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第1章 7話 最悪の運命(1)

 あっちに帰るの怖いな。

 現在俺は、女神様によって異世界に来ている。いい加減、突然景色が変わるのには慣れた今日。

 ただ、呼び出せれたタイミングは最悪と言っていい。

 中間テスト最終日、本日ラストの『科学基礎』のテストを受ける直前。相田が後ろの人にテスト用紙を渡そうと振り返った瞬間だったんだ。

 魔法陣が展開される中、相田は俺と目が合うと驚いたあと何かを疑う表情を見せた。

 何を疑ったのか、それはたぶん――。

「キャンディーさーん!」

 突如、名前を叫ばれそちらに振り向くと相田が俺に向かって走ってきている。

 相田は手を振っている。

 ので、俺が振り返すと嬉しそうに笑い、すぐに俺の元までやってきた。

「こんにちは。キャンディーさんも猫狩りですか?」

 今回の緊急クエストは、人からあらゆる物を奪う『泥棒猫』と呼ばれる猫モンスターの討伐だ。

「はい、そうですよ。ってことはミルさんも?」

 彼女が「はい」と頷き、俺は「やったー、力強い」と喜びながらも内心落胆する。

 同時に異世界に連れてこられたから、まさかとは思っていたがやはりか。

 あまり長く一緒にいると、思わぬぼろが出て正体がばれかれないから怖いけどしょうがない。

 クエストに集中するため気持ちを切り替え、俺が「行きましょ」と森の入り口に足を踏み入れる。

「私今、テスト期間中なんですけど、キャンディーさんの学校はどうですか?」

 並列して歩みを進めていると、相田が何の脈絡なく質問してきた。

「私もちょうど今、テスト期間中ですよ」

「テスト、自信ありますか?」

「まあまあ、かな。ミルさんはどうなんですか?」

「私は、けっこう自信ありますよ。この見た目で意外かもしれないけど、勉強できる方です」

 知ってる。入学式で新入生代表として挨拶してたもんな。

 まじめな態度で、まじめな雰囲気を纏い、まじめに堂々とした様子で1回も噛まずに話していた。

 まじめな生徒とはかけ離れ、入学式から髪の毛染めてきたくせに。

「あっ、意外といえば、学校に同じ立場の人がいて驚きました」

 おっと、それはもしや。

「クラスメイトの男子なんですけど、私と同時に魔法陣が出現しまして。なによりも意外だったのは、以前から私が異世界でモンスター討伐していることを知っているっぽいんですよね」

 もちろん俺ですよねー。やっぱり顔に出ていたか。

「不思議な人ですよね。知っているなら声かけてくれればいいのに」

「て、照れ屋なんじゃないんですか? ほら、ミルさんとっても可愛いですし」

 ついでにエロい体してるし。

 普段女子に――というか男子にもだが――会話しない男ならそういう気持ちが働いて話しかけないのは筋が通る。

 しかし、彼女はそれで納得せずかぶりを振った。

「うーん。そんな感じじゃないんですよね。なんか、女慣れしている人っぽいですから」

 はい。佐奈のおかげでだいぶ慣れてます。

 それに鋭いですね。恐怖です。

「そうですか。ちなみに、その男子にはこれからどう接すつもりで?」

「とりあえず、帰ったらお話ししたいですね。やっぱり気になりますし」

 ああ、帰りたくない。なんか会話すると何かの拍子でキャンディーだとばれそうだ。

 よりによって、なんで今日なのだろう。

 今日の俺はもっとも運がないというのに。

 毎日見る占いが大凶。

 で、テスト期間中に女装しているという隠し事が学校の美女に伝わってしまう可能性大、と書かれていたのに。

 なにこのドンピシャの予言、当たりそうでホントに怖い。

「キャンディーさん。止まってください」

 不安に思っていると横から綺麗な手が伸びた。

「敵の反応がありました」

 俺を制止させた相田は「こっちです」と走りだし右折。

 後ろを付いていく俺が「敵数は?」と質問する。

「たぶん1体だと思いますけど」

 と、自信なさげに答えた。

「私、敵感知力はとても低いので、複数体いたらごめんなさい」

「いえ、私なんてもっとですから。数メートルという距離しか反応しないくらいに低いですので、謝らないでください。それより、複数いたらピンチですか?」

「私たちのランクを考えればピンチってことはないです」

 ステータスカードでフレンド登録している俺らは互いに相手のランクとステータスを知っている。

 俺が13。相田が37だ。

 初心者クラスのランクの俺でもどうこうできると女神様によって判断されたクエスト。倍以上のステータスがある相田がいれば危険など皆無だろう。

 俺も相田と同じ意見を持つが。

「けど、とっても足が速いので何体もいっぺんに相手すると少々厄介かもしれません。仲間意識が高いモンスターだから、お互いにカバーして戦いますから逃げられちゃうおそれがあります」

 彼女は倒すのは苦労しそうだと報告する。

 しばらく走ると敵の姿が見えてきた。

 見た目完全にただの猫だな。

「1体だけでよかったですね」

 俺は黒色のそいつから視線を外し相田に声をかけた。

 自分の感知力は間違ってなかった、と安堵の表情を見せると思ったが相田は「1体じゃないです」と否定した。

「左からたぶん2体来てます。このままじゃあ、戦っている間に合流を許してしまうかも。どうしますか?」

 どうしようか。

 ほんの少し考え、俺は答えを出した。

「その2体? を任せていいですか?」

「いいですけど……」

 相田はそう言い首をこちらに回しす。

 俺の意図がきちんと伝わったようで、心配な顔を見せた。

「大丈夫ですか?」

「大丈夫かはわかりませんけど、やばくなったら逃げますから」

「そうしてください、怪我してほしくありませんから」

「それ、本当は私のセリフですよね」

 女子に心配される男子。

「なんか情けないけど、男の娘だからセーフ、かな」

「ふふっ、そういうことにしてください。まあ、私も怪我しないように気をつけますから。じゃあ、行ってきます」

 俺が「はい、行ってらっしゃい」と返事を返すと、相田は左側へと姿を消した。

 ちょっとの間を置き、ようやく俺は泥棒猫に追いついた。

 右腰に装備された鞘から短刀を抜き、避けられないように真後ろから仕掛ける。

 何ももっていない空の左手を伸ばし。

「よし、捕まえた」

 尻尾をつかみ動きを封じた。

「にゃ! にゃー!」

 離せこらー、とおそらくそんなことを叫んでいる猫は、俺の得物が目に入ったようでひどく怯えた様子を見せている。

「悪いな。猫は好きな生き物だけど、倒させてもらうぞ」

 あまり苦しめたくない俺はすぐ終わらせてやるために首筋を狙う。

 素早く動かした右手、短刀は目標通りの猫の首へと勢いよく迫り――。

「あ、あれ?」

 次の瞬間、空を切った。

 そして、猫もどういうわけか手元を離れ走っている。

 どうしてか?

 という疑問が一瞬沸くが黒猫の置き土産で即解消させた。

「おまえは、トカゲか!」

 左手にはあの猫の黒い物が握られたままだ。

 猫が自身の尻尾を自ら切り離すとか笑えない。

 だった気持ち悪い。

 くねくねと動くだけならまだしも、赤い液体をそこら中にまき散らしている。

 グロテスクな画を見せられ気分が悪くなる中、尻尾を地面に放った。

 猫、少し嫌いになったかも。

 俺は好感度が下がったやつとの追いかけっこを再開した。


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