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ワガママな人達の交響曲  作者: 三箱
第3章 『ドロタン』
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ドロタンの終わりを待つ者 1

 あっという間に捕まった。

 正直、体力も走るスピードもない。ジャグリングって運動神経がいいと勘違いされることもある。

 でも僕はそうではない。

 だから迷惑をかけないために囮になった。

 そのおかげなのかどうかはわからないが、結果的にオカルト研が最後まで残っている。だから悔いはない。

 ぎっしり赤い帽子を被った人で埋め尽くされた体育館のステージ上(牢屋)で、僕はただ皆の生還の報告を待った。

 正直落ち着かない。残り時間が十分位から、時間の経過がとても遅く感じる。放送のチャイムが鳴るたびに心臓の鼓動が跳ね上がる。

 そしてオカルト研の名前を聞かないことでホッとする。それの繰り返し。

 心臓に悪い。

 あと三分。果てしなく長い。


 この牢屋はかなり居心地が悪い。人が多い。隣の人と肩が当たるくらい詰まっているし、残暑が残っている時期で蒸し暑い。

 それにあと……。


「あの野郎。次会ったら承知しねえ」


 僕から少し離れた所にいる、長い髪の生徒が床をドンと叩く。

 当然視線がその生徒に集まる。

 空気がギスギスしている。


「そういや。今残っているのって、オカルト研? そんな部存在したの?」


 別の方向から女子生徒が突然思いついたのか、隣の女性に話しかけている。


「私知らない」

「知らんな」


 実際廃部寸前だった。だから皆が知らないし 知名度がないことに関しては仕方ないと思う。

 けど自分の部活を知らないと言われるのは、いい気持ちではない。


「オカルト研がこのコンテスト出るって言うけど、実際何をする気だったのだろう?」


 また別の女性が純粋な疑問を呟く。


「さあ。このステージで宇宙人との交信を始めるとか、幽霊を復活させるとか、ありもしない事するんじゃない?」

「うわ。ウケる! それで何かやらせみたいな人出てきて、幽霊が憑依したとか、死者の魂が体に入ったとかしてそれっぽく演技するとか」

「うわ。それ安物霊媒師。テレビ受けするっとか言う」

「マジでオモロい」


 酷い事を平気でいう。冗談だろうか。

 早くやめてほしい。でもその女子達は、飽きることなく続ける。 


「オカルト研って誰がいたっけ?」

「確か。一人女子がいたような」

「あの。無口な子かな。銀色の髪の」

「ああ。いたいた。何か妙に近寄りがたい女子」

「確かにね。綺麗なんだけど何かこう……」

「分かる。浮いているのかな」


 渚さんが無口?

 意外だった。

 僕からしたら、とても明るくて、一緒にいて飽きない。そんな楽しい人というイメージだ。

 けど、人によってこう違うのか。


「他には……」

「蹴り魔」


 その女子の会話に割って入って来たのは、先程苛立ちを見せていた長髪の男性だった。


「蹴り魔って、あの一年の?」

「ああ。そうだよ。調子こいた一年坊主だ。俺のダチを病院送りにした奴だ。そいつとその銀髪の女子と一緒にいる所を俺は見た」

「え。マジで」


 ざわ。


 驚いたのはその女子だけではない。周りにいた他の人達も動揺の色を見せる。

 口々に「何だそれ」「あいつに女がいるとか」「援交じゃないか」とか、好き勝手な事を言っている。


「どういうつながり?」

「知ったことか。どうせあいつから強要してんじゃないのか」

「うあ。マジそれ。最悪。あの子他に友達がいないから、狙わたんじゃ」

「うあ」

「今、そんな奴らが俺達のコンテストの命運を賭けられていると思うと、マジで歯痒い。くそっ」


 また激しく拳を叩きつける長髪の男性。

 酷い。

 後半の所々、意味は分かっていないが、たぶん酷い事を言っているのは分かる。

 自分の友達を好き勝手言われるのは嫌だ。

 風間君の噂を知らないわけではない。渚さんにすぐ手を出すところは翌々は直さないといけない部分だとは思う。

 でも風間君が皆が言うような悪い人ではない。

 それは何となく分かる。

 それに渚さんもそれを知っていて、でも惹かれる箇所があったから、積極的に絡んでいる。だから絶対に二人はそう悪く言われるような人じゃない。

 噂をしている人達に沸々と湧き上がる怒りを覚える。


「全員で四人いたよね」

「ああ。確かに。逃げるときに一番奥にいるの見た。けど蹴り魔がやたら睨んでいたから、他の人の事は覚えていないけど」

「えっと誰だっけ?」


 残り二人は会話している女性達は思い出せないでいるようだ。

 僕もそのうちの一人だが、影が薄い上に学校に来るのが最近だから、気づかないと思うし、部活入ったの今日だし。

 それくらい要素はありつつも、何かぽっと思い出す様なことはしないでほしい。会話の餌食にはなりたくない。


「んー。そういえばあと何人生き残っているって言ってた?」

「確か三人」

「一人捕まっているじゃん」

「あ!」


 誰かのふとした疑問によって、判明してしまった事実。

 僕にとっては最悪の展開だ。

 

「そうか。いるのか」

 

 ゆっくりと立ち上がる長髪の男性。捕まっている人達をぐるっと見回して確認し始める。

 僕は反射的に目を逸した。

 

「おい。お前か」


 心臓の鼓動が跳ね上がった。

 顔をあげることは出来ない。

 じっと下を見て僕の所に来ないことを願う。


 トン。トン。トン。

 足音が一歩ずつ大きくなってくる。

 僕でないと思いたい。

 でも目線を逸らしたのが僕だけなら、たぶん気づかれている。

 トン。トン。トン……。

 僕の近くで足音が止まった。

 ほんの少し視線を上げると、二つの足が僕に足先を向けて止まっていた。

 完全にそうだ。

 体の感覚が急に強くなり、血管の流れまで感じるようになる。


「おい。お前」

「あ、はい」


 簡単に諦めた。

 単純な話、無視をする根性は無かった。

 顔を上げた。

 予想通り、長髪の男子生徒が僕の目の前に立っていた。

 明らかに敵意を向けた感じだった。顎を少し出し、目は細め上から見下ろすように。

 

「お前、オカルト研か?」

「あ、そうですね。今日入部したばかりですけどね」

「……」


 長髪の男性は声を詰まらせる。

 変な事言ったかな。


「お前、ふざけてるのか?」

「いや別に、事実です」

「マジで今日入部したのか」

「はい」


 ざわっ。


 周りも少しばかり騒がしくなる。

 今日入部してこれに参加することって、そんなに驚くことだろうか?


「お前、あいつと関係あるのか」


 あいつ……。風間君の事だろうか。風間君との関係。


「そうですね。同じ部員ですね」

「やめろ」

「……」


 言葉を出せなかった。

 意味が分からなかった。厳密に言うと、どっちの意味か分からなくなった。

 会話を止めることか、オカルト研を辞めることか。


「えっと、何を辞めないと」

「オカルト研だ」


 そっちですか。

 僕は自ら長髪の男性に視線を合わせる。


「お前は俺が見る限り、あいつの色ではない。だから今すぐあいつの元を離れた方がいい」

「……」


 男性の視線は、睨みつける視線から諭すような柔い視線に変わる。

 

「あいつは残虐だ。入部したのがオカルトが好きであっても、あいつと同じ部活にいるのは辞めた方がいい。風評被害も貰う。お前にも危害が加わる。そして二度と学校に来れなくなる。悪いことは言わないから今すぐにでも辞めろ」


 諭された。

 たぶん男性にとっての善意なのかもしれない。


「そうだよ。辞めた方がいいよ。あいつカツアゲもしているらしいし、君も財布のヒモ扱いにされるかも」

「そう。そう。君、そんなに悪そうには見えないから」


 周りにいる生徒も、声を上げて説得を始めた。

 異様な空気だ。

 辞めさせようとする。

 たぶんこれも向こうの善意だろう。


「な。辞めた方がいい。あいつと絡むのは辞めろ。な!」


 肩をポンと叩かれた。

 その手は酷い手だと本能的に思った。

 僕は自然と瞳に力が入るのがわかった。

 長髪の男性が来るまで、殴られるかの心配をしてビクビクになっていた。でも今はそんな気持ちなど消えていた。

 むしろ湧き上がってきた怒りが、どんどん膨らんでいくのがわかった。

 でも僕はもともと表情は変わらない。いや。変わらなくなったのかな。理由はわからない。いやもうそういう感情を忘れたのかな。でもこういった感情になったのは本当に久しぶりだ。

 珍しい。でもそのほうが良い。

 

 その心の変化に喜びつつ、いつものような口調で僕は長髪の男性、いやこの場の全員に向けて言った。


「僕は辞めないですよ」


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