#10 クーデター
「おい、おめえら!オルレアンス家の騎士団だろう!」
アナスタシアが叫ぶ。その声を聞いた騎士の1人が、叫ぶ。
「……その声はもしや、クラウディア様……か?」
「そうだ!今は、アナスタシアだ!」
どうやら、こいつのことを知っている相手のようだ。やはり本当にオルレアンス家の騎士達だ。
「おい!おめえら、こんなところで何やってるんだ!」
だが、騎士達は応えない。剣を向けたまま、こちらを牽制している。
ジリジリと寄せてくる騎士達。まずいな……私は、腰の銃を握りしめる。
だが、先に撃ったのはアナスタシアだった。
「何か企んでいやがるな!これより先には、お前らを行かせねえ!」
アナスタシアの右手が光る。それを見た騎士達は、後ろに下がる。
「おい!馬鹿!そんなもの放ったら……」
私が制止しようとするが、アナスタシアの魔術は放たれた。
青白い光の筋が、すっかり暗くなったこの辺りを照らしながら伸びる。そして、着弾する。
が、その場所は騎士達の手前。地面に当たって、大爆発を起こす。
その衝撃で、数人の騎士が後ろに飛ばされる。こちらにも爆風が届く。
その風にあおられるように、アナスタシアは後ろに倒れる。私はそれを、受け止める。
それにしても、こんなところで撃つやつがあるか。こいつが撃てるのは1発だけ。そんな魔術を牽制に使ったって、役には立たない。
相手も「アナスタシア」のことは知っているようだ。2発目は来ない。それを知って、再びジリジリと詰めてくる。
私の手の中で、クラウディアが目覚める。
「あ……私……」
「立てるか?」
「はい。」
「では、哨戒機に乗り込め。私もすぐに行く。」
「いや、そんな……あなたを置いてなんて……」
「大丈夫だ。こっちには武器がある。」
だが、向こうから叫ぶ声が聞こえる。
「クラウディアか!?」
その声を聞いたクラウディアはビクッとする。そして、その声に応える。
「お、お父様……」
暗がりの向こう側、騎士のすぐ後ろから、立派な甲冑を着た人物が現れる。
あれが、クラウディアの父親の、オルレアンス公爵か。
「やはりな。お前だったか。まさか、まだ生きていたとはな。」
「お父様こそ、何をなさっているんです!」
「決まっている。270年前の、再来を企てているのだ。」
それを聞いたクラウディアは、激情する。
「それは、お父様が王国を乗っ取るとおっしゃるのですか!」
「そうだ。この国は、まさに270年前と同じ状況。増税によって民は苦しみ、畑は荒れ、多くの者は飢餓によって死に瀕している。今、誰かが正さねばならないのだ!」
「そ、そんなことをすれば、また人が死にます!企てがうまくいけば陛下一族が、失敗すればオルレアンス家一族の血が、流されます!」
「そんなことは元より承知の上だ!私とて、お前を死に追いやらねばならなくなった時に、覚悟を決めた!自分の娘の命を差し出さねばならないような王国などに、なんの未練もない!」
クラウディアとオルレアンス公とのやりとりが続く。そこに、私は割って入る。
「私は地球655遠征艦隊、駆逐艦1521号艦所属のパイロット、レオン少尉と申します。我々の立場としては、これより先にあなた方を進めるわけには参りません!」
それを聞いたオルレアンス公は応える。
「宇宙から来たという者か……そうか、お前達がクラウディアを……」
「はい、私が助けました。」
「ならば、我々を通してはもらえぬか!?我々は、この国を変えねばならない!」
「それはできません!我々の連合軍規、第53条に、地上での争乱に介入し、これを阻止せよという文言があります!あなた方の目的が軍事行動である以上、我が軍はそれを阻止する義務があります!」
「そうか……致し方ない。ならば我らはそなたらを倒してでも、ここを通らねばならない!」
騎士達が再び、剣を向ける。アナスタシアの魔術はもうない。私も剣を持っているわけではない。剣を構えて、少しづつ迫る騎士達。
「れ、レオンさん!哨戒機に乗って、逃げてください!」
「そうはいかないよ、クラウディア。我々は彼らに、戦いを諦めさせる義務があるんだ。」
「で、でも、あの数の騎士を相手になど……」
「なあに、魔術を使えるのは、アナスタシアだけじゃないよ。」
そう言って、私は銃を取り出す。それを騎士達に向ける。
私から「魔術」という言葉を聞いた騎士達は、警戒して少し後ろに下がる。そして、盾を並べて密集隊形で構える騎士達。
その騎士達の前めがけて、銃を放った。
最大出力で、銃が放たれる。
アナスタシアの放った魔術によるものよりもさらに大きな爆発が、騎士達の前で起こる。
ドーンという音とともに、地面で大爆発が起きる。その爆風で、盾ごと後ろに吹き飛ばされる騎士達。爆風はこちらにもやってくる。私はその爆風からクラウディアをかばうため、クラウディアを抱き寄せた。
その間に、銃のエネルギーパックを交換する。最大出力で撃ったため、一撃で空になってしまったからだ。
「クラウディア、もう1発、威嚇で撃つ。また同様の爆風が起こるから、このまま私の後ろに。」
「は、はい!」
騎士達は、アナスタシアのように私は1発しか撃てないと考えているかもしれない。だから、さらにもう一発撃つ。
先ほど打った場所とは少し横の地面に向けて撃つ。再び着弾し、大爆発を起こす。彼らにとって予想外の2発目の爆風を受けて、騎士達がバタバタと後ろに倒れる。
3発目のエネルギーパックを装填するが、このままではあと3発しか撃てない。私はエネルギーパックを5つしか持っていない。私はゲアト少尉に向かって叫ぶ。
「ゲアト少尉!威嚇射撃!」
「えっ!?威嚇射撃って、どこに向かって……」
「空にでも向けて撃ってください!早く!」
哨戒機にもエネルギー砲は搭載されている。もちろん、私の持っている銃など比較にならないほど、強力なやつだ。
ゲアト少尉は、それを空に向かって放つ。ズズーンという腹に響く音とともに、明らかに私の銃よりも太い青白いビームの筋が空中を横切る。
2発の威嚇射撃、そしてこの強力な一筋の光で、彼らは悟った。
騎士団では到底、我々には敵わないと。
私は、彼らに向かって叫ぶ。
「たった一機の哨戒機で、これだけの威力があるんです!すでに艦隊に連絡済みであり、10機以上の哨戒機がここに向かっているはずです!あなた方には、勝ち目などありませんよ!」
それを聞いてたじろぐ騎士達。だが、私は続ける。
「しかし、我々もただあなた方に軍勢を引いてくれとは言いません!我々も、約束します!」
爆風で倒されたオルレアンス公が立ち上がるのが見える。立ち上がったオルレアンス公は、私に尋ねる。
「なんだ、約束とは!」
「あなた方が反乱を起こす理由を、無くしてごらんにいれます!」
「どういうことだ!?」
「簡単ですよ、戦争をやめさせて、増税をなくし、人々が安定した暮らしができるよう、王国に働きかけるんです!」
「……本当か、それは?そんなことが……」
「すでに我々は、王国との同盟交渉のため動いております!我々は同盟の条件として、戦争の停止を呼びかけています!これに加えて、戦費調達のためにかけた税の廃止を、王国に約束させるんです!これが実現すれば、あなた方は反乱など起こす必要はない!」
しばらくの間、沈黙が続く。長い沈黙の後に、オルレアンス公がクラウディアに尋ねる。
「クラウディアよ!」
「は、はい!」
「お前は、実際に宇宙から来たという者に接しているのだろう!今の話、真と思うか!?」
「はい、お父様!私はあの日以来、ずっと彼らの元におりますが、彼らはこれまで、私に嘘などついたことはございません!」
「そうか……」
オルレアンス公は手を挙げて、王都とは反対方向に振り始める。引き返せという合図のようだ。騎士達は立ち上がり、反対方向に向かって歩き出す。
そして、最後にオルレアンス公は叫んだ。
「もう一度聞こう!貴殿の名は、なんというか!?」
「地球655遠征艦隊、1521号艦所属、レオン少尉であります!」
「レオンか……覚えておこう。」
そう言い残して、それ以上何も言わず、オルレアンス公は去っていった。
娘に振り返ることなく立ち去る父親の背中を、黙って見守るクラウディア。そんなクラウディアの手を握る。
「さ、哨戒機に戻ろうか。」
「はい、レオンさん……」
後ろ髪に引かれながらも、クラウディアは哨戒機へと歩き出す。すでにクーデターを企てようとしたあの騎士達の姿は、もう見えなくなっていた。
クラウディアとしては、もう少し父親と話をしたかったのだろうと思う。だが、その父親はもう去ってしまった。寂しそうな顔で助手席に座るクラウディア。
「クラウディア。」
私は席に座るや、声をかける。
「なんですか?」
まだ暗い顔のクラウディア。だが、私は言った。
「こんなところで、がっかりするな。そのうちいいこともあるさ。」
私は彼女に、なんの確証もない未来に向けた、しかも随分と曖昧な言葉を投げかける。しかし、それを聞いたクラウディアは微笑んだ。
「そうですね。思えば私は運良くあの林の中であなたに出会えて、しかもお父様にもこうやって再び会って話すことができたんですから、この先も捨てたものじゃないですね。」
納得したのかしていないのか、よくわからないものの、これ以降はいつものクラウディアに戻った。
私は無線で、クーデターが未遂に終わったことを知らせる。すでに交渉官と広報官は別の哨戒機が迎えに行ったようで、我々には直接1521号艦への帰投するよう命令が出た。
「1番機より1521号艦!これより帰投する!」
無線で連絡し、スロットルを引いて上昇する哨戒機。
真っ暗闇の中、あの騎士団達の松明がまっすぐ並んでいるのが見える。
その松明の列を見送りながら、我々は駆逐艦へと向かった。




