを前にして、彼女は立ち止まる。
「あ、あの、私……」
「どうしました?」
「……このまま、死出の旅に出るのでしょうか?」
「は?」
物騒なことを言い出すな、この人。いや、さっきの「アナスタシア」も物騒だったが、それとは違った意味で物騒だ。どうしてここで「死」などという言葉が出てくるのだろうか?
「あの、クラウディアさん、どういうことですか?」
「この崖の下は、昔から死者の国の入り口と言われていた場所。ということは、ここに現れたあなたは、私を迎えに来た死神なのではないですか?」
「いや、そんなわけないですよ!私は、れっきとした生きた人間です!それにこれは、空を飛ぶための乗り物であって、死者の国に行くためのものじゃありませんよ!」
「はあ……そうですか。」
なんだか、うっすらと涙を浮かべている。さっきまでのあの強気な態度は何処へやら。見るからに、気弱な女性そのものだ。
そういえばさっき、アナスタシアは裏の顔の名前だと言っていたな。あの強気の性格が「裏の顔」とはどういうことなのか?
いや、それ以上に気になるのは、なぜ貴族のご令嬢がドレスを着たままこんな真夜中に、こんなところをうろついているのか?
しかも、自分自身で言っている。ここは死者の国の入り口、だと。
そんな場所にたった1人で、公爵家の令嬢が歩いている。
どう考えたって、普通じゃない。
いや、そもそも右手からビームを放つこと自体が普通じゃ……ああ、もう!どこから聞けばいいんだ?
そんなクラウディアさんを連れて、哨戒機内に入る。とりあえず、私はペットボトルの水を出し、キャップを開けて渡す。
「あの、ただの水ですけど、飲みますか?ちょっと衰弱しているようですし……」
そのペットボトルを開けて渡す私。見たこともない透明なペットボトルの容器を不思議そうに見ていたが、中の水を飲むクラウディアさん。半分ほどを一気に飲み、突然泣き出す。
「う、うう……」
「ど、どうしたんですか、クラウディアさん!」
「ご、ごめんなさい……急に、さっきのことを思い出したものですから……」
「さっきのことって、あのアナスタシアさんのことですか?」
「いえ、それよりも、もっとちょっと前の出来事です……」
何か事情がありそうだ。私は尋ねる。
「あの、何があったんですか?そもそも、公爵のご令嬢がこんな真夜中にたった1人で歩いているなんて、どう考えても普通じゃないですよね。」
「はい……おっしゃるとおりです。実は私、つい先ほど……公爵家を勘当されたんです。」
「は?勘当!?」
「はい……」
突然、貴族にとっては超ネガティブワードが飛び出した。勘当、つまり、公爵家を追い出されたということか?
「どう言うことです?もしかして、さっきのあの『アナスタシア』という裏の顔のせいですか!?」
「いえ……アナスタシアは関係ありません。実は今宵、社交界があり、そこで私はとんでもないことをしでかしてしまいまして……」
「とんでもないことって、何をしたんです?」
あのアナスタシアの振る舞い以上のとんでもないことがあるのか?するとクラウディアさんから出たのは、政治的な話だった。
「実はその日の社交界で、民から『人頭税』を取ることが発表されたのです。」
「人頭税?なんですか、それは?」
「一人一人にかける税金のこと、一言で言えば、生きている人間すべてにかける税金。早い話が、増税をすると宣言したのです。私のいるポールトゥギス王国は最近、近隣諸国に対し戦さを仕掛け続けており、周辺国を次々に併合しているんです。さらに、飢饉による税収の減少が続いています。そこで、戦費調達と我々の生活維持のため、陛下が増税をすると宣言したのです。」
「はあ……」
「ところが、民はすでに戦争により疲弊し、地方では飢餓が深刻になり、餓死者まで出ていると聞きます。そんな状況での増税の決定。そこで私はつい、国王陛下に進言したのです。このままでは、国が滅ぶと。」
なんでも、彼女のいたポールトゥギス王国は270年前に、前王朝を滅ぼして建国された王国だそうだ。
当時の王朝もまさに戦さに明け暮れ、同じように増税を繰り返した。その結果、ある公爵家を中心に反乱が起こり、その王朝は滅んだそうだ。
その時の公爵家が、今の王族なのだという。だが今、その王族が当時と全く同じことを繰り返している。
歴史は繰り返す、そう感じた彼女は、つい国王陛下に進言してしまったらしい。
まあ、話だけ聞けば、正しい行為であったのは間違いない。だがこの国では、いくら公爵令嬢でも女が政治に口を出すと言うこと自体が不敬に当たるとされており、その結果、彼女は有無を言わさず社交界の会場を追い出されてしまった。
そのままオルレアンス家の馬車に乗せられて、この林のただ中で降ろされる。そして彼女の父親は、彼女に辛辣な言葉を投げかけたという。
「お父様は馬車から降りた私に言いました。『もはやお前は、オルレアンス家のものではない、ただいまよりお前は貴族ではなく、一平民階級の女だ。だがもし、お前が公爵家の血筋を引くものとしての誇りがあるのであれば、この先にあるという死者の国の入り口にて、潔く死を選べ』……と。」
そしてそのまま馬車は立ち去り。彼女はこの林に取り残されたという。
そりゃあ、泣けてしまうのは当然だ。国王に正論を述べたがゆえに、父親から住む場所も身分も取り上げられ死を選べと言われたら、絶望にくれる他ないだろう。
そこで、いっそ崖から飛び降りようとしたその時に、彼女は「アナスタシア」になったのだという。
「……それなんですけど、何なのですか、その『アナスタシア』というのは?」
「昔から私は、感情の乱れに襲われた時に、『アナスタシア』というもう一つの人格が現れるんです。」
「えっ!?もう一つの人格!?」
「はい……それが先ほど、あなたが接した、あのアナスタシアという名の魔女です。」
「えっ!?魔女!?」
「はい。魔女アナスタシア。わが国に広く知られる童話に描かれた、圧倒的な強さを誇る架空の魔女の名前です。もう1人の私は、なぜかその魔女の名を語るのです。」
「あの……ということは、もしかしてさっきのあれは、魔法か何かなんですか?」
「はい、粉砕魔術です。その童話にも描かれていますが、青白い光を放ってあらゆるものを粉砕する魔術なんです。」
「ええと……次から次へと聞きたいことが出てくるんですが、クラウディアさん自身は魔女ではないのですか?」
「はい、魔女や魔術なんてもの、この世にあろうはずがないではありませんか。」
魔術を放った本人が、魔女の存在をきっぱりと否定しやがった。おかしなことを言う。
「でもあなた、さっきアナスタシアの魔術って話を……」
「そうなんです、とても不思議なことなのですが、私は『アナスタシア』になった時だけ、あの魔術が使えるんです。ただ……」
「ただ、なんです?」
「その魔術を使うことで、私は元に戻るんです。」
「そ、そうなんですか……ってことは、今までにも同じことが何度かあったんです!?」
「はい。いつの頃からか、こういう体質になっちゃいまして……」
「で、でもそれじゃあ、いつもはどうしてたんですか!?」
「いつもは、我がオルレアンス家の庭で魔術を放って、元に戻っていたんです。貴族の屋敷街の真っ只中で、ちょっと大きな音が出ますが、あれは何かの祝いで騒いだなどということにして、毎回ごまかしてたんです。」
あんなビーム砲をぶっ放せるほど広い庭を持ったお屋敷に住んでいるとは、相当裕福な貴族のご令嬢だな。いや、勘当された今は、元令嬢か?
聞けば、階段で転んだり、騎士団の訪問を聞かされずにいきなり鎧をまとった大勢の騎士に出くわすなどして、心に衝動が走るたびに「アナスタシア」になってしまったのだという。
で、その度に庭であの魔術、つまりビームを放っては、元に戻っていたわけだ。
だが、彼女は勘当されてしまった。夜道に一人放り出されて、辛辣な父親の言葉と闇の中に取り残された恐怖から、彼女は「アナスタシア」になってしまった。
で、たまたまそこに現れた私と出会い、その怒りをぶつけてきた、というわけのようだ。
「ちなみに私は一度アナスタシアになると、少なくとも一晩はアナスタシアはならないんです。」
「そ、そうなんですか!?でも、なぜ?」
「やはり、あれだけの魔術を放つからでしょうか?上手く言えませんが、私の中の魔力の補充に時間がかかるみたいで、立て続けは無理なようです。」
うーん、そりゃあそうだろうな。あれだけの魔術を放つやつに、そう簡単になってもらっても困る。
「……ところで、クラウディアさん。このあと、どうされるおつもりですか?」
ふと私は、クラウディアさんに聞く。すると彼女はまた泣き始める。
「うう……私がつい進言したばかりに、こんなことになってしまって……」
相当ショックなようだな。そりゃそうだろう。この先、帰る当てもなさそうだし、途方にくれて当然だ。
「あの、クラウディアさん。もしよろしければ、我々が保護いたしましょうか?」
「えっ!?保護、ですか?それは一体、どういうことです?」
「困窮した1人の民間人を放置したとなれば、民間人を守るべき我々軍隊にとっては大問題です。それにあなたはこの国の貴族だったお方、となれば、この国の支配者や慣習に関する情報を持つ貴重な人物ということになります。我々なりに、衣食住の保障は致しますし、クラウディアさんからは我々にこの国の情報を提供していただく。お互いにとって、これは悪い話ではないと思いますが。」
それを聞いて、クラウディアさんは私をジーッと見つめながら、少し考える。が、結論は、自ずと出てしまう。
「……ここに置いていかれても、私はただ死を待つのみ。あなた方のお役に立てるのでしたら、私は喜んでついて参ります。」
少し笑みを浮かべて応えるクラウディアさん。さすがはご令嬢、賢明な判断だ。初見の際の、あの暴力的な人格とはまるで違う。
にしてもだ、どうしてこんなに清楚な人から、あんな横暴な人格が生まれてしまったのだろう?だが、それをここで尋ねるのは無粋というものだ。
彼女を哨戒機の助手席に乗せて、離陸準備をする私。無線機で駆逐艦1521号艦に連絡する。
「1番機より1521号艦!地上にて、民間人1名を保護!乗艦許可を願います!」
「1521号艦より1番機!艦長へ報告する、しばし待機せよ!」
無線が切れる。艦長の判断を仰ぐとなると、しばらくかかりそうだ。私は横に座る元公爵令嬢とともに、ただじっと待っていた。
そこで、私はふと考えてみる。
二重人格というのは、かなり強い精神的ストレスから生まれると言われている。
このクラウディアさんを見ていると、公爵令嬢にふさわしい淑女として育てられたことがよく分かる。
だがそうなると当然、我慢していることも多いのではないか?理想的な令嬢としてふるまうということは、とてもストレスのかかることだ。ましてや公爵令嬢ともなると、そのストレスは相当なものだろう。
さらっと王国の歴史の話が出てくるくらい、彼女は様々なことを学んでいるようだ。その上で令嬢としての作法まで習わされていたはず。その結果、過度のストレスがたまり、それとは真逆の人格が現れた。そう考えるのが、妥当だろう。
もう少し自由な環境で育っていれば、もしかしたらもう一つの人格は現れなかったかもしれない。
童話に出てくる架空の魔女アナスタシアになりきっているというのが、何よりもその証拠かもしれない。多分彼女にとって、その童話に出てくる魔女は憧れだったのだろう。だから、もう一つの人格は「アナスタシア」と名乗ったのだ。
にしてもだ、二重人格だけでなく、魔術まで会得するとは、一体どういうことなんだろうか?
だが、それを今、彼女に問うのも酷な話だろう。勘当され、身分を奪われ、行くあてもなくすっかり沈んでいる。しかも、これからどこに行くのかわからない。これはこれで相当なストレスなはずだ。
彼女が言うには、少なくとも一晩は「アナスタシア」にはならないらしい。でなければ、今の彼女の心情は今すぐにでも「アナスタシア」になりかねない条件が揃っている。見ず知らずの男と2人きり、しかも、空を飛ぶ哨戒機の中に乗せられている。さりとて、帰るところもない。かつてないストレスがかかっているはずだ。
私は、クラウディアさんに声をかける。
「大丈夫ですよ。我が艦は狭いですけど、この星よりも進んだ文明を持つ星から来た船ですから、それなりに充実した生活を歩めるはずです。」
「星?星って、あの空に浮かぶ星から、あなたは来たのですか?」
「はい、そうですよ。」
「……では、やはり天国、つまり死者の国から参られたのでは……」
「あの、星の世界は死者の国などないですよ。この空に輝く星は、あくまでも現世の世界の一部なのです。そこには生きている人間が住む星が、800余もあるのですから。」
「ええっ!?800もの人の住む星というのが、この空にあるというのですか!?」
「はい、そうですよ。我々はその一つ、地球655という星から来たんです。」
「そ、そうなのですか……星の世界から来たと聞いて、つい天国からの迎えかと思ってしまい……」
納得したのかどうかは分からないが、ともかく我々は天国などから来たわけでないことを説く。そんなやりとりをしているうちに、駆逐艦から連絡が入る。
「1521号艦から1番機。貴官から申し出ていた民間人の保護について、艦長から許可が下りた。直ちに帰投せよ。」
「1番機より1521号艦!了解、直ちに帰投する!」
しかしこの元公爵令嬢は、好奇心は旺盛なようだ。さっきから私が使っている無線に、興味津々だ。
「なんですか、これは?さっきから、レオン殿とは別の声がするのですが……」
「ああ、これは無線機と言って、遠くの人と話をするための仕掛けなんですよ。」
「ムセンキ?遠くの人と話せる?不思議な道具なのですか。それって、どんな魔術なのです?」
まあ、この星の人から見れば、無線だけでなく我々の持つ道具は魔術のようなものばかりだろうな。「極度に発達した科学は、魔法と見分けがつかない」と、とある星の有名な作家の言葉にもある。
「哨戒機1番機!これより離陸する!機関始動!」
私は号令をかけ、スロットルレバーをゆっくりと引く。
ヒィーンという音とともに、機関の出力が徐々に上がる。奇妙な音に、不安げな表情を隠せないクラウディアさん。
私はレバーを引く。哨戒機が、宙に浮かび始める。窓の外の風景が、徐々に離れていくのを見るクラウディアさん。
そのまま上昇し、真っ暗闇の中を飛び始める哨戒機。窓の外から見える、彼女の住んでいたであろう城塞都市の辺りには、松明の灯りがちらほらと見える。それを見て寂しげな表情をするクラウディアさん。そうだよな……彼女はつい昨日までは、あそこで何不自由なく暮らしていたのだから。
やがて灯りは小さくなり、やがて見えなくなる。
その代わりに、星空に混じってチカチカと航空灯を点滅させる物体に接近する。
ここは高度2万メートル。あの光を出しているのは、駆逐艦1521号艦だ。
「1番機より1521号艦!アプローチに入る、着艦許可を!」
「1521号艦より1番機!着艦許可了承!ハッチ開く!」
ゆっくりとハッチが開く。その開いたハッチに向かって飛ぶこの哨戒機。その様子を、窓から眺めるクラウディアさん。
空中に現れた、この謎の物体を見て、彼女は何を思っているのか?黙ってその様子を見ているが、不安なのは間違いない。
こうして、彼女は我が艦に搭乗することになった。
これが、我が駆逐艦1521号艦にとっての騒ぎの元となろうとは、このときは乗員の誰もが思わなかった。