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ワガママな人達の交響曲  作者: 三箱
第2章 『忙しない夏休み』
18/47

頼み事

「つうか。いつまで引っ付いているんだよ」


 俺は今、洗面台の前にいる。

 両腕をぎっちりと束縛された状態で。


「だってまたどっかに行くんじゃない?」

「そうだよ。だから添い寝作戦という、羨ましい展開にしたから感謝してよ」


 久江とカジがムフフと薄気味悪い笑いを見せている。


「だからって紐で縛った上に添い寝って、どこの変質者だよ。つうかお前らの俺に対するプライベート空間がほぼゼロ距離なのは大丈夫なのか」

「ん? だって響ちゃんとは友達じゃん。その時点で距離はないじゃん」

「うんうん」

「そうか」


 何となく予想していたけど、今更突っ込む気になれない。


「こちらの心配を少しは考慮してください」

「わかったけど、お前もさりげなく肩に手を置くな。気持ち悪い」


 後ろにいるソラが、手を置く行動のわりに気難しい顔で俺を睨んでいる。

 感情をあんまり面に出さないはずのソラが、起きてから辛辣な対応をされていて、動揺してはいる。


「全く今回は自業自得でしょ。全く不愉快極まりないよ」

「と言っているお前は、何故さりげなくソラの肩を掴んでいるんだ」

「それは、何かこう。アタイだけしてないのは変かなと思って」

「寂しがり屋か」


 こう、癖のあるやつばっかだな。本当に。



 それで何でそうなったか。やっぱり昨夜の単独行動はバレていた。

 俺がいなくなってから少し経った頃にカジが起きたらしい。

 そして慌てて探しに行こうとするカジを久江が引き留めて、そのいざこざに巻き込まれたソラとホシ。

 それでフラフラになって帰ってきた俺を縛り上げた挙句、直接束縛すると言った状況になったらしい。

 寝不足のソラは特に機嫌が悪い。ホシには同情しない。

 全くどうしたものか。

 これ以上迷惑かけると、家から出られなくなる危険性もある。

 とは言ってもピアノ呪いは俺自身の問題だ。誰かに相談してどうにかなることなのか。

 いやそれ以前に、何でそこまで心配してくれるわけだ。

 正直、俺はお前らに何もしてあげてない。

 なのに、こんなに心配する理由は何だ。

 何回も助けてくれたけど理由が分からない。

 訊けばいいのか。

 どうすればいい。


「あ、また怖い顔している」

「本当だ。だから気になったんだ」

「カジさんの推測って凄いですね」

「全く。銀髪娘の推察力だけは認めるわ」

「褒めてくれるって明日は槍が降りそう」

「はあ」

「何か。文句あるの」


 ホシとカジの睨み合って火花を散らす。


「もう一度強制百合儀式でもしようか」


 パキッと拳を鳴らすと、ビクッと二人とも顔が引き攣らせていた。

 少し、緊張がほどけた気がする。

 けど、それでも俺はまだ心のわだかまりが残っている。

 四人揃って鏡越しに俺に注目する。


「何だ?」

「いや。最近、何かあったよね?」

「……」


 澄んだ青い瞳は、疑っているのではなかった。自信を持った確信を持った目を向けていた。

 見抜かれていた。

 その上俺は、一瞬黙ってしまったから、図星ということが丸分かりだった。

 言い逃れできないな。

 ただ本当にいいのだろうか、ここ最近の貸しを作ってばかり、自分勝手をあれほど指摘されて、それでも、また同じことを繰り返したのに、これ以上……。


「響ちゃん」


 左隣にいる彼女が、突然顔を近づけて来た。

 唇に仄かに暖かく柔らかい感触。今まで経験したことない感覚。

 ギュッと体を包まれる抱擁感。

 今まで味わったことのない優しい暖かさ。

 何をされているか分からなかった。

 ふっと彼女は俺から顔が離れていく。

 彼女は頬を真っ赤に染めながら、微笑みかける。


「えっ」


 俺はさっと口元に手を当てた。


「えええええええええ!」


 周りにいた三人がものすごい勢いで、後ろに下がっていった。特にホシは部屋を出て扉の裏に隠れるくらいまで下がっていた。


「ちょ、ちょっと。何をやっているのなっちゃん」

「え。梶原さん」

「ちょ、ちょ、キモイ!」


 これは一体、何だってんだ。俺は今何をされた。何をされていた。

 茫然としている俺に、彼女はそっと顔を覗かせた。 


「何でもすぐに話してくれとは言わない。けど本当に悩んでいるなら、何でも言って。矛盾しているけど難しいかもしれない。知り合って一か月半くらいの人間に何から全部話してとも言える立場じゃないけど。それでもそんな苦しくて難しい顔をしていたら、心配するし、私たちも心が苦しくなる。今まで一人で生きて来たのならいい。でも時には人を頼っていいんだよ」


 彼女の目がウルウルと涙を溜めていた。

 何故、泣いているのか分からない。

 俺のためなのか、だとしてもそこまでしてくれる理由は何なのか。

 本当に怖いくらいだ。

 だが……。


「少し落ち着かせてくれ、そして今日一回ピアノを弾いてくれたら話す」


 三人が見守る中、カジの理解が追い付かなかったのか、呆けた表情を見せたあと、ホッとしたように顔が綻んだのだった。

 

 

 現実は変わらない。

 カジがピアノを弾き続けている。

 だが依然として、ラとシの音の曇ったように聞こえないのは変わらない。

 ちょっと気持ち悪い。頭にガンガン響いて、落ち着いていられない。

 健在の音階の音すら半音ズレて聞こえるような気がする。下手くそなヴァイオリンの音だ。

 頭の中で、その音を繋げれば、まだ曲として捉えられるが、ちょっと頭がしんどい。

 カジの指の動かし方は視界に捉えられる。目を張る速さで上達しているのが分かった。こいつもそれなりに練習しているんだな。


「どうだった?」


 弾き終わったカジは、俺に親に褒めてもらいたい子供の様な期待の眼差しを注ぐ。

 だが一瞬にしてそれを崩れていくのが分かった。俺のせいで。

 俺は頭を使いすぎたのと、音の気持ち悪さと、眩暈によって壁にもたれかかり、床に落ちていった。

 世界が回り、胸がムカムカして、吐きそうだった。


「響ちゃん!」


 カジは椅子を倒して駆け寄ってくる。


「大丈夫だ。ちょっと音に酔った。とりあえず水を持ってきてくれ」


 軽く手を挙げて頼む。


「え、うん。ちょっと水持ってきて、居候!」

「居候ってあんたもでしょ」

「んなこと言っている場合じゃない。取って来てよ」

「私に命令しないで」

「あー。僕行くよ」

「いや。ソラ君に行かせるのは、何か悪いから私が行く」

「何それ!」

「ええ!」


 俺の指示に、長いやり取りを経て、ホシが台所に駆けていき、水を運んできてくれ、俺に突き出す。

 俺は奪い取り口に水を含み喉を洗うように、飲み干す。

 カジは、落ち着かずに手がソワソワし体もジッとしていない。

 隣で様子を伺っていた久江がカジの手を掴んでいる。

 ソラが正面で見守り、しれっと立っているホシである。

 情けない。

 この俺がこんな無様な醜態を晒すことになろうとは、深く呼吸を二回して酔いが醒めるまで体を休ませた。

 ホシ以外は心配そうに俺を見つめていた。

 ひどいな俺。

 今まで気にしていなかったけど、あんな顔されたのは少し気が滅入る。


「大丈夫?」

「大丈夫だカジ」


 俺は平静を装うがカジは未だにソワソワしている。

 これ以上隠しても、また同じように際限なく心配させることになる。

 正直、どうしようもなくなって明かすって無様だが、仕方ない。


「すまん。カジ。ちょっと頼みごとがあるのだが」

「いいよ。響ちゃん!」

「ドから半音階ずつ一オクターブ分弾いてくれ」

「いいけど、どうして?」

「いやあ口で説明したいが、確信を持たすためにやってくれ」

「わかった」


 俺の意図に理解し兼ねるという表情をしているが、彼女はピアノに向かってドから半音ずつ弾き始めた。

 結果、俺の予想通りの答えが返ってき、俺は確信に至った。


「俺は音も聞こえなくなっている」

「え?」


 四人揃って驚嘆するが、頭上にはてなマークが出現したような渋い顔になる。

 一言で伝わると思っていないが。


「つい二日前にソラからウォークマンを借りて聴いた時からだ。ラとシの音が、聴き取れなくなった」

「夕食を買いに行ったあの時ですか」


 俺は首を縦に振る。

 ソラはポンと手を打つので、俺の違和感に気が付いていたみたいだ。


「ピアノが弾けなくなったのと合わせると、間違いなく……」

「呪いが進行している」


 カジが声を重ねたあと、顎に手を当ててフムと唸る。らしくない表情だ。


「だから、出かけていた。にしてもどこに?」

「学校だ。久江が言った俺が倒れていったという音楽室にだ」

「確かに、というかものすごい危険地帯じゃない!」


 数秒の理解の後に、久江が頭を抱えながら詰め寄っていく。両手で久江の肩を掴んで何とか攻撃は間逃れる。

 じゃれあっている間に、ビシッと手を上げるカジ。


「学校に行ったせい?」

「いや。消えたのは学校に行く前だ。前触れなんて無かった」

「うーん」


 今度は両腕を組んで、真上を見上げる。

 行動がオーバーだな。


「でもこのままだとまずいですね。音が消えるということは、カジさんの練習にアドバイスできなくなるし、コンテストに間に合うか分からない。最悪の場合」

「響ちゃんの身にもっと良くないことが起きるかもしれない」

 カジがまた重ねる。重要なところは逃さない様に。

 そうだな。まずい状況だ。


「ちょっと待ったああああああ!」


 ホシが空気をぶち壊す勢いで、真ん中に突撃するように割って入る。


「いや。あんた誰?」

「誰ってウルサイ。銀髪」

「何だよ。ホシ」

「何だよじゃない。呪いって何? 音が聞こえなくなるって何。めちゃくちゃ置き去りにされているんだけど」

「ああ」


 そういえば、居なかったな。突然現れたからな。屋上も会話が終わってからだし。

 けど、こいつに説明するのって面倒だし、めちゃくちゃ話切ってきたし。どうするか。


「じゃあ。一分で説明するからな」



「ええええええ!」


 ホシは、壁にへばりついた上に、両手を訳わからない位手を変な方向に手を上げて、めり込むぐらいびっくりする。

 相変わらず反応が大袈裟だな。

 まあ。すんなり受け入れるソラと久江の方が可笑しいか。これが普通の反応かもしれない。


「え。えっ。二人とも超人だったの」

「どこの話からそうなる!」

「まあ。大袈裟バカ娘はほっといて、次の対策について」

「誰が大袈裟バカ娘だ」

「まあまあ」


 ソラが、ホシとカジの間に割って入り、落ち着かせる。

 相変わらず、ソラには本当に助かる。


「それでどこまで話したっけ」

「響ちゃんに良くないことが起きるってこと」


 カジが真剣な眼差しに戻っていた。

 そうだ。これは大変な問題だ。

 だから俺は単身で探しに行った。


「だから手がかりを探すために学校に行ったのだが、目立った収穫がなかった。十五年前の卒業文集ぐらいか」


 俺は机に置いていた本を置く。


「卒業文集?」


 声を揃えて、俺の戦果の品に注目する。

 俺はパラッとページを捲りながら、何を話そうか考え、とりあえず今は事実確認だけでもしようと、その該当のページを探す。


「あれ」


 だが俺が見たはずのオカルト研のページを何度も探すが見つからない。

 どういうことだ。昨日はしっかりと見たはずだが。

 仕方ない直接聞くか。


「久江、一つ訊きたいのだが?」

「いいよ。何?」

「久江ってオカルト研の元部長だったのは本当か?」

「え……。 そうだよ!」

「何だ今の間は」

「いやー。だってもう十五年前の事だから、あんまり覚えていないから、急に振られてびっくりしたよ」


 久江の言葉の歯切れが悪い。変に首筋を掻いているし、でもまあ十五年前なんて記憶が風化してもおかしくはないか。


「何やっていた?」

「それはね。未確認飛行物体の捜索や、心霊スポットの探索と、幽霊に憑りつかれても自力ではじき返すための筋トレ!」

「……。お前、本当に。いややっぱり久江か」

「うんうん」

「ですね」

「ってそこ納得する所!?」


 俺の納得から、カジは頷きを繰り返し、ソラは子供を見るような暖かい目で見つめる。ホシの反応が本来正しいけどスルーしておこう。

 自分が恥ずかしい目で見られていることに時間差で気づくと、久江は顔を真っ赤にして俺に突進してくる。


「子供扱いするな!」


 俺は頭を押さえて、攻撃を阻止する。

 両手をジタバタするが、俺には届かない。


「それはともかく、どうします? 呪いを解かないと今後に大きな支障が来ますね」

「ソラ、そこそこ残酷……。まあ違いない。何としても解かないとまずい気がする。音が聞こえないは死活問題だ。だが俺は頭がよくない。だから……」


 声が詰まる。

 今から言おうとする言葉を躊躇った。

 急に何で、いやでもそうか。

 俺が今まで散々迷惑をかけてきたくせに、更に迷惑を重ねるということに抵抗を持っているのだ。

 都合のいい話だ。散々心配かけて散々我儘している自分が、俺のために協力してくれと言っていいのだろうか。人なんて鬱陶しいと思っていたのに、助けられたからって次も手伝って言うのって虫が良すぎる気がしてならない。

 ふと見上げるとカジとソラはジッと己の瞳を見つめ返す。

 痛くてたまらない。

 ソラはあんなにジャグリング出来て練習を怠らない、カジは慣れないのにピアノに真剣になっている。久江はこう見えても、心配症もあるが顧問としてわざわざ様子を見るために来てくれている。

 ホシは、正直分からないが、ただいやいやでも楽譜を書いてくれたからな。

 こいつらに頭が上がらない。

 その四人にまた頼むのは忍びない。でももうこれ以上、あんな心配そうな顔をさせるのもよくない。

 俺は深々と頭を下げた。


「わりい。すまん。三人共呪い解放に協力してくれるか?」

「もちろん」

「そうですね」

「ふふ」

「あんたが頭を下げるとはね。状況全く読めていないけど、協力……ウゲッ」

「じゃあバカ娘はほっといて調べよう!」


 カジはホシを突き飛ばす勢いで押しのけて、俺の手を引っ張った。

 引っ張られるように俺は腕を上に挙げた。その手の感触に俺は少しの安心感をおぼえたのだった。

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