えっえっえー?
久しぶりの更新です。
読んでいただけたら幸いです。
まるとりの暖簾をくぐると、女将から部屋の名前を告げられた。やはりだが『ツグミの間』だ。
以前に、ライブ帰りの打ち上げで、もう歌えないと文句を言っていたココなの気持ちを推し測り、こんな名前の部屋を予約するのが俺らの当たり前になっている。
それだけココなは俺らのバンドの太陽だったと言えるし、実際にそうだった。
ツグミの間の前で息を整えていると、障子戸が開いて
あーちゃんが姿を現した。
「おう、ジュン待ってたぞ」
あーちゃんが赤い顔で俺を出迎えた。
どうもトイレに向かっているところみたいだ。
「あっ、わりぃ。来ないと言いながら来ちゃったよ。
ごめん」
「いゃ、ジュン、お前が来ることはわかっていたよ。
ココながしきりになんで?ってうるさかったから、ジュンは新しい彼女を送りに帰ったと答えたんだ。
そしたら、ココなってば、すぐさまお前に電話したろ?その剣幕は見ていて面白かったよ。
そんで、お前はここに来るだろうと確信したわけさ」
あっ、やっぱそうですか。
俺が困ること前提でそんな嘘をついたわけね。
よほど、このねーちゃんのことを気に入って俺との仲を裂くようにしたと見るべきか、はたまたココなと俺とのやりとりを酒の肴にしたかったのか、よくは分からんが、楽しんでいやがったということですか……。
ああもう、めんどくさいことにしやがって!
ジロリとあーちゃんをひと睨みするが、へへんっとばかりに悪戯顔の混じったドヤ顔でこたえやがった。
まあ、早速入れとばかりにあーちゃんが戸を開けると、目の前に色白で黒髪のショートカットでスレンダーな小柄女子の姿が目に入る。
白いキャップ をツバを後ろにして被り、黒のTシャツと白いホットパンツから細長いすらりとした脚を見せている。
その彼女は、俺を見るなり、いきなり抱きついて来た。
「ジュン会いたかったよ。私、寂しかったよー!」
俺の胸に頭をすり寄せ、ギュッと細い体を俺の体に纏わり付かせる。
ふんわりとした女の子特有のいい匂いがして、Tシャツの下に隠された柔らかいものの感触が肌を通じて感じられる。
たぶん、ほとんどの男がこれを嫌いなはずはない。
そして俺も嫌いではないし、顔も緩んでいることだろう。
……えっと、なんか忘れてないか?
頭の中がバラ色になりながら、必死に正気に戻ると、背後からの鋭い殺気を感じ、そっと後ろを振り返る。
ゆるキャラねーちゃんの顔が何故か怒っているみたいだ。
「旬君、不潔よ。それに私はあなたの彼女な訳でしょう。知り合いでも抱き合うなんてしないでよ」
いや、ゆる髪ねーちゃんってば、俺の名は瞬であって、旬じゃない。やめてよ。怖い!
本当に不機嫌そうな顔で俺の腕を掴んで、俺に抱きついている子を引き剥がした。その速さにみんなあっけにとられた。
ぴったりと俺の隣に寄り添い、腕に纏わりつくゆる髪ーちゃんには俺も驚いた。仮の彼女をお願いした手前、彼女然としてもらうのは有り難いのだが、ねーちゃんも引っ付き過ぎて、再び柔らかな感触を腕に感じる。いや、役得だ。しかも、結構なサイズだ。
……いやいやいや、まてっ、落ち着け!
我に帰ると、さっきの女の子、つまりココなとゆる髪ねーちゃんが睨み合っている。
なんで、こんな険悪なんだ?
「さて、ココな。このぐらいにしてくれ。
俺達は打ち上げにきているんだ。お前もそれに加わるのなら、雰囲気壊すな!」
「あーい。ごめん、あーちゃん。あと、そちらの彼女さん」
素直にペコっと頭を下げるココなにゆる髪ねーちゃんも頭を丁寧に下げて対応した。
ココな比べ、お辞儀みたいにしっかりと下げた頭を見ながら、再びお嬢様だと認識してしまう。
「私こそ、ごめんなさい」
しっかり謝っていると、ココなにもわかってもらえたようだ。ココなから、手を出された。
「私、西園寺 心菜です。よろしくね」
ココなから挨拶され、握手しながらもゆる髪ねーちゃんも同じく挨拶をした。
「私は、一条 結依です。こちらこそ、よろしくお願い致します」
なんとか二人が仲良くなりそうで安心したが、つむりんもあーちゃんも失笑していた。
つまり、ココなとつるんでしたことか?
ゆる髪ねーちゃんがどんな反応をするか、賭けていたというわけね。
「さて、誰が勝った?」
ぺろっと舌を出したのは、ココなだった。
「でも、ジュンったら、私は本当に寂しかったんだよ。メールしても返事してくれ無いし、近頃はライブも来てくれなかったし、ライフが無くなるとこだった」
「いや、ココな。メールは三度に一度は返したし。ライブは来てないけど、ライブの日は電話したでしょう。俺も忙しいのは知ってるよね?」
「いやいや、こんな可愛い子とはライブするのに、私とはしないって、どういうことなの?それに二人の関係な?」
矢継ぎ早に繰り出される不満は、予想通りだ。
さあ、ゆる髪ねーちゃんにお願いしていて助かった。
「いやいやいや、違うよ。ココなってば、ボーカルでしょう。俺はサブだし、必要がない。あと今回は特別なんだ。あーちゃんからの頼みなんて断れないだろう?違うか?それと、この子は俺の彼女です。よろしくね」
「いやいやいやいや、いやー!認めないっ!
私のアプローチを振り続け、結衣ちゃんに決めたってこと?私のどこに不満があるの?」
物凄い剣幕だった。
みんながシーンとなっている。
やっぱ、ココなは可愛いけど、うざい。
「ココながプロ目指すなら、普通に無理でしょう。
不満は無いけど、俺とは釣り合わない。すぐそこにお前の憧れた世界があるんだから、俺なんて忘れた方がいいよ」
本当に心から思っていた言葉をココなに伝えた。
バンドのみんなもわかっていたし、これで終わりと思った矢先、思いっきり大きな音がした。
『パーン!』
その音はココなの渾身のビンタが俺の頬を叩いたものだった。それは後から痛みが来るほど、大きな驚きだった。
読み直したら、結構な誤字脱字でした。
時間があれば、修正します。