ドロタンの終わりを待つ者 3
でも来てくれたはいいものの、僕はここから動けないのだけど、どうするつもりだろう。
「って。敵いないね」
「アタイの予想通り!」
「それは響ちゃんが、引き寄せてくれたからでしょう」
「ソラちゃーん!」
「無視すんなバカ!」
星川さんが先行し渚さんが追いかける形で、誰もいない体育館を一直線に走ってくる。
僕は星川さんに向かってステージ前へと駆け出す。
だが、長髪の男性が僕を邪魔するように割って入ってきた。
「行かせるか」
風間君に関わる人間が自由になる事を阻止する以外、もう見えなくなっている。
ステージに上ってきた星川さんと渚さんと対面する。
「はあ? ちょっとあんた誰?」
「あっ。あの時のヤンキー」
「うぜー。黙れ!」
長髪の男性が来た女子二人に睨みつける。
対して星川さんは引かずに睨みつけ、渚さんは真顔のまま星川さんの肩と背中に手を置く。
「こいつ何?」
「全体的な視野を持っていない自己中野郎。あと私達の敵」
「なっ!?」
星川さんの疑問に返した渚さんの言葉に、男性の表情が固まり、周りにいる全員が凍りついた。
渚さん。相変わらずストレートな言葉。
「ああ。そういうこと」
星川さんは納得したように頷き、不適な笑みを浮かべる。
「おい銀髪女。もう一回言ってみろ!」
「何度でも言ってあげる。他人の気持ちを知ろうとせず、自分勝手な人って」
「ぶっ潰す!」
男性は二人に向かって殴りかかった。
僕は慌てて後ろから男性を追う。だけど追いつかない。
二人に向かって拳が近づく。
周りから悲鳴も上がる。
誰もが惨状を予期した。
「わっ!」
二人は咄嗟に左右に分かれた。
それにより男性の拳は何も当たることなく空を切った。そして勢い余って二人の真ん中を通り抜け、そのまま……。
「くっあっ!」
ステージの下に落ちた。
ドサッと言う音が聞こえて、すぐさま降りる沈黙。
拍子抜けというか……。とても呆気ない。
大丈夫だろうか。
僕は恐る恐るステージ下を覗き込むと、男性は呆然とした表情で座り込んでいだ。
「全く。女性に向かって本気で暴力を振ってくるなんて、ひどい男」
「あれ? あんたがよく知る人物も手が出てるけど」
「本気では無いから。何だかんだ手加減してるし、それにそれは別物」
「アレで?」
渚さんの口元が緩み、星川さんは顔を皺を寄せている。
男性には全く見向きもしない。
「というかあんたも素直に従ってくれるとか、どうしたの?」
「別に理由はないから。それよりもよく瞬間的にあんな作戦思いついたね」
「ああ。単なる腹いせよ。八つ当たりに近いかな」
「どういうこと?」
「別に大したことはない」
腹いせ…。もしかして保健室でのことかな。風間君が渚さんを避けたあの事かな。
「まあ。いいか。よし。ソラちゃん!」
星川さんが僕の正面に向き直った。
正直言ってここまでの展開が劇的でもなければ、かなりの拍子抜け感がするし、なにかグダグダな感じもする。
でも助けに来てくれた。
誰もが見てみぬふりだったのに、走ってきてくれた。それがとても嬉しい。
「一緒に逃げよう!」
差し伸べられた手に僕は素直に応じた。
「はい」
僕は星川さんの手をとった。その手は優しく暖かく、そしてどこか懐かしいものだった。
「お前ら……」
このまま綺麗に終わるかと思ったが、そう簡単にはいかない。
ステージ下にいた男性が立ち上がる。鬼のような目で睨み返す。
「呆れた」
星川さんはやれやれと空いている手でヒラヒラと振り、渚さんは口を歪める。
第二ラウンドが今にも始まりそうな雰囲気だった。
執念とは怖いものだ。風間君にあとで理由を聞かないと。
「おい。やべえ」
「早いとこ呼べ。あと一分もないぞ」
いつの間にか体育館に戻って来た鬼役(探偵役)が二人、血相を変えていた。
一人は仲間を呼びに外に行き、一人は真っ直ぐにこっちに向かう。
「あ、まずい」
「まずいかな」
渚さんと僕の頭を過ぎった考えは一緒である。どこに逃げようか視線を忙しく移す。
「おい。行かさんぞ」
「あんた味方じゃない。バカなの?」
「ああ?」
渚さんと長髪男性のバトルが再開しそうだ。
だが一人だけ落ち着いている人間がいた。
「とりま銀髪? ここにいるステージ上の人達にタッチして」
「は。何であんたに、それよりこいつ……。ああ!」
「そのああ、で、わかったよね。あとたぶん皆分かっていると思うよ」
タッチ?
ああそういうルールか。
星川さんの視線がステージの待機している人達にいくと、何人かは頷き、何人かは目に力が戻っていた。
「まちやがれ!」
ステージ直下まで迫ってきた鬼。だがそれよりも先に渚さんは捕まっている味方達に入っていった。
そして手当たり次第、仲間にタッチして、解放していった。
解放した仲間は、散り散りに逃げて行く。
「やばい! 手当たり次第捕まえろ!」
気がつくど入り口には鬼役の軍勢が体育館の中に戻って来た。
「あと三十秒だ! 何とか逃げ切るぞ!」
逃げる仲間の先頭にたって雄叫びを上げていく集団、アレは野球部かな。
逃げる泥棒役。捕まえにくる探偵役、気がつけば体育館は大混戦になっていた。
「おい待て!」
しつこいまでに追いかけてくる男性。立場上味方のはずなのに……。
「ソラちゃんこっち!」
ぎゅっと手を握られる感覚に、心臓の鼓動が上がったのを感じた。
星川さんに引っ張られ、人混みを縫うように走った。逃げる最善のルートが見えているのだろうか。
「くっそ!」
男性は人混みに巻き込まれ、来ることができなくなっていた。
「はい! 残り十秒です」
校内スピーカーから、カウントダウンが始まった。
体育館の出口は目の前、逃げ切れば勝ちだ。
だが。
「うおりぁ!」
遅れて正面からやってきた柔道着を来た男性三人組が、出口を塞ぐように立ちはだかった。
「七!」
「ここで大人しく捕まれ!」
「ソラちゃん!」
刹那、星川さんが僕の前に立って庇うように両腕を広げた。
何でそこまでと思ってしまう。僕は星川さんに対して、今まで何もしてあげていないのに。
「五!」
男子一人の手が星川さんに伸びる。
星川さんは一ミリたりとも避けようとしない。
女子に守られる男子……。それは嫌……。
「三!」
星川さんに手が触れる瞬間、僕は体ごと二人の間に割って入って柔道部の腕を掴んだ。
でも力の差は歴然、そのまま無理やり押し込まれ、僕の体に手が触れた。だが数秒稼いだ。これで星川さんが逃げれば勝てる。
「ニ!」
「え?」
星川さんは動かなかった。僕の背中に小さく隠れているのか。暖かな感触が背中から感じる。
「そこの女もだ!」
「一!」
三人の手が伸びる。僕は振り返り、我を忘れて必死に星川さんを守った。
「ゼロ! ドロタン終了!」




