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ワガママな人達の交響曲  作者: 三箱
第3章 『ドロタン』
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ドロタンの終わりを待つ者 2

「は?」


 長髪の男性の顔つきが険しくなっていくのが分かった。

 一歩僕に詰め寄り、睨みつける。


「今なんて言った?」

「僕は辞めないですよ」

「はあ? ふざけてんのか!」


 胸倉を思いっきり掴まれ、怒号を浴びせられた。男性の唾までが飛んできた。

 それでも僕は、怯まずに睨み返して男性の腕を掴み抵抗する。


「おい。もう一度同じ事を言ってみろ」

「じゃあ何故、あなたは赤の他人でもある僕に部活を辞めさせるのですか。あなたにとって僕が何をしようと何も悪影響なんて無いはずですよ」

「はっ。大ありだよ」

 

 ギリギリと胸倉を掴む力が強くなる。


「あいつに友達ができることすら憎い。そいつと一緒にいる奴もな」


 なるほど、それが理由なのか。

 その言葉を聞いて、一つの失望を理解させられた。


「やっぱり。そうなんだね」


 笑えてきた。こんなにも危険な状況にも関わらずら、笑えてくる。やっぱり僕も変な人なのかな。 


「お前、何がおかしい」


 突然笑みを浮かべたことで、強気男の力がほんの少し緩むのが分かる。


「おかしいというより、想像通りだったからかな」

「は?」


 ポカンと口を開く男性。


「僕の事を見ていない。風間君の邪魔をする為に僕を同じ部活に入部するのを拒むのは、結局自分のためだから」

「な、何が悪い!?」


 掴んでいる手がブルっと震えているのが分かった。


「何も悪くはない。当たり前だから想像通りかなと思ったんだ」

「お前。なに俺を知ったようなこと言うんだよ」

「別に知らないよ。ただ偶然、想像が当たっただけだよ」

「黙れ!」


 鼓膜が破れる程の怒号と共に、胸倉を掴む手に力を込めて、僕の体を持ち上げた。

 僕も必死に男子生徒の腕を掴んで抵抗するが、ピクリともしない。

 苦しい。

 襟が首を締めてギリギリと擦られて痛い。

 どうにもならない。

 やっぱり体格差や筋力の差はどうにもならないか。


 でも嫌。

 

「くっ」

「ほら。何か言ってみろよ」


 勝った気になっているのか。男性の歪んでいた表情が初めて笑みに変わる。

 そして空いている手を後ろに引いて拳を構えた。


「殴る気?」

「ああ。やっぱ腹立つはお前」

「一つ言うけど、その時点でみんな失格だけどいい?」

「えっ」


 男子生徒と僕の取っ組み合いが始まってから、初めて周りの生徒達に反応が見えた。

 僕が殴られそうになっても誰一人止めようとしなかったが、自分に直接に関わることなら、流石に無視は出来なくなる。

 

「ハッタリだ」

「嘘じゃないよ。初めに言っていたよ。暴力行為はチーム全員失格って」

「くっ」


 笑みの表情からまた顔が歪み、眉間に深くシワが寄る。でも掴む力が弱まらない。

 これで状況が好転とすると思いたい。


「……」


 だが誰も止めようと明確な動きは見えない。

 結局そうか。

 やっぱりそうか。


「ああ。やっぱりお前腹立つわ。全部理由をお前になすりつければいい」


 男性は開き直った。そして緩んでいた拳に力を込める。

 最悪だ。

 周りの生徒は何人か動こうか迷う素振りは見える。だがほとんどの生徒は目を逸らしている。

 関わりたくない。

 またか。

 またこの立場になるのか、今回に関しては相手は全く知らないのにツイていない。

 囮になったけど、でもやっぱり一人だと何もできないのかな。

 ギリギリと男性の拳が引き締められている。

 抗う力がもうなくなっていた。

 僕の手は男性の腕を掴むことができずに、ズルっと下に手が落ちる。

 その瞬間に男子生徒は不敵な笑みを浮かべた。

 思いっきり拳を後ろに引き、僕の顔面に向かって拳を突き出した。


 助けて。



 ザッパーン!

 

 拳が僕の顔に当たるほんの少し手前で止まった。

 無視できない程の騒音に男子生徒だけならず、他の生徒の意識もその騒音に向けられた。


「おい。誰か飛び込んだぞ」

「マジか」

「そこに残りがいるはずだ。プールに行け!」

「あと一分半しかない。見張りも行け!」


 外から聞こえてきた声。

 体育館内にいた何人かの見張りも慌てて隣のプールに向かって走っていくのが見えた。そして沈黙。

 体育館には泥棒側の人しかいない。


 プールに飛び込むって、また彼らは一体何をしているのだろうか。

 でも、あと一分半逃げきってくれるはずだ。


 男性はプールのことが気になり、一瞬僕から目を離した。その隙を逃さず力が緩んでいる手首を、渾身の力を込めて捻った。


「くっ……」


 僕の襟から手が離れたので、男性の手を振りほどいて距離をとった。

 ギリっと歯を食いしばり更に眉間に深くシワを寄せて、憎悪むき出しにする男性。

 拘束は解かれたが、状況は芳しくない。

 周りには人が大勢いて、簡単に逃げれない上に、ステージから降りたらルール違反と言われたから、それもできない。


「はっ。どうするつもりだ。逃げるのか。ステージの上からは出られないけどな」


 傷めた手をぶらんと下に向け、正常な側の手を前に出し、捕まえようと低く構える。

 あと一分半が長い。

 どうしよう。


「ソラちゃーん!」


 なんだろう。どこかからかこのピリピリした空気感から全くかけ離れた間の抜けた声が聞こえた。

 するとの体育館の入口から、二種類の足音が近づいてきた。


「このバカ。叫んだら追手が来るから」

「黙って銀髪娘。ここは派手に登場するもの!」

「じゃあ。私が先に行く! バカに先を越させるわけには行かない」

「発案者は私なんだから。アタイに譲りなさい!」

「いや私!」

「アタイ!」

「私」

「アタイ!」

『ソラちゃん! 待たせた!』


 セーラー服に赤い帽子を被って登場した二人。格好が不釣り合いでネタになりそうな姿。

 ケンカをしたいのか。コントをしたいのか。正直わからない。

 その上、登場の仕方とか打ち合わせとか入りがグダグダ。


 だけど、来てくれた。


 それだけでも僕は幸せだと思った。

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