打ち合わせ!?
放課後。打ち合わせ。
体育館。
今の光景にどういった反応が正しいか分からない。
一つ言えるのこれは打ち合わせの集まりではない。
「これ何?」
「こんなに人が多いとは思わなかった」
「うああ。何かめっちゃくちゃムサイ」
三人とも今の状況に困惑中である。
打ち合わせ予定の体育館に入ったのはいいが、ステージ前が大勢の生徒でひしめき合っている状況に、正直ヒイテいる。百人以上はいるな。
人が多い場所は好きではない。嫌いだ。
実際の打ち合わせにも行ったことないから、「違う」という感情ではない。
むしろ人ごみの鬱陶しさのほうが強い。
「つうか。何故お前もいる?」
さり気なく俺の隣にいるホシは、言葉のわりにウズウズしているのか、人でごった返しているこの状況に目を光らせている。
「いいじゃん。別に。減るもんじゃないでしょ。見に来るぐらい」
「それはそうだが」
「それにこの状況、人数多めにいて損はないでしょ」
「……」
それはどうなのか。まあ。カジとソラの二人だと、カジが暴走してしまう危険性があるから、見張りかストッパー役にはなるか。
「わりと目が楽しそうだな」
「ホームルームで聞くと何か面白そうだったからね」
「どういうことだ?」
「いや、他の人が噂していたから。実は……」
「はい! みなさーん! 盛り上がっていますか!?」
『うおおお!』
一斉に会場から歓声が上がる。
どういうことだ。ノリが打ち合わせではない。
ステージの上に立っている奴は佐嶋香苗とかいうやつか。
「アニバーサルランドの旅行券と賞金10万円欲しいか!」
『うおおお!』
耳がつぶれそうだ。うるさい。
豪華景品ってそんなものか。賞金10万か。言うてもなあ。生活費の足しになるくらいか。アニバーサルランドは……。聞いたことがないな。
「え? そんな景品なの?」
カジは心底驚いたように目を丸くしている。
「お前も知らないのか?」
「知らないよ!」
こいつあんなに張り切っていて事前情報なしとか。
「へえー」
「めっちゃ豪華じゃん!」
ソラものんびり驚いているし、ホシも驚いているが、全員知らないとか。興味なさすぎだな。俺も人のこと言えないが。
「けど人が多い! こんなに集まるなんて思っていなかったあああ!」
「……」
佐嶋が突拍子の無いことを叫び出す。
ここの学校はコメディが好きなのか。
「だから、本来は予選会の日程を説明して全員の演技を見ようと思ったけどめんどくさいから、ここで手っ取り早くこの人数を半分に減らします!」
『おおおおおお!』
『えええええ!』
大勢の生徒は雄叫びを上げているが、こちら俺以外の三人は絶叫を上げている。つうかそこまで驚くことか。どうせ最後の一組になるだろ。特にカジ。茫然と口を開けるな。
まあ。演目予定だったところが変わったことに多少は驚くが。
というかこのイベントの内容をしっかりと確かめていないからな。驚くのも変な話か。
今のこいつらだとまだ未完成だから、それ以外で競争相手が減るのは好都合と思うべきか。
半分減るのか。何をする気だ。
そういう疑問を持っていると、ステージ下手から一人の生徒が見覚えのある箱を持って歩いてき、佐嶋の隣に並んだ。
あれは昼休み急いでカジが応募用紙を入れてきた箱。
「今からこの箱から、応募総数216組から半分の108組を選びます! そして選ばれた組はすぐ逃げてください!」
逃げる? 何から?
「皆さんご存知だと思いますが説明します! 今から『ドロタン』をします!」
「ドロタン?」
さっぱりわからない。俺とカジとソラは首を横に捻る。
「ああ。『ケイドロ』ね」
「ケイドロ?」
ホシだけが理解した反応をする。三人揃ってホシを見つめる。カジは目を線のように細めて睨みつけている。
「それはね。『ケイドロ』は警察と泥棒。『ドロタン』はたぶん泥棒と探偵かな?」
「へー」
「それで、その二つに分かれて、泥棒側が逃げるて、警察もしくは探偵が追いかけるの。要はチーム戦の鬼ごっこと言えばいいのかな」
「へー。そうなんだ」
「なるほど」
「バカにしてはいい情報」
「誰がバカだって銀髪娘。それよりあんたたち、小学か中学でこの遊び絶対やったことあるでしょ!」
「……」
そんな遊びあったか。掘り起こしてみても記憶がない。ずっとピアノしかやっていなかったからな。
「ないな」
「ないですね」
「そんなのやった記憶一ミリもない!」
「あんたたち、本当に学校に行ってたの?」
「行ってはいたが、ピアノしか興味ないし」
「僕も特に友達いなかったし」
「私も」
「はあ」
ホシが深々と溜息をつく。
「むしろあんたに一緒にやる友達がいたことに驚きを隠せない」
「こんのっ! 銀髪娘!」
「はいはい」
ソラが二人に手を伸ばして二人を抑える。
とりあえず、今回は、本当に今回はホシのおかげで、ルールが分からなくなる危機的な状況は回避された。
「ルールは簡単。場所は学校全部!制限時間30分。探偵は時間内に全員捕まえたら勝ち! 泥棒は誰か一人でも逃げ切ったら勝ち! ちなみにエリア外に出たり、暴力振っての妨害等、常識から反したら即参加団体は……。いや、参加団体ではなく、探偵チームか泥棒チーム、即全員アウトの連帯責任ということで!」
「重っ!」
何人かの生徒がそんな声をあげた。
佐嶋は一瞬俺と目があった。
なるほど。俺の姿を見て咄嗟に思いついたか。安直な考えだな。
「というか、そのルール1団体の人数がバラバラだから平等にならないんじゃない?」
一人の男子生徒が前に出てきてゲームの不完全な部分を訴えていく。
だが佐嶋は全く怖じけることなく、話を続けた。
「それは運です!」
「は?」
「このコンテストは別に実力だけとは言ってないですし、それにこのコンテストの名前はビッグスターですよ! スターになるには少なからず運がいります! だからこの応募箱からくじ引きでチームを決めます。もし人数が多いの団体がどちらかのチームに偏ったり、運動神経がいい人が偏ったりするのも運です。ですからその運すら引き当ててから勝ちあがってください!」
全く臆することなく言い切った佐嶋に男子生徒は何も返すことができなかった。
なるほど運か。
正直あまり自信がないな。呪いと疫病神二人に憑かれた時点で運なんてない。
ホシとカジを一瞥すると、再度不安が過ぎった。
「では今からこの箱からひいていきます! 名前を呼ばれた団体は体育館外にある赤い帽子を被ってから、逃げてください。108組目が呼ばれた時点でゲームスタートです!」
「……え!」
何人かは驚いているが、どういう意味で驚いたか分からない。
他の三人も同じくよく分かっていない様子。とりあえず呼ばれたら逃げればいい。そうだろ。
「ではいきます」
佐嶋が応募箱に手を突っ込んだ。体育館が急に静かになっり、佐嶋が引き当てる団体を固唾を飲んで待った。
「はい! まずは野球部!」
「おっしゃああ!」
大きく腕を掲げたのは約十人、喜んではすぐに人混みをかき分けて群衆の外に出た。そして一斉にダッシュし俺たちの横を通り過ぎて体育館の外に出ていった。
なるほど。このような流れか。
「では次!」
と、続々と団体が呼ばれ体育館から逃げていった。泥棒に選ばれたチームは野球部みたいな大人数の団体は二組で、あとはわりと一人か二人が多かった。
俺たちがドアの近くに居るせいか、逃げていく際、大体が俺たちの近くを通るのだか、一部は気に食わないのかガンを飛ばす人もいたが、俺は全員睨み返してやった。
それで気がつけば、107組目を迎えていた。
「らっきょうダイヤモンド!」
「やべぇマジか!」
一人の男子生徒が慌てて走り出していった。
というか何だその美味そうで硬そうなネーミングセンスは。
「やばいさっきの名前面白い」
「ふふ。確かにあの名前の組合せはちょっと」
カジとホシが腹抱えて笑っている。こいつらのツボが毎回謎である。
緊張感がまるでない。
「本当にくだらんな。な。ソラ」
「ふぷ」
ソラも口を押さえていた。
本当にこいつらバカだ。
「では最後の組です!」
佐嶋が箱に腕を突っ込みゴソゴソと中を漁る。そして掴んだあと、ギュッと引っこ抜いた。
紙を見て目を丸くする。
「最後なので言いますけど、この組を発表と同時に『ドロタン』がスタートになりますので、発表したら全力で逃げてくださいね」
チラッと佐嶋が俺たちに目を合わせた気がした。
まさか。
「では発表します!」
俺は無言で右手でソラとカジの腕、左手でホシの腕を掴み、強引に外に連れて行く。その瞬間。
「オカルト研! ではスタート!」
「え!? どういうこと」
「えっと?」
「これってまさか?」
「気づくの遅え! 赤い帽子とって早く逃げるッ……」
「うおおおおおおお!」
後方から地響きに似た音が鳴り響き、人の波となって後ろから追いかけて来た。
「いやあああ! 何なのよこれ!」
「だから後半になればなるほど、慌てていたのね」
「ああああ!」
「とりあえず今は逃げることだけ考えろ。他の奴らが逃げ切っても勝ちだけど、ここで捕まるのは癪だから逃げるぞ!あとしがみつくな」
途中で腕を離したがカジがめちゃくちゃ掴んでくるし、ソラは絶叫しているし、ホシはもう前に逃げているし。あいつ早いな。
「待たんかいコラ!」
「アホンダラ!」
「ぶっ潰すぞ!」
口悪すぎだろ。後ろの奴ら。
似た光景を見た気がするな。
最近面倒ごとに巻き込まれ過ぎだ。
波乱の幕開けだった。




