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なんでだよ!

あはは、書いちゃった。

 バイト仲間に会わせたくはなかったが、ついてきたからには仕方ない。

『ええい、ままよ』とばかりにゆる髪ねーちゃんと裏口からお店に入った。

 チロリンっという音がして、分厚いドアを開くとテーブルを挟んでソファにゆったり腰掛けて二人の男と がくつろいでいた。気怠そうな顔つきに煙草の紫煙が立ち込める。二人は個性的な着こなしで、不良グループみたいな格好だ。


「ちーす!」


「「「ちーす!」」」


「あれっ、まだ三人なのか?」


「ああ、ジュン。今日はココなが来ねぇ。だから、お前が前面な。それがバイトの条件だ」


「……ボードは?」


「なんとかなるだろう。……っと、ジュン? このお嬢さんは?」


 金髪頭の強面なにーちゃんに結華が見つかってしまった。


「ああっ、と、遠い親戚かな?! ははっ」


 金髪頭のにーちゃんからは値踏みされるようにジロジロと見られてしまうし、他の二人も気づいて、ニヤニヤしている。


 そんな中で天然よろしく、普通の感覚で応対するよ、この人は!


「いつも舜がお世話になっています」


 いつもって、あんたは俺の身内か?


「いや、俺達こそ、助かってます」


 ……おーい、ゆるキャラにペース乱されるのはロッカーとして、いかがなものでしょうか?


「あーちゃん。ごめん、こいつは……クラスメイト。遅くなるから、強引に家に帰そうと思ったんだけれど、つきまとわれて、結局付いてきちまった。だから、ごめんけど、俺らの出番の時に裏から袖に来させていいかな?」


「お前が前面をOKしたらな。もしも、客席なんかに連れて行こうものなら、ものの三秒で誰かが声をかけるだろうなー!」


「まあ、お友達ができるんですか?」


 あーちゃんの言葉に目を輝かせながら、予期せぬ言葉を言ったゆるキャラに奇異の視線が集まった。


 こめかみを軽く押さえながら、あーちゃんが俺の耳に小さく呟いた。


「ジュン、本当にこの子はなんなんだ? 天然らしいが、危なっかしい。

 お前、こんなところに連れて来るなよ。この俺まで心配になってきたじゃないか」


「聞かないでくれ。ライブ前にそんなこと言ったら、落ち込んでノレなくなってしまう」


 そんな会話の直後に、リハの時間がやって来て、気が重いけど、ステージ衣装に着替えて、久しぶりのステージに降り立った。


 赤坂寛あかさかひろし通称あーちゃんのドラムに津田凛太つだりんた通称つむりんのベース、俺のギターという少し寂しい構成と思ってしまう。

 このバンドの本当のボーカルのココなの代わりに今日は俺がボーカルにギターという一番やりたくないポジションになっているが、これもお金のためだ。スマホ代のためだから仕方ない。


 だがな、このステージ衣装だけはゆるキャラには見せたくは無かった。

 帽子を脱いで、肩まであと少しの髪を金髪用のスプレーで色を付けて、青のカラコン、短パンにタンクトップという中性的な自分を知り合いに見られるなんて、俺のプライドが崩壊しそうだ。

 ライブのためにココなに決められた姿が、今では俺の定番のステージでの姿となっている。


 どうしたものか、声変わりもしないために客の半分以上は俺を女の子と勘違いしているのが、このごろは耐えられなくなっている。


 ああ、不憫な俺!


 ステージの袖からワクワクして俺を見るゆるキャラの目は一層、光り輝いている。

 男か女かわからない姿が俺の姿を見て、ジュンという名もジュンイチだとか、ジュンコだとかファンは勝手に呼んで妄想を膨らませている。

 んで、ジュンとは瞬をもじっただけの何の変哲もないあーちゃんからのあだ名をそのまま使っているだけなのだ。


 昔は、この中性さも人気で、嫌いではなかったんだけど、今はもう少し男らしく認めて貰いたいというのが本音のところ、しかも実のところ本当は一年前にバンドからは引退していた。

 理由は、もち受験生だったからだ。

 お世話になったあーちゃんのたっての頼みのために、一年ぶりにステージに上がる事になったのは、ついさっきのことだった。


 ココながメジャーデビューということで、もうライブには出られないということだし、チケットも売ってしまったらしいから穴はあけられないという理由に、俺も異論を挟む余地はなく、メールでの返事も「了解、詳細もメールしといて」という簡単なものだった。


 しかし、ココながメジャーデビューとは、この先も代わりをさせられることを覚悟しとかないといけないかもな。



 ふと、客席側を一瞥するとゆるキャラねーちゃんと目が合いそうになったから、即座に無視してあーちゃんにボードが必要と訴えた。しかし残念なことに、今日はどこも助っ人がいないとのこと。

 ボードが無いと、サビの部分の長さの調整や音を外した時のカバーがないのはかなりのプレッシャーとなる。


「ジュン、お前のだちにピアノを弾いてる奴が居たよな。一度だけ出演してくれた、あ〜〜っと、なんて名前だったかな?

 舞、智花、寿美、絵梨、鈴音、美琴……、のうちの一人だよな。確か、この付近のマンションだっけ、彼女なら本番までに間に合うんじゃないか?」


 …………あーちゃん、俺って、そんなに付き合って無いし、言いたいのは舞花のことだろう。

 あいつとは、連絡取ってないし、そもそも取れない。

 もう番号もアドレスも消しているし、携帯会社も変更している。

 二度と会いたくない相手なんだ……と言えればスッキリするんだけどな。

 そこは俺のプライバシーとか、デリカシー的な問題だから、放って置いてもらいたいんですが……。


「えええっ、瞬君ってば、そんなに多くの人と付き合っているの?」


 ……なんで、あなたはそこで聞こえてるんですか? ゆるキャラさん?


「ゆるキャラねーちゃん。これはあーちゃんの意地悪だ。今まで誰とも付き合ったことはない……と思う?」


「その疑問形は、なんですか? それに呼び方がゆるキャラに変わっているし!」


 ん〜、舞花とは結局の所、付き合えなかったから関係無いけど、智花はお隣さんだから、外出時とかに偶然に会うこともあるし、買い物に行く時に会えば、一緒に行く事もある。

 幼稚園以来、会うことは無いけど琴美とは文通が続いているし、全く付き合って無いといえるが、女の子の知り合いは、他に残っているかな?


 ああ、ココなを忘れていた。あいつとは、結構メールのやり取りをしていたんだけど、なんでメジャーデビューのことを言ってくれなかったんだろう?


 なんか、今自覚したよ。誰とも会っていない『ぼっち』ではなかったんですね。


「瞬君、その間は何なんですか?」


「ああ、俺ってば、女の子とは付き合ったことはないって再確認してただけだ……って、なんでお前に話さないといけないんだよ」


「あ、あたしだってまだ、男の人とはお付き合いしたことないのに、年下の瞬君がなんでそんな沢山の女の子の友達がいるのよ? それに、キーボードなら私がいるわ。なんなら、弾いてもいいわよ。

 これでも、ピアノとエレクトーンは幼稚園の頃からずっと習ってきたんだからね!」


 ……う〜っ、ボードは欲しいがこいつに借りは作りたくはない。

 ここは、我慢するか……。


 こっそり、あーちゃんを見て、指で×をつくるも、意外なことに、つむりんが先に動いていた。


「おーっ、そこのお嬢さん。瞬のためにやってくれるのか? なら、早くこっちにおいで、そこの階段から来れるし、まずは譜面を見て弾いてくれよ」


「つむりん、俺は、この子の参加はヤダよ」


「ほう、ジュン、ココなにこの子のことを言ってもいいのかな? もう一人暮らし出来なくなると思うぜ」


「まてまて、あーちゃん。ぼ、ボードは必要だよね。さあ、早めにセッション決めて、終わりにしましょ」


 その後に、リハで思いっきり発散したのは言うまでもない事だろう。

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