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第1章 3話 美しい女神と異世界へ召喚された理由

 異世界に連れてきた?

 ていうか、さっき辺りを確認したとき人なんていなかったよな。だって、こんな美人さんがいたら目につくし。

「さて、これでだいたい状況を理解してくれたと思うので、早速戦えるようにチュートリアルを始めましょう。目指せ、魔王討伐!」

 白を基調とした服を纏った長い白髪の麗人は、何やらテンションを上げ話を進めようとするが。

「ちょ、ちょっと待ってください。全然状況を把握できてないんですけど」

 立ち上がった俺に制止され、首を傾げた。

「うん? だってあなたたち日本人は、特に男子はアニメやゲーム、ラノベや漫画で、異世界に呼ばれるのなんて慣れているのでしょ?」

「いや、慣れてませんよ。そういうのは妄想の域で、誰も異世界召喚なんて本気であるなんて思ってません。一部のやばい人たちを除けば」

「ふーん、この間連れてきた人は、そのやばい人だったんだ」

 彼女は「確かにちょっと変な人だったな」と嫌なことを思い出したような顔を浮かべる。

 なにがあったのか聞いてみたいが、まずは自分に起きていることを知りたい。

「なので、一から話してくれると助かります」

「それじゃあ仕方ありませんね。では、説明します。まず最初に言わなくてはいけないことは、私が神様ってことでしょう」

「神様って、困っている人がいても助けなかったり何事にも干渉しない、あのいるかどうかも疑わしい存在のことですか?」

「はい、それで合ってます。言い方はあれですが」

「あっ、すいません。初対面でひどい言い方して」

「いえ、お気になされず。私はこの世界の神であって、あなたの世界のではありませんので。それにしても、私が女神っていうのは簡単に信じてくださるのですね」

「まあ、それはね。だって」

 俺は、彼女の足元に目線を下げ。

「先ほどからずっと宙に浮いてますし」

 次に顔を上に向け。

「頭の上に輪っかが、光輪がありますし」

 最後に目を合わせた。

「さすがにそういう類の存在だと理解できますから」

 女神は、「まあ、そうですよね」と苦い笑みを浮かべ話を続けた。

「次に言うべきはここが異世界ということですよね。もちろん、夢というオチはありません。紛れもなく、あなたは現在違う世界に身を置いてます」

「……連れてきた理由は?」

「先ほども言いましたが、魔王を倒して世界を救ってほしいからです。邪悪な存在である彼がいる限り平和などありえません」

「えっと、そうじゃなくてなんで俺なんですか?」

 運動能力も高くない、頭の方だって賢いわけじゃない。そんな俺になんで勇者が行うようなことをお願いするのか。

 別にこんなことが聞きたいわけではない。

 死別した従妹について、ようやく前を向くことができるようになったのに。せっかく良い気分だったのに邪魔するなよって意味を込めた質問だった。

「それも前に伝えた通りです。放送であなたにコメントを送ったでしょ? 死にたがっていたら私が有意義にその命を使ってあげるっと。それに対してあなたはなんと答えたか覚えていますよね。だから、連れてきたのですよ」

 あのおかしなコメントは、女神のものだったのか。

 俺の発した『興味がある』という言葉は、肯定として受け取れるってか。

「つまりは死を望むような人が、無理やり異世界召喚され魔王討伐にかりだされても文句言うなよってことですか」

「極端に言えばそうなりますね」

「女神様、人間は複雑なんです。俺を見れたら分かりませんか? ちょっとした時間で、病んでた心が癒えるなんてこともある。それなのに、勝手にあっちの人生終わらせるなんてひどいです!」

 いつの間にか涙を浮かべる俺。その想いが通じたのか、女神は「すいません」と頭を垂れると。

「誤解です。私の話し方がいけなかったですね。なるほど、ようやくあなたが怒っている理由が分かりました」

 次に安心させるような笑顔を浮かべた。

「大丈夫です。あっちでの人生が終了したわけではありません」

「え? どういうこと?」

 困惑する俺に女神様は優しく説明してくれた。

「あなたには、命の大切さを知ってもらうと共に、魔王軍に対抗する冒険者の助力となってもらうため、少々こちらで仕事をしてもらうだけです。なので、すぐに日本に帰れますよ。あっちとこっちの世界を行き来していただく日々になりますが」

 家に帰れるのか。

 よかったと、安堵しながら俺は確認の質問をした。

「なるほど。死にたいと考えた罰を、この世界に貢献して償えってことですか?」

 俺の心は先ほどとは一変し、ファンタジー世界に足を踏み入れられることに少しワクワクとしている。

 が、女神様は逆の面持ちで、後ろめたさで胸がいっぱいだったのだろう。

「えっとですね。あなたの世界の神から、自殺するやつが多すぎるので自殺志願者に生きるということを教えてほしい。代わりにそいつらに世界の手助けをしてもらったらどうですか、と提案されまして」

 再び、謝罪した。

「ごめんなさい。なので、重く考えないでください。私たちも純粋な気持ちで行ってませんから」

 よく頭を下げる女神様だな。女神なんてこの人しか見たことないけど。

「分かりました。とにかく家には帰れるんですよね」

「はい、本日のクエストさえ完了していただけたら、すぐに帰れますよ」

 クエスト? 

 首をひねる俺を見て女神は、話を続けた。

「チュートリアルを受けてもらいます。今のあなたでは、魔王はもとより、この辺りに生息している弱いモンスターや貧弱な魔物・悪魔などにも勝てません」

「まあ、どこにでもいる普通の……ではないですけど、不良を見かけたら逃げるような非力な高校生ですからね」

 女神様は「ですね」と相槌を打つと、右手に生成したカードを手渡し。

「ですが、脆弱なあなたのステータスも経験値を稼ぎランクを上げれば上昇します。経験値は、様々な方法で獲得できますが、一番は敵を倒すことです。そこの数字覚えておいてください」

 カードの、ステータスが記載されている場所を指さした。

 女神様に言われた通り受け取ったカードをまじまじと見る俺は、暗記するのだが。

「あの女神様、俺の名前は間違ってますけど」

 ステータスの上に書かれている名前が『キャンディー』になっていて指摘した。

「俺の名前は八坂あき、なんですけど。これからも異世界に来るんだったら、この名前はまずいんですけど」

 しかし、女神様は「どうしてですか?」と疑問をぶつけた。

「フルネームよりも、その名前の方が見た目には合ってますでしょ」

「はい、合ってますよ。だけど、今日はたまたまですよね? 異世界に来るとき女装してなかったらやばいですよ」

 今の格好は、メイクもバッチリでカワイイ服着た完璧美少女状態。

 だが、素の男の状態でこの名前はきつい。

 挨拶の度に、相手に変な人と思われる。

 だけならまだしも、ふざけているのかと怒られるとかとっても嫌だ。

「あっ、そういうことですか。それについても安心してください。こっちの世界に訪れると、あっちでどんな格好をしていても、あなたは常に今の可愛い姿になりますから」

「え? どういうこと?」

 俺が本日何度目かの困った様子を見せると、女神様は「それはですね」と口を開け。

「あなたは現在違う世界に身を置いてます、と言いましたがそれは魂のみの話」

 そして、俺を指さした。

「その身体は私が作った、ただの入れ物だからです」



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