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ワガママな人達の交響曲  作者: 三箱
第3章 『ドロタン』
20/47

9月初日

 あれから特に進展なく、九月を迎えた。

 

 夏休みは思ったよりあっという間に過ぎ去っていった。

 けど呪いを解く方法は全く見つからない。

 ピアノの鍵盤は見えないままで、ラとシの音が聞こえないのは変わらないままだ。

 

 進展があったのは、カジのピアノ捌きとソラのジャグリングぐらいか、だがこれもあくまでも個人での話だ。

 二人の演技を合わせてもまだうまくいかない。

 やはり勝手が違うみたいだ。まあ大半の原因は、カジにありと言ったところか。


 それで家の現状だが、久江は仕事のため、というか学校の保健医の職務に戻るために自分の家に帰り、ソラも一旦家に顔を出さないといけないので帰った。


 それで、カジとホシは俺の家に滞在中だ。

 相変わらずいがみ合っている。実家に帰らないらしい。

 謎だな。

 俺が心配することは全くないが、普通の家庭事情ではないだろう。

 まあそれはいい。それよりもだ。


「何故両隣にいる?」

「響ちゃんの横にいるのがいい」

「銀髪娘の横にいるのは嫌だ」

「どっちも離れろ。鬱陶しい」


 始業式当日、制服姿で登校するはいいものの、何故か二人が腕は組んでいないものの俺の両隣に引っ付いて歩いている。カジの理由は分かるが(鬱陶しいには変わりないが)ホシは全く分からねえ。


「特にホシ。お前俺と歩く意味ないだろ」

「この銀髪娘が男と仲睦まじく歩く姿を見るのが腹立たしいから、近くで妨害するため」

「じゃあカジの隣行け」

「横に歩くのはもっと腹立たしい」

「メンドクサイな」

 

 ホシも変な奴だ。


「何で学校まで来てあんたに邪魔されないといけないの? そもそもあんたクラス何処?」

「クラス? 2-B」

「2!? 2って二年? あんた二年?」

「って銀髪娘一年か。なにため口聞いてんじゃコラ!」

「知るか! あんた一言もそんなこと言っていないんじゃん」

「うるせえ!」


 ビシッと二人の脇腹に肘打ちを繰り出した。

 左右対称で同じように頭を抱えて立ち止まる二人、本当何なんだこいつ等。

 めっちゃ積極的に押してくる女性に、片やその女性を必要以上にちょっかいをかける女、というか何でこいつら二人揃っているのか?


「響ちゃんひどい!」

「何故すぐ殴る」

「へいへい」


 押し迫られそうになるところを、二人の肩を掴んで制して、適当にあしらった。面倒な奴らだ。本当に。



 教室に辿り着き、自分の席に座ると、右肩をトントンと二回つつかれた。

 後ろを向くと、ソラがそっと右手を上げて少しはにかむ。


「おはよう」

「お、おう」


 夏制服姿のソラだった。ジャージ姿の彼とは違う。

 自然と挨拶をしてきたが、学校が同じでクラスが一緒という今の状況に違和感を隠せない。

 夏休みは毎日顔を合わせていたが、学校で出会ったのは今日で五回目だ。高校に入学して五か月以上経ったのに、まだ一週間も満たない。


「どうした? 僕の顔に何かついている?」

「いや別に。慣れないな。学校でソラと会話するのが」

「僕も君も、たぶんもともと会話する方でもないから」

「確かにな」


 片や人を信じない一匹狼と、片や影の薄い休みがちのジャグラーだからな。共通点はない。

 やはり珍しいのか、教室にいる何人かの生徒が、こちらに視線を送り何かひそひそと話をしている姿が見えた。

 基本無視だが。


「そっちの様子はどう?」

「そっち……。ああ。もうあれだ。うるさくて仕方ない」

「だと思った」

「訊いてきたくせに……。まあ。あいつらが静かになったら逆に気持ち悪い」

「それは言えてる」


 むしろソラが出てからやたら騒ぐようになったし収拾がつかない。

 ホシがカジにチョッカイをかけ続けているし、本当に困る。

 

「ソラ、今度いつ来れる? マジでホシが止まらない」

「とりあえず今夜は行けるよ。明日土曜日だし」

「そうか。それはよかった」


 ホッとした。

 ホッとしたのか、誰かでホッとしたのか。俺。

 自分の心境の変化にほんの少し胸が疼いた気がした。



 ガラガラ


 教室の扉が開いたので、先公が入ってきたと思ったが違った。


「おはようございます。ホームルーム前に失礼します。『漣祭実行委員』です」


 文化祭の役員であろう人達が、ぞろぞろと入ってきて手作りの横断幕「ビッグスターコンテスト」を抱えながら、黒板前に並んだ。


「皆さん。改めておはようございます。もうすぐ文化祭ですね」

「……そうですね」


 何人かが数年前の某テレビ番組のノリをする。

 今の流れでよくわかったな。


「私は文化祭の実行委員長の佐嶋香苗(さじまかなえ)です。漣祭を成功させるために精一杯頑張らせていただきますのでよろしくお願い致します」


 真ん中にいる少し茶色がかった髪の女性がぺこりと頭を下げた。チラホラと拍手の音が聞こえる。


「それで今回お邪魔したのは、重要連絡がありましてお邪魔しました。それは漣祭の目玉イベント『ビッグスターコンテスト』についてです」

「おお!」


 教室がどよめいた。


「出演応募が今日となっています。そして参加する団体は、今日の放課後に体育館に来てください。今後の予定について打ち合わせをしますので参加よろしくお願い致します」


 コンテストの打ち合わせか。そうかもうその時期か。つうかマジで出るのか。あいつ。

 練習はさせているが、いまいちピンとこない。それに俺が出るわけではないし。

 ん。それに今体育館って言ったな。


「風間君。ふと思ったんだけど、梶原さんはもう応募したのかな」

「あいつの行動力なら、応募してそうな気がするが、一応訊いてみるか。まあ応募してなくてもどうせ行くだろ。あいつなら」

「そうだね」


 ふと前を向くと、チラっと実行委員長と目があった。反射的に睨みつけようとするが、その前に何もなく女性は視線を逸らした。

 偶然か。


「では皆さんの応募お待ちしております」


 ぺこりと頭を下げて、教室を後にした。

 典型的な優等生だな。俺は好きではない人間だ。普通に暮らしている分には害はないだろう。どうせ話すことは無いし。


「どうする? お前出る?」

「どうしようか。迷っている」

「私出ようかな?」


 クラスの奴らが騒いでいやがる。

 正直、ミーハーな奴らだなと思う。大半は冷やかしだろ。特に今迷っている奴はそうだろう。本気の奴は夏休み前に応募しているだろう。

 だから今話している教室の奴らに虫唾が走る。


「みんな。出るのかな」

「どうだか」


 ソラは教室内を見回している。気になっているようだ。

 俺はソラとは反対に外を眺めたのだった。


 

 昼休み


「響ちゃーん!ンンン!?」


 教室に突撃する勢いで扉を開けたカジを、教室に入れる前に強引に廊下に押し戻し、その勢いでオカルト研まで連れて行った。


「響ちゃん。相変わらず強引!」

「頼むからクラスで騒ぐな。あまり変な目で見られたくない」

「変な目って、それ今に始まったことではないよね」

「ほっとけ!」


 今までの視線と意味合いが違う。いやこいつ絶対わかってやっている。


「で、どうしてここに?」

「ここなら部外者は誰も来んだろ」

「お、それはまさか?」

「そのまさかは永久に起きないから心配するな」

「ええー」


 ブーブーって、怒っているように見せているのは態とだ。なんだろうな。ちょっと胡散臭くすら思えてくる。


「それよりも、おまえ打ち合わせ行くのか?」

「打ち合わせ? ああ。行くけどでもちょっとね。怖いから、響ちゃんついてきて」

「はあ? 俺出ないぞ」

「それは分かっているけど、ちょっとね。不安というか」


 カジにしては珍しく気弱な発言だな。

 いつも目を合わせて話すカジが自ら外した。

 

「ソラがいるだろ」

「ソラ君もいるけど、やっぱりいつもの面子が揃っていないと不安かな」


 どういう意味だ。

 三人揃わないと不安というのか。別にカジは俺がいなくとも一人で突っ走れるだろうに。

 それに、人目を気にするタイプでもないはずだろう。

 

 ガラガラ。


 扉が開き、暗い部屋に光が差し込む。


「どうも」


 胸の前で手を上げて入るソラ。


「やあ!」


 手を頭の上にあげてテクテクと入ってくる久江。


「何ここ。めっちゃ陰気臭いんだけど」

「なんでこいつまでいる」

「こいつってひどっ!」


 頬を引き攣らせ、眉間に皺を寄せながら、周囲をキョロキョロと警戒をしながら入ってくるホシ。


「って、何でバカまでいるの」

「あんたには言われたくない銀髪バカ」

「まあまあ。たまたま会って、連れて来たのは僕だし」

「そ、そう」


 ソラの言葉により言いかけた言葉を飲み込むが、まだ口がぐにょぐにょ動いて落ち着かないカジ。

 腕を組んでフンと鼻を鳴らすホシに、イラッとするが、ここは俺も我慢する。

 

「まあまあ。戦力は多いほうが良いし」


 仲介のつもりか、ひょこっと間に割って入ってきて両方に笑顔を振りまく久江。


「戦力ってどこかに戦いを挑むわけじゃねえし」

「えっ。あるじゃん。一か月後のイベント」

「また勝手に話進めやがったな!」


 鬼気迫る怒鳴り声に、久江はビクッと震えあがらせるが、後ろに半分足がさがっただけだ。

 

「いいじゃん。多い方が!」

「そうよ! 何をするか全く知らないけど」

「お前も、ノリかよ」


 コントをしたいわけではないが、突っ込まざる負えない。そうなってしまう。

 大方たまたま出くわした後、久江の誘いに二つ返事で答えたのだろう。


「と言ってもメンバー決まってるだろう。カジとソラだろ」

「そうだよ。別にコンテストではないよ。文化祭でオカルト研の出し物的人員確保で」

「つうか。部員じゃないだろ俺ら」

「フフフ。この私の先生権限を使えば……。ぎゃあああ」


 ポケットから出しかけた入部届らしき紙束を一瞬で奪い取ってやった。

 久江が全力でジャンプするのを無視しつつ顔の目の前で確認する。稚拙な文字で書かれた俺とソラとホシの本名が書かれていた。あまりにも作戦が単純すぎてバカすぎる。筆跡でバレるだろう。


「え、僕もあるの」

「えっ? 私のも!?」


 カジは頬骨を上げて喜んでいるが、ホシの存在がいることで眉間に皺が寄っている。とても複雑そうな顔だな。


「へえー。そうか」


 ギロっと睨みつけてやる。いやアホ過ぎて見下す感じで上から見下ろしてやる。

 それでも、ウーウーとサイレンのように唸りながらも、見つめ返してくる。必死だな。


 オカルト研か……。


 ふと過る。

 オカルトチックなことに正直興味あるわけではないし、宇宙との交信をしたいとも思っていないが、自分のピアノの呪いを解きたいとは思っている。

 解呪に必要な情報があるし、自由に調べられる可能性はある。


「おい。カジ」

「は、ひゃい!」


 何動揺しているのか、変な声を上げているし。


「ちなみに、オカルト研に入ったら部室の資料全部読めるのか」

「え? そうだよ」

「そうか」


 俺は三枚の中から、他人によって書かれた俺の名前の紙を引き抜き、俺の足にしがみつく寸前の久江の頭の上にポンと置く。


「へ?」

「とりあえず。限定で入ってやる。でも部活動はしないからな。情報を得るだけだからな」

「え」

『ええええええ!』


 耳がつぶれる程の叫びの後に、四人にものすごく迫られた。


「響ちゃん。え。どうしたの。何か変なもの食べた?」

「風間君。酔っています?」

「明日槍でも降るんじゃない?」

「あんたこそ三重人格じゃないの?」

「うるせえ! 特別変なもの食っていないし、未成年やし、戦国時代じゃあるめえし、それお前にはいわれたくねえ!」

「おおおおおおお!」


 四人が両手を前に出して、感心して拍手をしている。

 何だその一体感。それに二人増えているし。

 マジでこいつら。


「じゃあ。もう流れで入ろうかな」


 ソラが俺の右手に掴んでいる入部届をスッと引き抜いた。


「先生。もうちょっと字を綺麗に書いてください」


 ソラが久江の手に静かに渡した。


「じゃあ。私も流れで!」

「えーーーーー」


 俺とカジがジトーっとした目をする。カジは本当に嫌な顔をしている。本当に呪うような目をしている。


「ちょっと! なに! 何か不満あるの!」

「いや不満しかない」

「むしろ今すぐ消えてほしい」

「うっ! 何よ。別にいいでしょ」


 バタバタと足音を鳴らして、俺の手から入部届を強引に奪い去った。


「私も一人は嫌なの!」


 久江の顔の上にぺしっと叩いた。

 痛そうに両手で受け取る久江。


 一人か……。


「まあ。まあ。多い方がいいんじゃない」

「ソラ君!」


 少し目をウルウルしながら、羨望の眼差しを送るホシだった。


「おい。とりあえずあのオカルトジュースを飲ませろ」

「オッケー分かった。激辛タイプにしとくよ!」


 歪んでいた表情から、子供の様にウキウキした表情にパッと変わった。


「それで、一つ訊くがお前もう応募したのか?」

「応募はしたよ! ほらここに書類があるよ」


 カジのポケットから出て来た応募用紙、出演団体「オカルト研」責任者「梶原渚」。


「……」


 名前を見た瞬間に俺はあんぐりと口を開けた。


「お前出してないのか」

「……あ。そうみたい」


 打ち合わせに俺も参加するべきか。と溜息交じりに理解した。


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