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ワガママな人達の交響曲  作者: 三箱
第2章 『忙しない夏休み』
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一番目の呪い 2

 目を覚ますと白い天井と蛍光灯。少し前にもそんなことがあった気がするが置いといて。

 ゆっくりと起き上がると、白いカーテンで区切られたベットにいることを認識する。腕と足を動かすが痛いところはない。

 直前の記憶を思い出そうと頭を捻る。俺は例の崖の場所に行き、そして朝焼けを見た後、赤髪の女性に会った。

 そして……。

 そこまでしか思い出せなかった。優れない頭に手を当てる。


「仕方ない」


 ベットから降りて立ち上がり、首を捻りながら、俺はカーテンを開けた。


「きょうう、ちゃあああん」


 両手を広げながら、イノシシのように突撃してきた人物を俺は咄嗟に横に躱す。勢い余った人物はそのまま後ろのベットにダイビングヘッドし、ボフッという布の音の後に、金属がひしゃげる音が追加され、レールからカーテンが外れる。

 そして「ガラガラ、ガッシャーン」と金属の硬く高い雪崩れる崩壊音が耳が痛むほど響き、そして程なくして止まった。


「響ちゃん! 何やってんの!」

「俺じゃねえ!」


 全身布に巻かれたまま、ぴょんぴょんと跳ねながら、起き上がったてきたカジ。

 何故か責められる。


「響ちゃんが避けるから、こうなったんじゃない」

「ベットを破壊する程の威力の突撃が来たら普通避けるだろ!」

「そこは懐の広さでガシッと受け止めてくれるのが響ちゃんでしょ。それに響ちゃん普通じゃないし」

「俺をそこらの恋人と勘違いしてんじゃね! あと何勝手に超人扱いしてんだよ」

「違うの?」

「違うわ!」


 平常運転、いや前よりもボケとマイペースさが上がってきている。

 人間じゃないって言っても、呪いを受けただけだろ。

 カジに呆れていたら、奥の引き戸が開かれる。


「風間君起きたかな? ん? 何があったのかな?」


 ベットの惨状を見て、目を丸くするソラ。


「ああ。こいつのダイビングヘッドによってな」

「何私をプロレスラーみたいに言うの」

「ケッ」

「あー。何か突っ込んでよ」


 俺の背中を肩叩きのように両手でポコポコ叩く。

 向こうは必死に叩いているみたいだが、あまり痛くない。丁度いいマッサージ機みたいだ。


「元気そうで良かった」

「ああ? これのどこが?」


 寝起きに騒動に巻き込まれて、しんどいだけだ。ソラはいつも通り、暖かい眼差しを送っている。 

 本当、バカな奴らだ。

 けど……。まあ……だな。

 俺はほんの少しだけ口を緩めた。


「つうか俺、何故ここにいる?」

「響ちゃん。覚えていないの? 外で倒れていたんだよ」


 倒れていた。その事実に驚く所だが、それよりも一週間前にあった既視感の方が強く思える。


「またか……」

「また?」

「いや。気にするな。続けろ」


 ボソッと呟いたことに、すかさず突っ込むカジの地獄耳に静かに驚きながらも、冷静に返して話を進めてもらう。


「青山公園でしかも朝早く」


 あの場所は青山公園って言うのか。知らなかった。


「もうぐったり、汗をダラダラと流して、苦しそうな表情をしていたよ」

「確かに驚いたよ」


 フムフムと思い出すように頷くソラ。


「ソラも来たのか」

「いや僕は後からだね。渚さんから連絡があって何かかなり慌てた様子だったので、結構急いて駆けつけたたんだ。そしたら風間君がかなりぐったりな状態で、梶原さんに背負われていたからね」

「……ちょい待て」


 何か今、聞きたくない言葉を聞いた気がする。瞬時にカジを凝視すると、顔の目の前で人差し指と人差し指をツンツンしながら、照れるようにチラチラ見返す。物凄くイラッとした上に、極度の恥ずかしさを襲う。


「おま、おまえ。何、そんな、そんなこと。いや」

「だってそれしか思いつかなかったんだから。響ちゃんが倒れていて、助けたいけどどうすればいいかわかんなくて、ソラちゃんに電話したけど、来るまでに取り返しのつかないことになったらって思うと、居てもたってもいられなくて」

「お……。え……。ぐっ」


 出てくる侮辱と罵りの言葉を寸でのところで止めた。いつものうのうとしているカジが、必死に顔を歪めるほど訴える姿に、口を閉じるしかなかった。


「僕も焦りました。風間君が苦しそうな姿なんて想像していなかったので」


 のらりくらりのソラも慌ていたみたいだ。

 当の本人の俺が逆にあんまり動揺していないのが、逆に不思議かもしれない。というかここまで心配されると思わなかった。いや心配される人なんていなかったし、腫れ物に触るような対応をされってきたから……。


「そうか……。少しばかり、迷惑かけた」


 ポロッと言葉が出てきた。ほんの少し間を置いてその言葉を発した自分に驚いた。

 けどそれ以上に、二人は目を大きくし、パチクリと二回瞬きして……。


『えええええええええ!』


 耳が壊れる程の声量が響き、二人がガシッと俺の胸倉と肩を掴んだ。


「響ちゃんどうしたの? 頭打ってどこかネジが吹っ飛んだ?」

「風間さん。何か変なものでも食べました?」

「響ちゃん。記憶喪失? 自分の名前分かる。ワッツユアネーム?」

「風間さん。こういう時は、もう一度強い衝撃で気絶すると元に戻りますので、もう一回後頭部ぶつけてください。せーの」

「うっせえええわ!」


 思いっきり二人を振りほどいた。


「あ。元に戻った」

「いつもの風間さんですね」


 相当な猛威で気圧されたのにもかかわらず、普通に納得する。その変わり身の早さにこっちの方が疲れる。


「はあ。まあいい。それで、これからどうする?」

「んー。そうね。というか、響ちゃんによって今日の予定潰れているけど」

「ヌ」


 痛い所を突かれた。チャッカリしているように見せかけて相変わらず要点を射てくる。俺はいつもなら強がりを言うのだが、今回に至っては立場が悪すぎて何も言えない。ムスッと顔を膨らまして、睨みつけてくるカジ。視線を合わせられずに、逸らしてしまう。


「まあ。いいわ。今回に関しては、響ちゃんは大変だったしみたいだし、それにその他色々あったことには、特に不満はないし」


 顔をまたもやポッと赤く染めて、チラチラ伺うように見つめる。なんだ後半の曖昧表現。そんなにお前が恥ずかしがるような……。

 つうかまだ話を掘り出してくるのかよ。背中に俺を乗せたことに。

 ガンを飛ばすと、顔を隠す。下手くそ過ぎるだろ。横では微笑みながらソラが見つめている。


「ソラ。何を笑っている」

「いや。二人のやり取りは見ていて飽きないな」

「呑気だな」


 こっちはかなりの精神的体力を消耗しているのに全く……。呆れすぎて、突っ込む気にならない。元からそんな柄でもないし。再度二人を眺めると、二人共何かまだ感情の余韻に浸って意識が戻ってくるのに時間がありそうだから、現状身に起きたことを考察する。

 俺が二回目に倒れたのは、あの朝焼けが見えた公園。一回目に倒れたのが音楽室、久江情報であるが救出した当人曰く間違いないみたいだ。となると共通点として両方とも十五年前の事件の場所か。けど俺はそこには全くと言っていいほど関わり合いがない。知ったのが、カジに言われた時だからな。

 次に違う点は、一回目は音楽室にいた記憶がほぼない。特に直前の記憶など全く覚えていない。二回目は、場所と直前に誰かに会ったことは覚えている。けど会った人物がどんな雰囲気だったかは、思い出そうとしても記憶がぼやけてしっかり出てこねえ。でもこの違いは何かを示唆しているかもしれん。あくまで予測でしかないが。


「……」


 最近頭を使っていなかったから、頭に何か詰まったような圧迫感を覚える。けどもう少し絞り出す努力をする。

 憶測になるが、一回目もたぶん直前に誰かに会っているのではないか。そして何らかの理由で倒れた。そして結果的にピアノが弾けない呪いを受けている。それで二回目も倒れて……。


「……」


 今、背筋に悪寒が走った。いや、そんなことがあるのか。


「響ちゃん。どうしたの。顔色が悪いよ」


 心配になったカジが、詰め寄ってくるが、俺はそれに応対する余裕がない。


「やあ。やあ。元気でやってる!?」


 扉を開けて中に突入して来た久江は、短い手を挙げて俺らを一瞥する。


「あれ。どうしたの。風間君顔色を悪くして」


 久江にまで心配されるとか、今回の俺は分かり易すぎた。失態だ。

 トコトコと子供の様に寄ってくる久江は、ピタッと止まって見つめる。見つめているのは俺の顔だが、俺を見ているようで見ていない。俺のずっと奥の方を見つめている気がする。と思った瞬間に、今度は久江の顔が蒼白しはじめ、空いていた口がどんどん広がり。


「うぎゃああああああ!」


 子供の喚き声みたいに叫びだし、猛ダッシュで俺の横を通り過ぎていき、ある地点で飛び込みベットの上で這いつくばるように動き回る。そして折れた鉄骨を掴んで見て、ギュッと顔を赤くする。


「ベットが、ベットが壊れている!!」

「あ」


 そうだよな。そうなるよな。


「誰だよ! 誰だよこんなことしたの!」


 瞳の中にウルウルと涙を溜めながら、俺らに訴えかける。


「響ちゃんだよ!」

「違うわ!お前がイノシシのような突進をブチかましたせいだ」


 真剣に俺を指さして容赦なく人を売るカジに、真っ向から指をさし返して反論する。


「だから、そこは響ちゃんが受け止めれば万事解決だったじゃん」

「普通避けるだろあれは。なあソラ」


 ソラに救援要請を出すと、唐突なフリにあたふたするが、すぐに落ち着いて観察してから答える。


「でもあれは、渚さんかな」


 よし。今回は二対一だ。満足げな顔をカジに見せつけてやる。

 するとカジはグギギギと煮え切らない気持ちを口元にため込み、ギリギリと歯ぎしりの音を立てる。


「そこは男として私を立ててよ!」

「はあ!?」


 真っ赤になりながらプクッと顔を膨らます。

 折れないのかよこれでも。


「そんなのどっちでもいい」


 久江は子供っぽさが全くと言っていいほど無くなり、低い怒りの声がこの場を支配した。メラメラと赤いオーラを燃やし、髪はユラユラと上向きに揺れ始め、瞳はギラギラと光り出す久江。さっきと別の意味で背筋に寒気が走った。隣にいたカジもソラも頬に汗が流れ、ビクッと震える。

 ゴクリと生唾を飲み込んだ。


「こらあー! お前たち! このベットとカーテン高いんだぞ! 何してくれんの! 只でさえ学校の経費少ないのにウワアアアーン!」


 目から滝のように泣き叫びながら子供の様に襲いかかってきた。

 俺らは保健室から全力で逃げた。


「うあああああ」と俺の右腕を掴むソラ。

「いやああああ」と俺の左腕を掴むカジ。


「って、さっきの殺意のような怒りは何だ。ただの子供の悲鳴に戻ってんじゃんねえか!」

「うっさい! せんしぇい舐めんなよ!」

「噛むな!」

「うっさい!」


 後ろから、瞳まで真っ赤にした久江が、見た目からあり得ない速さのスピードで追っかけてきた。

 その上、両隣にノリでしがみついてくるし、鬱陶しい事この上ない。けど何か、このまま捕まると色々怖そうだから全力で逃げたのだった。

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