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#1 「裏」との出会い

「おい!まだ出てこないのか!さっきから、ずーっと待ってるんだぞ!」


 ああ……さっき通路で足を滑らせて転んだ時に、また「アナスタシア」になってしまった。おかげで、この駆逐艦の狭い食堂で怒鳴り散らしている。困ったものだ。また甲板か地上に連れて行って「クラウディア」に戻さないといけないな。


「なぁ、レオン!もっとこう、パパッと作れねえのかよ!すげえ発達したロボットってやつ使ってるのに、なにダラダラ作っていやがるんだ!?」


 だいたい駆逐艦の食堂で「ファバーダ」なんてマイナーな料理を頼む方が悪い。こういう料理は、ただでさえ調理に時間がかかる。待たされて当然だ。

 しかし「クラウディア」だったら我慢できるのに、どうして「アナスタシア」の時はこうも気が短かいのか?

 仕方ないな……あれ、やるか。


「ったく、本当にここは進んだ文明の船なのかよ!だいたい、この食堂には……お、おい!レオン!何しやがるんだ!?」

「いいから、いいから。まず落ち着け。」

「ふぇぇぇ……お、落ち着けって……俺は今『アナスタシア』なんだぞ!?そ、そういうことは『クラウディア』の時にやれ……」

「何を言ってるんだ。私は『アナスタシア』の時も大好きだぞ。」

「ふええぇ……み、みんな、こっち見てるじゃねえか……か、勘弁してくれよ……」


 私はアナスタシアに背後から抱きついて、後ろから頬を当てている。耳まで真っ赤にして、身体を震わせるアナスタシア。彼女はこういうのに弱い。しかし、あいかわらず面白いな、アナスタシアは。


「お、おい……あんまりふざけてると、ここで魔術を使っちまうぞ!?」

「そりゃダメだ。そんなことしたら、食堂が壊れるし、追い出されちまうぞ!?」

「うう……くそぉ……」

「それよりも、ほれ、もうできてるぞ、ファバーダ。」


 そうこうしているうちに、彼女が頼んだファバーダがすでにカウンターに出ていた。そこで私は、アナスタシアの背後から離れる。

 なんともバツが悪そうな顔でアナスタシアのやつはその料理を取って、テーブルに向かう。


「……ったく、相変わらず物好きな男だな。俺にあんなことして、恥ずかしくねえのかよ?」

「何いってるんだ、恥ずかしいに決まってるだろう。ざっと見回して10人はいるこの食堂で、お前に抱きつくんだぞ?いくら艦内の皆に事情が知れていても、だ。だが、可愛いアナスタシアを落ち着かせるためだ。しょうがない。」

「か、可愛いとか……い、いや、そんなことしなくても、お、俺はいつでも落ちつているぞ!」


 などというが、明らかに動揺している。だいたい、口に運ぶスプーンからファバーダの豆がボトボトと落ちているのに気づかないあたり、かなり動揺している証拠だ。

 さっさと「クラウディア」に戻そうと思っていたが、こうしてみていると、しばらく「アナスタシア」のままでもいいかな。ツンデレな性格の彼女も、私は好きだ。


 そんな「アナスタシア」、いや「クラウディア」と出会ったのは、つい2か月前の話だ。


 ◇


 2か月前。その時私は、ちょうどこの星にたどり着いたばかりだった。


「1番機より1521号艦!現在、高度12000。このまま降下します!」

「1521号艦より1番機!了解、地上付近に障害物なし!降下を続行せよ!」


 この時、私は哨戒機に乗り、地上での任務のために真っ暗闇の中、着いたばかりの星の表面に向かって降下していた。

 昼間の観測では近くに大きな城塞都市があるはずだが、その方向を見ても、灯りがほとんど見えない。

 この星は、文化レベル2の星。農耕文化の、いわゆる「中世」な星。剣と槍と弓矢で戦い、城壁で囲まれた城塞都市があちこちに点在している。発見された直後の地球(アース)では、もっとも多い文化形態の星だ。


 さて、我々は発見されたばかりのこの星についたばかりだ。このためまずこの星の気候情報を取得するため、ある城塞都市の近くの林に降り立ち、気候観測用の機器を設置することになった。

 しかし、そういう仕事をパイロット1人にやらせるかな……他に暇なやつはいるだろうに、なんでパイロットに地上任務までさせるんだ?ブツブツ言いながら、私は地上に向かってたった1人、降下していた。


 私の名は、レオン。地球(アース)655 遠征艦隊、駆逐艦1521号艦所属のパイロット。歳は24、階級は少尉。

 軍大学を卒業後、すぐに遠征艦隊へ配属が決まる。その直後に、新たに発見された地球(アース)への派遣が決定した。

 で、初仕事がいきなり地上任務だ。しかも、新米パイロットにたった1人で、いきなり地上に行かせるという無茶な仕事だ。

 なんでも、新米こそ厳しく育てろという艦長の一言で、私がたった1人で地上任務をこなすことになってしまった。まったく、なんて艦長だ。

 とにかく、さっさと仕事を終わらせて艦に戻ろう。そう思いながら、降下を続ける。

 林が見えてきた。木々が鬱蒼と茂っているが、着陸できそうな草地を見つける。私はその草地に向かい、着陸態勢に入る。

 よく見ると、すぐそばに切り立った崖がある。まあ、それほど危険な場所でもなさそうなので、さっさと降りることにする。

 草地の上でホバリングし、周りを確認する。特に獣などはいない。それを見て、私は哨戒機を着陸させる。

 ギアが接地し着陸。と同時に、私は哨戒機の機関を停止させる。私は後ろの席に置かれた機器類を持って、ハッチを開け外に出る。


 当然だが、辺りは真っ暗だ。これじゃ仕事にならないな。そこで私は哨戒機の中に戻ってライトを持ち出す。それをハッチのすぐ横にあるコネクタに挿し、ライトを点灯させる。

 そのライトの角度を変えて、林の奥に照射する。これで、木々がよく見える。

 私はゆっくりと測定機器を持ち、木々の中に向かって歩く。

 その木に、測定器を取り付ける。全部で3つある測定器を3本の木に取り付けて哨戒機に戻ろうとした、その時だ。


「おい!だれだ、お前!!」


 誰かの叫び声が聞こえる。なんだ?こんな夜中の林の奥に、誰かいたのか?

 私は声のする方に目をやる。すると、誰かが歩いてくるのが見える。

 よく見ると、それは女性だ。やや小柄だが、金色の髪に少し丸っこくて綺麗な顔つき、そして水色の随分と豪華なドレスを着ている。およそこんな夜中の林の中には、似つかわしくない女性だ。

 にしては、品のない口調だった気がしたが、なんだこの女は?

 彼女は私を見て、叫ぶ。


「おめえ、空から降りてきただろう!俺は見ていたんだ!お前が妙なものに乗って、降りてくるところをな!」


 なんだこいつ……見かけのわりに、ほんとに口が悪いな。これでも女か?まあ、ここで動揺しても仕方がない。私はゆっくりと応える。


「私は地球(アース)655という星から来たもので、ここで……」

「なんだと!?お前、他国の者か!さては、隣の王国の兵士か!」

「いや、そうじゃなくて……」

「この国を探りにきやがったんだな!おのれ、この場で消してやる!」


 なんだって?消す?物騒なことを言い出すその令嬢。しかし、どう見ても短剣すら持っていないようだ。それに、貴族が社交界で着るようなドレス姿。一方の私は、銃と携帯バリアを持っている。しかも、軍の訓練で体術を心得ている。どうあがいても、彼女に勝ち目などないだろう。

 だが、その女は私にこう宣言する。


「冥土の土産に教えてやる!俺の名は、アナスタシアだ!死ぬまでの間、覚えておけ!」


 これが、私が彼女の裏の顔「アナスタシア」と出会いだった。

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