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ワガママな人達の交響曲  作者: 三箱
第4章 『転調』
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病室 2

「まあ端的にいうと、俺は人が嫌いだ」

「知ってる」


 鼻で笑われた。

 早速出鼻を挫かれた。

 こっちはかなり心の準備をしたというのに。


「マジかよ」

「分かりやすいから」

「そうかい」


 ズバズバ言うな。面と向かって言ってきたのってカジとホシ以来だそ。絶対あいつらの性格が移っている。


「そういうお前もだろ」


 すかさず切り返すと、きょとんと呆気にとられた顔をするソラ。

 予想していなかったのか。


「何で気づいたの?」

「何となくだ」

「具体的に」


 ずいっと顔を寄せてくる。


「別に。お前が俺たち以外と仲良く会話しているところを見ていないだけだ」


 本当は理由は多々あるが、全部言う必要などない。


「似た者同士だね」


 ソラはクスッと笑みを見せたあと、感慨深そうにじっと見つめてくる。


「似ていないだろ」

「たぶん似てるって。単に筋力があるかないかの違い」


 なんだその違い。

 

「じゃあなんだ? 筋力があればもっとよかったと」

「それは時より思うよ。誰かを守れるなら、でもそれは誰かを傷つけるためでなく。守るための力かな」


 気のせいか。間接的に俺を攻めている。


「悪かったな俺が好戦的な力の持ち主で」

「好きでやってるの?」

「そんなわけはない」


 はらっと両手を上げる。

 好きでやってはいない。怒りに身を任せることはあった。でも好きではない。


「何故?」

「全て反撃だ。俺からいきなり本気で暴力は振るっていない」


 過去全て全部俺一人対多数だ。逃げられないし、そうするしかなかった。全員倒したら結局俺が悪者になる。

 誰も味方はいない。

 でもそれを肯定することはもうしない。


「二人を投げ飛ばしたのは?」


 残っている疑問を突いてくる。


「本当の事をいうと、あれは一応布団にむかって投げたし、二人分だから持ち上げるので精一杯だったぞ」

「あんなに楽しそうな顔で?」

「気になってたけど俺そんな顔していたのか?」

「していた」


 ニヤニヤと見つめてくる。

 そんなに楽しそうにしていたか。あの時は何となくソラの言葉を信じたが、今思うと信じられない。


「信じられん」

「そうだよね。けど笑ってたのは事実」

「……そうか」


 絵面としてはかなりひどい気もする。笑いながら投げるって結構怖いな。


「でも。やっぱり暴力はいけない」

「……」


 ソラの言葉に急に力がこめられた。彼の手のひらが、ぎゅっと握りしめられていくのが見えた。


「こんな言い方もしたくないし、こんな風に君が意識的にしたわけではないことはわかっている。でもやっぱり友達として言っておきたい」


 彼の言葉に力が込められた。


「僕は間接的に君のとばっちりを受けた。その事実だけは忘れないでほしい」

「それは……」


 違うと言いたかった言葉を噛みしめ押しこらえる。

 頭に上ってきた血を、大きく一呼吸することで下に下げていく。

 とばっちり……。

 俺の身を守るためにした行為が、ソラに被害が及んだとでもいうのか。


「あいつがそう言ったのか」

「あの長髪の男性が、風間君と一緒の部活にいるだけが憎いと言って僕は攻撃された」

「とばっちりじゃない八つ当たりだ」

「そうだね。全くもって八つ当たりだよ」

「酷い話だ」

「そうだね。酷い」


 友達がやられた。でも元凶の俺に向かってくるのではなく、俺の近くにいる奴を攻撃する。やり方が卑怯だ。

 あいつが悪い。だが遡ったら原因はあいつの友達を蹴り飛ばしたせい。

 じゃあ。俺は……。


「けど、そんなことまで考えて……」

「そんなのはわかっている。風間君がそんなことを考える余裕がないことくらい分かるよ」

「じゃあ何で」

「君に暴力をやめてほしいから!」


 いつも穏やかな口調のソラが初めて叫んだ。

 単なる冷やかしでも、嫌がらせでもない。ソラは本気で俺に暴力をやめてほしいと頼んでいる。自分は盛大に頭を打って被害を被っているのに。

 でもソラ、簡単にそうはいうけどな。


「じゃあ。また俺がリンチにあったらどうすればいい」

「逃げればいい」


 逃げる。誰かを貶し続けて満足するか、誰かを攻めて自分は誰かの上にいると奴とかか。


「逃げるのか。散々俺をいじめたやつでもか」

「逃げればいい。それで済むなら」

「そんな簡単に済むならな! でもな。無理だ。ただのチンピラならいい。だが俺をいじめた奴がいたら絶対に許さない。好きでやっていることを目障りに思ったやつらが来たら、絶対に返り討ちにする」


 椅子を派手に倒して立ち上がる。

 頭の熱が再沸騰する。逃げるあんな奴等からだと。


「そんなことしたらまた襲ってくるよ」

「アイツらの罪を自分で理解するまで永遠に続ける」

「そんなことしても相手は納得しない。それにそれ以外の関係のないやつは」

「それは無視する」

「できないよ」


 何を言っても否定してくる。お前は俺のことわかっているのじゃないのか。


「じゃあ。のうのうと俺をいじめた奴等を、のうのうとさせたままにするのか。それこそ我慢できない」

「じゃあ。友達がやられた気持ちの憎しみと一緒のアイツと同類になるけどそれでもいいの?」


 くっ。あのロン毛と同類だと。ソラがやられて怒っている俺がアイツと同類と言いたいのか。


「アイツはソラを狙った。だけど俺なら倒した本人の俺に殴り込みにいく!」

「そういうことじゃない! 憎んだって仕方ないよ」

「じゃあ泣き寝入りしろというのか」

「泣き寝入りじゃない。暴力以外の方法だよ」

「そんな方法ないだろ、糞みたいにネジ曲がった心のやつ言葉なんて耳を通り抜けるだけだぞ」

「それでもだよ」

「無理だ」

「考えろよ! こっちは泣き寝入りしかできないというのに」

「知るかそんなこと!」

「知ってよ。人間糞みたいな奴ばかりじゃない! じゃあ僕のことを知りたくないのか!」

「ソラのことなんか……」


 むぐと口を押し込めた。

 酷い。それも酷い。

 さりげなく論点を変えている。

 だがソラは糞みたいな奴ではない。少なくとも俺に対して初対面の時から偏見を持っているわけではない。

 ソラに目を合わさずに答える。


「ソラを糞だとは思っていない」

「それはありがとう」


 顔をうつむかさるソラ。

 こんな笑顔じゃない感謝もそうそう聞けることはない。

 怒っているのだろうか、真剣に怒っているのだろうか。

 罵倒ではない蔑みでもないのは確かだ。

 

「今日は蹴らなかったんだね」

「……」


 確かにな。ソラが殴られて、ソラがやられて怒りはあった。それでも蹴らなかった。


「でもソラが怪我して、アイツは何も痛手なく終わった」

「別にいいよ。気持ちだけあれば」

「けどお前がやられて、ただ何もできなかったんだぞ」

「でも、君が僕を呼んだのは聞こえているよ」

「それは……」


 暴力を振るったら失格だったからだ。

 カジとソラが演技するためには失格にしたくはなかった。

 けどそれを面と向かって言うのはまだ嫌だ。


「それはまあ。止められたからだ。どっかのバカに」

「簡単に従う君じゃないのに」

「それでもだ」

「そうかな」


 まだ疑っているのか。何か心の奥を透かしたように見つめてくる。

 何でそんな目ができる。俺のことを害虫のように扱ってきた奴ばっかだったのに。

 ソラ達の視線はアイツらとは違う痛さがある。


「ソラ。お前悔しくないのか。泣き寝入りばかりで」

「悔しいよ。でも……」

「でも?」

「殴られるのって痛いよ」


 そんな当たり前のことを悲しそうに言っても。

 俺は痛みを倍返しているだけだが。


「そんなの知ってる」

「僕はその痛みを他人に味わってほしくない」

「相手がどんなにクズでもか」

「そうだね。やっぱり痛いよ。その代わり彼らに無関心という一番冷たい対応をとるけどね」

「それって反撃になるのか」

「そうだね。普通は特になにも感じない。でも憎悪よりも無関心の方が一番冷たい対応らしいよ」

「それって相手に反撃が伝わらない」

「別に伝わって欲しいとも思わない。そういう人間を相手にするのを正直疲れてしまったから。それにそういう人間に僕の生き方を邪魔されるのって嫌じゃない? 僕の人生は僕だから、誰に何を言われようが僕だから」


 明るく笑って話すソラ。でもその内容はソラ自信が相当な過去を送ったから導き出された答えなのではないか。

 頭がくらっとする。叫びすぎたか。怒りすぎたのか。

 最初の論点から物凄く逸れていった。

 でも、もう話題を戻そうとも思わないしもう何かを考えて話す体力も少ししかない。


「そうか。それがソラの生き方か」

「暫定的だけどね」

「曖昧だな」

「そうだよ。人は変わっていくから。でももしかしたら君が変えてくれるかも」

「俺はそんな影響力のある人間ではない」


 期待しすぎだ。

 ああ。眠くなった。瞼が下がりそうになる。


「わりい。叫び疲れた」

「僕も久しぶりかな。こんなに叫んだの」


 ソラも満足そうな表情をしている。

 正直何も解決していない。考えをただ叫んでぶつけただけだ。

 けどまあ。意味もなく心が軽くなった気がした。

 こんなに本音を言ったのなんていつぶりだ。

 でも何でソラも本音で返した?


「最後に一つ。何で俺なんかに」

「ああ。それは決まっているよ」

「何だ……」

「それは」


 その先の言葉を俺は聞き取ることができなかった。

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