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第1章 5話 女に守られる男の娘

「もう1回言ってもらってもいいですか?」

「いいですよ。ただ、日本に帰ると病院暮らしが待ってますけどね」

 女神様がニコニコと笑いながら、右こぶしを上げた。

「さあ、どこを壊されたいですか? 腕ですか? 脚ですか? それとも、約束を破るその口を含む顔面ですか?」

「すいませんでした! まじで本当にごめんなさい!」

 俺は会心の土下座を繰り出す。

 本気で謝ったおかげか。

 女神様は、怒りの鉄拳を下ろしてくれた。

「次はありませんからね。では、私は消えますので、討伐頑張ってください。あっ、それと草原地帯の奥には行かないで。街から離れすぎると強いモンスターがいますから」

「はい、頑張ります。心配してくれて感謝してます」

 心の底から、ありがとう、を送った俺は、早速モンスターを倒しに向かった。

 出現場所は、街の真南。草原地帯の入口だ。

 あれがスライムモドキか。 

 目的地に到着するとすぐにモンスターを見つけることができた。

 姿は、よくゲームなどで目にするスライムと似た、あのぶよぶよとしたゼリー状だ。

 3体いて、みんな青い色をしている。

 かなり近づいているが、まだ俺のことを認識していない。

 なんだか寝ているっぽいので奇襲をかけてみることにした。

 一番距離が短いやつをターゲットとし、俺は一目惚れした短刀を鞘から抜いた。

 足音を殺し、ギリギリまで接近。

 そして、頭頂から振り下ろした。

 刀が何の抵抗もなく体を通り、一刀両断に成功。

 二分されたスライムモドキは、固体から液体へと状態を変化させると、蒸発してゆっくり消失した。 

 本当に弱いな。 

 女神様が作った低ランカーにはそこそこの攻撃力を秘めた武器だが、まさか1撃とは。さすが、元最弱なだけはある。

 やっぱり、こんなやつ相手に寝込みを襲うのはダメだな。

 俺は1対1の真剣勝負の場を作るため、もう1体も同様に倒した。

 よし、こっから本番だ。

 スライムモドキは、短刀の柄の部分を突かれ俺に起こされ。

「……? スラ?」

 仲間がいないことに戸惑いを見せる。

 優しい俺は、現状を理解させようと目を合わせた。

「君のお仲間は俺がやった」

「――!」

「俺が憎いだろ。さあ、その怒りをぶつけて――ちょ、逃げるな」

 俺は背を向けて駆けるスライムモドキを追う。

 一生懸命で悪いが女神様に速さを褒めらた俺から逃げられるわけがなく、すぐにスライムモドキは行く手を塞がれ愕然とする。

 それでも方向転換し逃げようとするスライムモドキに俺はある言葉を放った。

「あのドッペルゲンガーは逃げなかったぞ!」

 その言葉に何か思うところがあってくれたみたいで、スライムモドキは俺に顔を向ける。

 言葉が通じるか分からなかったが、うまく挑発できたようだ。

 よし、あと一押し。

「君は逃げるのか。最弱が堂々とやられたのに、元最弱が恐れをなして逃げるのか。……でもしょうがない。だってスライムモドキだもんな。所詮、魔法耐性も物理攻撃無効もない、なんちゃってスライムだもんな。もう逃げていいぞ、戦う価値すらない臆病者に用はないから」

 スライムモドキは、怒りが昇天にまで登ったのだろう。

「スラ! スラスラスラ。スラスラ、スラスララ!」

 バーサーカーのごとく突進してきた。

 俺は、左手で頭部の膨らみをわしづかみ、相手の攻撃を受け止める。

 むにゅ、むにゅ。

 ああ、二つ名の要素はここにあったのか。

 頭頂の小さな突起は、とっても柔らかく、それこそオッパイと遜色ない感触だ。

 むにゅ、むにゅ。

 ていうかオッパイだろ。うん、オッパイだわ。

 なるほど、これが女神様の胸を再現しているのか。

 確かに小さかったもんな。

 むにゅ、むにゅ。

 小ぶりのそれを堪能した、というか飽きた俺はスライムモドキに引導を渡し、クエストをクリアするため残りを探しに行った。

 その後、なんとか時間までにもう2体倒したことでクエストは達成されたのだが。

 カードを確認すると『クエスト完了』の文字の横は、残り時間5分と記載されてて。

 俺は、もったいないと思い、もう少し街を探検することにした。

 もと来た道を引き返そうと振り返る。

――瞬間。

「止まって!」

 女の声が聞こえた。

 直後、俺は前からすごい勢いで火の球が迫ってくきていることを知る。

 しかも広範囲に複数。

 え? 止まってって。このままじゃ焼かれちゃうんですけど。

 だが、自分で避けようとしても避けきれる気がしないので、言葉を信じることにした。

「ごめんなさい」

 火の球が前方を埋め尽すなか、後ろから謝罪の言葉が。

 え? なに? 助けてくれないの? そのために謝られたの?

 しかし、そんな悪い予感は外れ、助けは来た。

「熱いの我慢しててください」

 いつの間にか目の前に立つ彼女は、汗だくの微笑みを向ける。が、俺は驚きのあまり声が出なかった。

 なんで、君がこの世界に?

 腰に装備された剣を抜くのは、クラスメイトのリア充である相田美瑠だ。

 彼女は、「そのままでいてください」と言葉を残すと火に向かっていった。

 切る気なのか。そこそこの大きさだぞ。

 だが、そんな心配は否定させる。

「やあああーっ!」

 気合いを込めると火の球を真っ二つにした。

 切られた火は、形が保てないのか俺まで届かず消えてゆく。

 相田は、被弾する恐れがある火の球だけを一刀両断していった。

 そして、最後の球を凌ぐと。

「「「ブヒブヒ、ブヒブヒ」」」

 元凶であるモンスターたちが姿を見せた。

 真っ赤なブタがいっぱい。その数、10体以上。

 いつから俺はこいつらに背後を取られていたんだ。姿を隠せる場所なんてないのに。

 疑問に思っていると、すぐに相田が答えを教えてくれた。

「フレイムピッグは、地面に穴を掘って得物を尾行します。だから、『モグラ豚』とも呼ばれているんですけど、尾行がとても上手く、ある程度ランクを上げてないと気づけないんです」

「なんで、お――私が、低ランカーだと分かったんですか?」

 女装してる変態だとばれたくないので、一人称を変えて質問すると。

「知ってたからです。今、私が異世界に来ている理由はキャンディーさん、あなたを守るためですから」

 彼女が予想もつかない答えを口にし。

「緊急クエストであなたを見守るように女神様に言われたんですよ。彼は特別だから初日から怪我なんてしてほしくないって」

 剣を前に突きつけた。

「だから気にしないでください。それにすぐに終わることなので」

 言い切ったときだ。

 突如、彼女の剣先が光だす。

 そこにエネルギーが集まっているのか、だんだんと光は大きくなり輝きを増していき。

「マイティスーンビーム!」

 セリフと共に発射された。

 剣を振るうことで範囲を補ったため、一気に全てのフレイムピッグを倒した彼女は、「うっ」と地べたに座り込む。

 俺が「大丈夫ですか?」と近づくと、「平気です」とゆっくり立ち上がり右手を差し出した。

「初めまして、私、ミルっていいます。それにしても、本当に男には見えませんよね」

 俺のことは男だと知っているが、クラスメイトの八坂あきだとは聞いてないみたいだな。

 ありがとう女神様。嫌な気持ちにさせてしまったのに、なんて優しい方か。

 俺は、「ありがとうございます」と彼女と握手をした。

「ごめんなさい、こんな女装男を守らせて。軽蔑しますよね」

「しませんよ。だって私、キャンディーさんのファンですから」

 彼女はとても嬉しそうに笑顔を向け。

「それにホッとしてます。自暴自棄になってなくて、本当に」

 次に安堵の顔を見せた。

「っと、そろそろタイムリミットですよね。お話しできないのはかなり残念ですけど、日本に帰りましょ」

 そう促され彼女と時を同じくして、俺は魔法陣に包まれた。

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