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ワガママな人達の交響曲  作者: 三箱
第2章 『忙しない夏休み』
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一番目の呪い 1

「母さん。ピアノやりたい」


 僕のわがままに、母さんは嬉しそうに髪を優しく撫でてくれる。


「いいわよ。習いに行く?」


 その提案に僕は「うん」と全力で頷いた。

 一週間後にはピアノ教室に通い始めた。

 最初に弾いた鍵盤の重み、混じりけのない一音。

 これほど心に響いたのは無かった。

 その一音一音が刻み込まれる旋律に心躍り、そしてのめり込んでいった。

 次の一週間後電子ピアノを買ってくれた。

 家でいつでも弾ける環境。ピアノ教室のピアノと若干音と鍵盤の重みに違いはあったけど、ずっと弾ける。楽しくて仕方なかった。

 毎日毎日、学校に帰っては弾いた。弾かない日など無かった。音の世界に浸っている感覚が楽しすぎた。

 ずっとこんな日が永遠に続くと思っていた。


 けど終わりはすぐ来た。


 両親が喧嘩をした。

 些細なことだと思った。

 すぐに終わると思った。

 でも、こわくなった僕は逃げる様に部屋にこもり、ピアノを弾いた。

 喧嘩は収まらなかった。

 日に日に酷くなる。

 花瓶が割れる音、壁が壊れる崩壊音、母の悲鳴、父の怒鳴り声、耳を両手で押さえ、目をそむける。

 逃げる様に白い鍵盤に向かっていく。

 ただそれだけが、恐怖から逃げる唯一の術だった。


 結局、両親は離婚した。

 

 どっちか選べと言われ、目の前に二つの手が差し伸べられた。


 僕はどっちの手も取らなかった。


 僕は母方の祖父母に引き取られた。 

 両親とは違って穏やかの性格の祖父母に不自由なく過ごした。

 

 だが、悪夢は続いた。


 小学生の頃はピアノが弾けたことで、ある程度人気があって皆から慕われていた。

 けど嫉妬というものは存在した。

 それは一部の人間による嫌がらせ。

 初めは靴が無くなる程度だった。

 次第にエスカレートする。

 教科書がズタズタになった。

 服が引き裂かれた。

 遂に体育館裏に呼び出された。

 待ち構えていたのは五人の男子に取り囲まれ、殴られた。

 頬の骨が軋み、呼吸ができない程胸が苦しみ、背中や脚と腕がひん曲がった。

 ボロボロになった体。

 人なんてクソな奴らしかいない。そう思った。

 

 その瞬間プツンと糸が切れた。


 その後のことは覚えていない。

 気が付いたら、僕は職員室で担任が目の前にいた。

 隣で祖父母が泣いていた。

 理由は分からなかった。

 

 しばらく話を聞くと、僕が五人を半殺しにしたらしい。

 

 担任に理由を聞かれ、五人に襲われたからやり返したと答えた。

 だが担任は僕の話を信じなかった。

 

 ただ俺が暴力をふるった事実しか担任は見なかった。

 

 それから僕は暴力人間の不良にしか見られなかった。

 誰一人近づこうとしなかった。

 僕はいじめられていたのに、やり返したら結局僕が悪者に。

 慕っていたやつが全員手のひらを返す。

 

「ああ。人間ってそうなのか」と悟った。


 僕は夜の学校で一人、泣き叫んで弾き続けた。

 そして、僕は……。

 いや、俺は、ピアノだけしか信じられなくなった。




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