とどろ、身の振り方を考える
「とどろ。あのね。戸籍を得たいって話なんだけど。とどろがいた日本って国のことは、役所の人たちには話さない方がいいかもしれない。とどろの国は、この世界にはたぶん認知されてないよ。世界地図に日本なんて国はないからさ」
道の途中、役場が見えた頃に、アプリは、とどろにお願いした。
「そうなのかな。俺のいた世界地図にもシャルティシエという国はなかったから、この世界の地図に日本は載ってないかもとは思ったけど。でも、俺みたいな異世界からこの世界に迷い込む人っていないのかい」
「たぶんいないわ。精霊が異世界を行き来するという伝説はあるけど、実際に迷い込んだ人の話は聞いたことがない」
アプリは申し訳なさそうに、とどろに答えた。
「そっか。うーん。でも、ここまで来たんだし、せめて、役場の人の話を聞いてみてもいいかな。万が一、精霊に連れてこられたことに役場の人が理解を示してくれるかもしれないし」
「そ、そうね。ごめんね。水を差すようなこと言って」
「いや、アプリの話は十分起こりうるよ。でも、チャレンジだけはしておく」
とどろとアプリは役場の入り口をくぐった。
「戸籍は作れません」
役場で受付のお姉さんに話をすると、ピシャリだった。
とどろは分かってはいたことだが、もう一度聞いてみた。
「精霊から異世界に連れてこられた事例ってないですか」
受付のお姉さんは、眉をひそめて、周りの職員の反応を伺う。周りの職員も肩をすくめた。
「すみませんが、そういった事例は報告されていません」
役場の人たちは、明らかに信じられてなさそうな様子だったので、とどろは諦めた。
「そうですか。わかりました」
とどろは役場を出た。
外はすっかり夕暮れだった
役場を出ると、とどろはどっと疲れがでた。分かってはいたことだが、世界から受け入れられてないようで、ちょっと堪えた。
「正攻法は無理か」
とどろは、肩を落とした。
「あのさ、とどろ、うちで働かない?」
アプリが信じられないことを申し出てくれた。
「え?」
とどろは聞き返す。
「私、実はお店を出してるんだ。とどろがもし良かったらだけど、働かない?」
アプリがもう一度尋ねる。
「働く」
とどろはアプリの手を握り二つ返事で答えた。