虹のむこう側
とどろは、夢を見ていた。
それは、大雨が去ったある日のこと。
幼い頃、友人と虹のむこう側へ行こうと言いだしたことがあった。
虹のむこう側には、誰も見たことのない世界があって、宝物が眠っている。
友人とそんな他愛のない話をして盛り上がった。
結局、朝から家を飛び出して、夕方になる頃には、虹の麓にすら辿り着けずに、虹は消えていた。
あるかどうか分からないものを確かめたくて、それがたまらなくワクワクしていたそんな幼い頃の想い出だった。
「ここは、えっと」
とどろは、目覚めると、窓際から日差しが差し込んできた。
窓からは青々と緑の茂った山が、一望できた。
「ああ。おはようさん」
白い顎髭をたずさえた老人の男性が、こちらに気づく。
痛っ
とどろは頭部の激痛に顔を歪める。
「安静にすることじゃな。ワシの可愛い孫からの頼みじゃ。お前さんが、恩を仇で返さん限りは無下にはせん。とにかく、体を治しなされ」
とどろはお孫さんが先ほどの金髪の少女だと思った。
「命を救っていただきありがとうございます。。お孫さんにもお礼が言いたいのですが」
白ひげの男性は、待っとれとだけ言って、部屋を出た。
とどろは、窓の外を見た。
ここは二階のようだ。
下を見降ろすと、よく手入れされた庭があった。
知らない場所に来てしまった。
いろいろ知りたいことが、山のようにあった。
とどろは、家族のことや家への帰り方などを考えていると、部屋の扉が開かれる。
金髪の少女が、扉越しに頭をちょこんと出して、こちらの様子を見ていた。
とどろと金髪の少女の目が会う。
「元気になった」
金髪の少女がとどろに尋ねる。
「ああ。おかげさまで」
金髪の少女は笑う。
「どう。夢じゃなくて現実だったでしょ」
「そうみたいだ。困った。帰ったら、外に干してあった洗濯を取り込もうと思ってたのに」
とどろはわざと困ったように腕を組み神妙そうに言った。
なにそれと金髪の少女は笑う。
「あなた、精霊にここまで連れてこられたんだよ」
とどろは驚く。
「精霊って何」
今度は金髪の少女が驚く番だった。
「あなた、精霊知らないの」
「ああ。いや、空想の世界とかなら、風を司る精霊や火を司る精霊とかいるのはわかるけど、それは架空のものだ。多分俺が知っているのとは違う」
「架空って。それが精霊じゃない。良かったわ、一応知っているみたいね」
「そんな馬鹿な。精霊はいるものなのか」
とどろは信じられなかった。
「夢じゃないよ」
金髪の少女はケラケラと笑っていた。
「精霊のお導きなんだし、ひょっとしたら、この世界とは違う世界から来たのかもしれないわ。精霊の最高位は別の理の世界を行き来するものがいるって話だし」
金髪の少女は、わたし最高位の精霊に会っちゃったんだーと驚いたように呟いていた。
とどろは、ここが異世界かもしれないと聞き、しばらく状況が飲み込めそうになく、本気で取り乱していた。
「とりあえず、体が癒えるまでしばらくかかるし、これからどうするかは完治してから考えなよ」
金髪の少女はそう言うと、じゃあまた来るねとだけ伝えて部屋を出て行こうとしていた。
「あ、そうだ、私の名前はアプリコット。みんなからはアプリって呼ばれてる。あなたの名前は」
金髪の少女はアプリコットと言うのか。
「俺は火野とどろ。とどろでいいよ」
「そう。じゃあ、とどろ。これからよろしくね」
アプリは満面の笑みを浮かべた。
とどろは、よろしくと生返事しかできず、
とどろは思わずアプリの笑顔に見惚れてしまった。
その日の夜は雨だった。
次の日、とどろは目を覚ますと、山のむこう側に虹が架かっていた。
「異世界でも虹は架かるんだ」とどろは呟く。
しかし、ここは、とどろの知らない世界だ。
それは、不確かだらけの世界だった。
しかし、ひょっとしたら、何か面白いものが、ここで見つかるかもしれない。
とどろは前向きに、現状を捉え出していた。




