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  作者: 薫楓
2/2

5年前

時間軸を少し戻す。

今から5年前の事だ。僕達は地元の国立大学に入学をしたばかりだった。

僕は文型で、裕樹は理系の学部。

それでもサークルは同じ軽音に入った。

ラブ&フリーという初心者でも肩身が狭くならずに済むようなサークル。

僕達は高校の文化祭で一度バンドを組んだ位の経験しかなかったから、上手い人間の集まるようなサークルに飛び込む勇気は無かった。

初めて行ったサークルの部室から聴こえてくるリズムの失われたギターを聴きながら、此処でならやっていけるだろう、と二人で笑いあったのを覚えている。


そんなサークルだから、初心者が多く集まって人数だけはそこそこにいた。

けれど、ドラムは慢性的に不足しているような、そんなサークルだった。


「俺はボーカルギターをやりたい」と、僕が言うと裕樹は

「じゃあ俺はドラムだな。高校の頃と同じように」と笑って言った。

僕達は数人居たベース希望の同級生をオーディションなんて大げさな形で持って

自分達のバンドに迎え入れた。オーディション、なんて。

僕がそう言うと裕樹は「形だけだよ」と肩を竦めた。そもそもどんなベースが上手いかさえ

良く解ってなかったのに。

それでも募集を掛けると数人が集まってきた。

じゃあ、とセッションなんて呼ぶのも恥ずかしいような音出しを繰り返してその中で一番

上手い気がした佐伯が僕達のバンドのベースになったのだった。

「何でも良いけど、パンクは嫌だ」

佐伯はそう言って眼鏡を指で持ち上げた。

僕達は、そのまま居酒屋に入って勢いであーだ、こーだとこれからどんなバンドにして行きたいかを語り合ったのだった。

酒の勢いだろう、と思う。僕達は熱く未来を語り合った。武道館なんて当たり前だ、当然世界ツアーも組まなきゃいけないなんて。

満足に楽器も弾けない癖に、と素面になって思い返すと笑ってしまうような事だった。

けれどそれは青くて、今の僕にはとても眩しい瞬間だったのだと思う。


とにかく、僕と裕樹と、そして佐伯でバンドを組んだのだった。

酷い演奏の上で僕は苛立ちを吐き捨てるように歌う。

そんな音楽はきっと求められてやいないだろうと思ったけれど、それでも本気で

自分達は才能が在ると信じていた。

青さの上に成り立つ砂上の楼閣のようなものだ。遅かれ早かれ、自分達が一体どの程度の

ものかなど解ってしまう。それまでの時間を、どれだけ引き延ばせるかだけだったのだろう。


そして、それは5年経った今もまだ引き伸ばされたままだ。


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