表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/8

プロローグ

「ふははっ、さあ、俺の白濁液をくらえ!」

「俺も、もうすぐ出そうだ。い、いくぞ!」

「キャンディーちゃん、俺の愛も受け取ってくれー!」

「いいよ! みんな、私にありったけをぶっかけて!」

 宣言した瞬間、私の身体は白い液体で包まれ。

「きゃっ! みんなの熱い想いちゃんと届いたよ。次は、誰が楽しませてくれるの?」

 金色の髪を耳にかける私が上目使いで可愛いく問いかけると。

「俺!」

「いや俺だ!」

「おで、やる!」

 たくさんの男性冒険者たちは興奮した様子を見せた。

「ありがとう! じゃあ、仲良くみんなでやろう。みんな準備して待っててね」

「「「はーい」」」

 みんな良い子で、とっても楽しい。

 素直なファンに囲まれて幸せな気分でいた私。

 ただ、そんな時間は唐突に終わりを告げる。 

「『はーい』じゃ、ないわ! あなたたちいい加減にしなさいよ!」

 男性冒険者たちの外から、女性の大声が聞こえた。

 振り返り、主を発見。

 セーラー服姿の栗色ツーサイドアップの美少女、ミルがとても怒っているみたいで、私を睨みつけている。

「さっきから魔法の準備できたって言ってるのに、いつまでそのキモいことやってるのよ! バカなの!」

「そのキモいことってなに? 具体的に言ってもらわないとわからない、だってバカだし。ね、みんなもそうでしょ?」

「「「そうだ!」」」

「ほら、みんなも同じ気持ち。私たちバカだから、言わないとこのままだよ。それに、これに飽きて君たちに再び白い液体を浴びてもらうことになるかもだよ? いいの?」

 理解しているが分からないふりをかます私たち、というか私が脅す。

 しぶしぶ彼女は「分かった」と不満たらたらに口を動かした。

「白濁液をまき散らす敵の利用した、『白濁液ぶっかけプレイ』を止めてって言ってるの」

 白濁液くらいじゃ、恥じらいが足らないな。

「敵の二つ名は?」

「…………」

「いいのかな、また泣くことになっても?」

「わ、分かった。言うから敵をこっちに送らないで」

 トラウマになってしまったのだろう。

 すぐに肯定の返事を帰すミルは、少し恥じらいながら、モンスターの名前を口にした。

「森の暴れん棒ポ・コチン」

 言ったあとに後悔したのか両手で顔を塞ぐ彼女。

 超可愛い。

「私、もう一回聞きたいな。みんなは、どう?」

 アンコールを要求した私が男性冒険者たちに目配せする。

「「「もう一回。もう一回。もう一回」」」

 と、野郎共はコールをかます。

 しかし、彼女は敵の名前を発することはなく、代わりにとんでもないことを言い出した。

「魔法使いの皆さん、もう魔法を撃っちゃってください。あんな連中、一度ひどい目にあったほうがいいと思います。皆さんも、そう思いますよね?」

「私も同じ気持ちだけど。でも、死なないかな?」

 質問に魔法使いの1人が不安気に答える。だが。

「そうですね。しかし、威力を加減すれば、どうにかなると思いますよ」

「「「確かに!」」」

 女性陣の心配を取り除く彼女は脅迫をした。

「とのことで、攻撃してもいいそうです。けど、誠意を見せてくれるなら考え直すと思――」

「「「調子に乗ってすいませんでした!」」」

 食い気味に、私を含めた男性陣は土下座を繰り出す。

 そのきちんとした想いが通じたのか、なんとか最悪な事態を避けることに成功。

 ミル、もとい女性の皆さんは、許してくれた。

「はい。じゃあ、すぐにモンスターを倒しましょう。皆さん、移動をお願いします」

 しっかり反省した私たちは、ようやく敵を倒すために体を動かす。

 口から白い液体を吐き出す十数体の木の化け物と囮役の私を囲んでいた男性冒険者たちがゆっくり後ずさり。

 スカートを揺らし私も未だ白濁液をかけられながらある場所まで目指した。

 そして、みんなが定位置に移動を完了できたようで。

「それでは魔法使いの皆さん、お願いします。カウントダウン後『発射』の合図で、一斉攻撃してください」

 男性陣を盾としモンスターにばれないようすでに移動を完了していた魔法使いのみんなに、四方に頭を下げたミルの「では、いきます」でカウントダウンが始まった。

「3、2、1」

――瞬間、私の足元に魔法陣が現れ。その輝きが強くなる中。

「発射!」

 上空に巨大な魔法陣が展開される。

 まず大きな火の塊が、次に大量の水が、続いておびただしい雷が、最後に至大な岩が落下していった。

「やりすぎじゃない?」

 テレポートでミルの隣に瞬間移動していた私は、そのありさまを見て震える。

 男性冒険者たちもギリギリ被害に遭ってないが私同様にひどくびびっていた。

「いろいろとストレスがあったからじゃないかしら。あなたたちのこともあるけど、私たちは一度あの攻撃をもろに食らっていたし」

 女性陣がモンスターを倒して喜んでいるが、ミルは白濁液まみれになったことを思い出したのか、嫌な表情をした。

「はあ、敵が女性しか狙わないともっと早く知ることができていたら」

「もう終わったことだし忘れたら。液体もすぐに蒸発して消えたしいいじゃん何もなかったと思えば。っというか、女性しか狙わない。じゃなくて、女性しか倒せないでしょ? 私も狙われたんだし」

「はいはい、そうですね」

 彼女が呆れた様子で私を見た。正確には平らな胸を。

「見た目女の子でも、あきって男の子だもんね」

「モンスターにも誤認されるほどの可愛い男の娘。超プリティな私がいなかったら作戦は成り立たなかったんだから、感謝してよね」

 男性にはお互いに不干渉で、女性しか攻撃が利かない意味不明な生体なポ・コチン。だが、なぜか私を女と認識して、攻撃は一斉通じないのに狙い続けた。

 いわゆる無敵な囮の私がいて、初めてあの――ミルが名付けた――『これ以上誰も傷つかない作戦』はうまくいった。

 しかし、調子に乗るのが早すぎたのか。

「もうさっきのこと忘れたの」

 ミルは怖い顔を見せた。

「ごめんなさい。じゃあ、イーブンで」

「冗談よ。みんな感謝してる。っというか、するわ。だって」

 私の左手に装備されたマイクを掴み、笑顔を見せた。

「みんなの傷を治してくれるんでしょ?」

 こんな美人に満面の笑みを向けられたら、期待に答えないと、ね。

「しょうがないな」

 私とミルは、怪我した人を集め、その人たちに私を囲うようにして立ってもらった。

「それでは歌います。聴いてください。『癒すのはなにも女の仕事じゃない。男の娘だって癒させたい』」

 タイトルコールを行い、私は早速歌詞を言の葉に乗せていく。

 綺麗な声音で歌い続けていくと、ようやく技の効果が発揮されたようで周りの女性たちに変化が訪れる。

 傷のある至る箇所が光で覆われた。

 だいたい1分後くらいだろう。

 私が歌を歌いきると光が霧散し、あらゆる軽傷はすっかり元に戻り完治していた。

「ご視聴ありがとうございました」

 ぺこりと頭を下げた私は「こちらこそ、治療してくれてありがとう」とたくさんの女性から感謝の言葉をもらう。

 やっぱり女の子は喜ぶ笑顔が一番素敵だなー。

 そんな感想をもつと握っていたマイクが突然消失した。

 同時に、自分の中の私という存在が急激に薄まっていき――。

 瞬間、とてつもない疲労が俺の体を襲う。

 大量の魔力を使った反動で立っていられず、前のめりに倒れた。

「大丈夫です。いつものことなので」

 周りを心配させまいとミルが気を配る。のはいいんだけど。

「俺にも優しさをくれ」

 歌を歌った後は毎回こうなるんだから、たまには倒れる体を支えてくれてもいいだろ。

 が彼女は「はいはい」と聞き流して、すぐに帰り支度を始めた。

「それでは、私たちは帰ります。また一緒になったときはよろしくお願いします」

 挨拶を済ませ、自身の胸ポケットからステータスカードを取り出しなにやら操作をすると。

『クエストクリア、おめでとうございます。それでは日本へと送ります。しばらくお待ちください』

 とても美しい声がどこからともなく聞こえた。

 声の指示通り待機している俺は、あるものに目が留まる。

「なにずっと見てるの。あんまり変態に長いこと見られたくないんですけど」

「そんなに見てないけど。っというか変態て。俺はただ、怪我してるなって見てただけですけど」

 彼女の左足、綺麗なふくらはぎには小さな切り傷がある。

「転送中断して、治そうか?」

「ありがとう。でもこれくらいの傷、改まって治療してもらうほどでもないわ」

 俺が「分かった」と答えた直後、再び美しい声が頭に入った。

『準備が完了しました。それでは、転送します』

 地面、俺とミルの足元にそれぞれ魔法陣が出現。

 だんだんと魔法陣の輝きが増してゆく、そんな中俺はあることを思い出した。

 だが、それを伝える時間はもうなさそうなので。

「頑張れ」

「え? なにが?」

 急にエールを送られ困惑の声が聞こえたが、どうしてやることもできない。

 目の前が光で覆われ、俺は異世界を後にした。


 日本へと帰還した俺がまず目に留まったのは、体のバランスが崩れた美瑠みるだ。

「え!?」

 驚きの声を上げる彼女は、そのまま地面に向かって倒れていった。

「痛っ!」

「大丈夫ですか! 相田あいださん!」

 数学担当の女性教師が、慌てて美瑠に駆け寄る。

 がやがや騒がしくなる教室。

 宿題回収を任せれている身で複数のノートを持っていたせいで、とっさに手が出なかったのだろう。

 顔面を打ちつけた美瑠は、ゆっくり立ち上がった。

「大丈夫です。それより、ごめんね皆。ノート落としちゃって」

 若干涙目で謝る美人さんに「いいよ、気にしなくて」「そうだよ。それより顔大丈夫?」などとクラスメイトたちは慰めのコメントを送る。

「ありがとう、皆」

 集めたノートの持ち主たちに笑顔を振りまく美瑠は、一瞬俺にも顔を向ける。

 表面的には笑っている。が、その目からは、あなた知ってたでしょ、という怒りが感じられた。

 もちろん俺は、言う時間がなかった、と首を横に振る。

 そのとたん、美瑠は慌てて右手で顔下を覆い、左手をスカートのポケットに突っ込む。

 あっ、その様子はまさか。

 素早く左手からハンカチを取り出すが、間に合わなかったようで。

 ぽたっと、真っ赤な液体が床に落ちた。

「血、鼻血ですか」

「すいません、汚しちゃって。あの、保健室で血を止めてきてもいいですか?」

「はい、行ってきてください。床は綺麗にしときますので、気になさらずに」

 ハンカチを鼻に当て先生と会話する美瑠は、「ありがとうございます」と礼をし、最後にありえないことの許可を求めた。

「それと、保健委員の八坂やさかさんも連れてっていいですか? もし先生が不在なら、彼に手伝ってほしくて」

 は? それは約束が違うんですけど。

 もしかして、約束を破棄するほど怒ってるのか。

 けど、俺の目からは怒りを含んだ表情には見えない。

「いいですか? 八坂さん」

 ので、俺は先生の問いかけに「はい。分かりました」と素直にそう答えた。

 保健室に移動すると、美瑠のもしもの備え通り保健の先生はおらず、俺と美瑠の2人きりに。

「そこ、座れよ」

 廊下から無言の彼女を、とりあえず丸い椅子に座らせる。

 確か、元を圧迫して止めるのが正しいだよな。

 適切な止血を何かで知っていた俺は、美瑠にいろいろと指示を出す。

「これ、血、丸見えなんですけど」

 小鼻をつまみ、もう片方の手に乗っけられた受け皿にぽたぽたと血を垂らす彼女が愚痴を漏らす。

「顔を軽く下に向けるだけでいいんだ。別に目線は上にしとけばいいだろ」

「うーん。こう?」

 美瑠は俺の発言に従う。

 うん、可愛い。

 上目使いを向けられ思わず声に出すとこだったが耐えた俺は、一応彼女に謝罪した。

「悪い、気が付くの遅れて」

「うんん、別に。思い出さなかった私が悪いし」

「やっぱり、ちょっと痛みがあったか?」

「痛みはなかった。でも、一瞬だけしびれた。っというか、私があきと2人きりになりたかった理由は、それについてじゃないけどね」

 やっぱり、この件ではないか。だったら。

「あき……ランクアップ、どこまでいった?」

 やはりこっちの話か。

「次まであと7割程度だ」

 気落ちした様子で美瑠は「そっか」と視線を外した。

「もう6月も終わりね」

「ああ、そうだな」

 時間が経過するのは早いと、暗い気持ちの美瑠。

 だが、彼女には悪いが俺はまったく逆のことを考えていた。

 あっちに行くようになって、まだ2カ月も経ってないんだな。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ