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ワガママな人達の交響曲  作者: 三箱
第5章 『三つ目』
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ソトニデル

「響ちゃんと一緒に寝るのは私」

「あんたは危険だから私が一緒に寝る!」


 本当にどうなっているんだこれ。

 現状ベットの上で梶原さんと佐嶋さんが口論している。どっちが横で寝るのか。

 さっきみたいに俺がフラッとしないようにするために、気を使っているのかもしれない。

 記憶が飛んでいることはわかった。二人が大方説明してくれたことには感謝している。

 でも今一人で状況を整理したいというか、一人で寝たい。


「二人で仲良く寝ていいから、俺は廊下か床で寝る」

「えー。響ちゃん。美女二人がベットにいて何も思うことないの?」

「……」


 言っていることがわからない。

 それどころではない。女性が二人いたところで狭いだけだし、それに二人は会ってすぐの感覚である。そんなに距離が近づくのは少々気が引ける。


「遠慮させていただく。それにまだ昼間だけど」

「むー」


 梶原さんがぷくっと頬を膨らます。何故怒っているのか。これ俺が悪いのか、悪くないよな。


「ほら梶原さん。風間くんが困っているから」

「あんたも内心がっかりしてんでしょ」

「そんなわけない」


 この二人って仲いいのか。でも会ってほんの二・三日らしいけど、コミュニケーション能力高い人種か、それとも波長が合っているのか。


「外の空気吸ってきていいか」

「ちょっと待って、私も行く!」

「私も!」


 二人は飛ぶように走ってき、ガシッと俺の両腕を自分の腕で絡めるように捕まえてきた。


「ちょっ。歩きにくいんだけど」

「いいでしょ。減るもんじゃないし」

「両手に花なのに文句を言わない言わない」


 俺から外に出ると言ったのに、半ば強引に二人に連れていかれる形になった。


「本当に何なんだ一体」


 呆れが声となって現れたのだった。


 外を歩くと案の定、通行人の視線がチクチクと刺さる感じである。

 とはいえ抜けようとしても、力強くて離れる気配がないのが現状である。となると上手く人目がつかないところにつれていくのが適切な手段だと思ったが、そう上手くはいかない。

 二人の力によって行く方向すら制御されている。どうにもならない。


「ねえ。ゲームセンター行こう」

「いや。カラオケにしよう」

「どっちでもいいだろう」

「じゃあ。両方行こう!」

「そうしよう!」


 梶原さんがゲーセンで佐嶋さんがカラオケ。というか記憶喪失の人間に行かせる場所だろうか。ゆっくりのんびりしたい気持ちだが……。


「これ絶対か?」

「「絶対!!!」」


 左右にいる二人が同時に顔を寄せる。

 俺の意思は全く考慮されることはないみたいだ。まあ特に行く所もない。それに何かしていたら思い出すかもしれない。


「わかった。とりあえず二人の意思に従うから、両方が反対方向に動くのだけは止めてくれよ」


 二人が全力で左右に引っ張ったら体が引き裂かれそうな気がしてしまう。

 

「「わかった」」


 同時に応える。ただ本当に分かっているのだろうか。


「じゃあカラオケ!」

「ゲームセンター!」

「言ってるそばから」


 俺の胸の前で睨み合い言い合う二人、良くもまあ飽きないものだ。

 中々話が終わらなかったので、近い方から行けばいいと言ったら、だったら両方近くにあるやつにしようという話になった。

 それで辿り着いたのが隣町にある大きなアミューズメント施設であった。


「カラオケ!」

「ゲーセン!」


 店の前まで来ても言い合っている。疲れないのか。

 ちなみにここまで、両腕に花のまま来た。人が通るたびに奇異な目線を向けられた。この二人は全く気にしていなかったみたいだが。


「じゃんけんすれば?」

「「じゃんけーん。ぽん!」」


 梶原さんはチョキ。佐嶋さんはパーだった。



「あー。なんでここで落ちるの!?」


 バンとUFOキャッチャーの台を叩いて地団駄を踏む梶原さん。それを見てニヤニヤと笑う佐嶋さん。


「ダメね。私がとってあげる」


 梶原さんからハンドルを奪い去り、華麗に百円玉を入れると、中にあるぬいぐるみに向かってアームを操縦する。そしてゆっくり下に降りていき、ぬいぐるみの首元にかかり持ち上がる。そしてゆっくり動き穴まで向かい……。


 ポトッ。


 穴の直前で落ちて、ぐったりとした形でぬいぐるみが寝そべる。


「何でここで落ちるのー」

「あんたも私のこと言えないね」


 梶原さんのしめしめと笑う顔がまた酷い。そしてガクッと跪く佐嶋さんである。この二人ってとりあえず元気であるということが分かった。


「風間君取って!」


 佐嶋さんがクルッと振り返って詰め寄る。


「あー。抜け駆けするな」


 追っかけるように梶原さんが迫ってくる。そして二人揃って期待の眼差しを向けてくる。記憶喪失だということを忘れていないだろうか。


「あのー。そもそもこれのやり方すら知らないのですけど」

「大丈夫。私が手とり足取り教えるから」

「こんな。軽い女はほっといて私と一緒にしましょ」


 梶原さん。佐嶋さんに対する言葉が辛辣である。


「何が軽い女ですかって」

「軽いでしょ。会って次の日に他人の家に転がりくるんだから」

「あんたも会ってすぐに家訪れた口でしょ」

「ギクッ!」

「これも本当なの!?」


 そうなんだ。記憶があったころの俺は女を連れ込む趣味でもあったのだろうか。何か思い出したくないな。

 よくもまあこんなにも言い合っていられるな。感心してしまう。それで俺はぐったりとしたぬいぐるみを取ればいいのか。どうやればいいのか。

 二人の目を盗んで、UFOキャッチャーの台の前に立ちハンドルを掴んだ。

 お金を入れて、二人の見よう見真似で動かしてみる。二人と似たような位置にアームをおいてみる。そしてハンドルの横にあったボタンを押す。ゆっくりと降りていくとぬいぐるみの頭の方にアームが引っ掛かった。巧く引っ掛かって頭を持ち上げると、ゆっくりフラフラしながら穴まで連れていくと、ポトッと下に落ちた。


「あ。できた」

「「うそ!?」」


 二人が後ろから体当たりするような勢いでぶつかってきて、危うく顔をぶつけそうになった。

 そんなことは知らずに、二人は下に落ちたぬいぐるみを引っ張り出し、ぎゅっと抱きしめる。


「やったー。響ちゃんありがとー」

「風間君ありがとー。って私のよ!」

「私の!」


 二人がぬいぐるみを引っ張り合う。このままではぬいぐるみが無惨に真ん中から裂けそうで怖い。


「落ち着け。自信ないけどもう一個取るから、それでいいか?」

「わかった。響ちゃんがそう言うなら」

「風間君が取るなら」


 二人はぬいぐるみをギュッと抱いたままであるが、加熱していた気持ちは下がったみたいで、ぬいぐるみの原型は残っていた。

 本当に騒がしい人たちだ。でもまあ、退屈はしないか。しんどいけど。

 俺は残っている一つのぬいぐるみを取るために、UFOキャッチャーの台のハンドルを掴んだ。

 結果ほんの数回で取れてしまった。

 運が良かったのか偶然なのか分からないが結果的に取れたことにより、二人はそれぞれぬいぐるみを満足そうな笑顔で抱きかかえていた。


「よし。つぎカラオケに行こう!」


 ノリノリで佐嶋さんがカラオケコーナーに進み始めた。俺は佐嶋さんの後ろについていく。


「それは止めよう」


 急に梶原さんが真剣な面持ちで立ち止まる。


「何? あなたの希望は通って、私の希望がダメっていうご都合が通ると言うの?」

「違う。そうじゃない。響ちゃん。音楽が聞こえないかもしれないから」

「あっ」


 佐嶋さんが気づいたようにパッと口に手を当てる。対して俺は首をひねる。


「それってピアノの一音が聞こえなかっただけで、音楽が聞こえないとは限らないんじゃない?」

「でも、もし本当に聞こえなかったら、苦痛でしかないんだよ」

「んー。確かにそうだけど」


 納得いかない佐嶋さんは、唇を強く噛みしめる。状況があまりよくわからないけど、俺のことを気使っているのはわかる。だったら、少しくらい彼女の希望を聞いてあげるべきだと思った。


「俺は構わない。俺は自分の状況があんまり分かっていないけど、記憶が消えている自分にこんなに気を使ってくれているから、やりたいことに付き合ってやる」

「えっ?」

「えっ? 響ちゃん!?」


 一瞬二人がポカンとした表情をする。あれ、おかしなことを言ったのか。

 しばらく硬直した後、突然じりじりと二人は顔を少し下を向いたまま近づき……。


「え!? ちょっ!?」


 正面から二人にぎゅっと抱き着かれた。二人分の勢いに堪え切れずにそのまま壁に貼りついた。周りからの視線が奇異な視線を向けられているので、俺は何とか振りほどこうとしたけど二人はそれを辞さなかった。


「響ちゃん記憶がないのになんでそんな男前なの。ずるいよ」

「そんな風なこと言われたら私」


 二人の顔は俺の体に埋めるようにしていたので分からなかった。ただ悪いことは言っていないのだなとホッとしたのだった。

 


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