少女
少女は、祈りを捧げた。
花畑に佇む墓標に、手を合わせて。
その祈りは、願いではなく、誓いのようなもの。
少女にとって、かけがえないのない人が眠るこの場所で、少女は毎月一度は、私はこう生きるからと、宣言しに訪れていた。
困難が少女に訪れていた。
困難に負けないよう、大事な人を守れるよう、少女は誓いにきた。
手を合わせて、しばらくの時間が流れた。
頬には一筋の涙の跡があった。
「私、もう行くね。どうか見守っていてください」
少女が立ちあがり、大きな伸びをする。
さあ行こう。妹弟たちが待っている。
少女は、花畑から出ようとすると、一陣の風が吹いた。
否。その風は精霊のもたらす風だった。
少女は目を疑う。
通常のつむじ風ではないことが、少女には見て取れた。
風に乗って、青く長い特徴的な尾があるサクの鳥が上空にいた。
あれは、精霊と共に行動している聖獣だ。それもかなり高位の聖獣だ。
サクがいるということは、かなり高位の精霊がこの近くにいるのだろう。
普段は人とほとんど関わりを持とうとしない精霊だが、
山奥のこの花畑とはいえ、人里に現れる。不思議だわ。
少女はそう思った。
少女の目の前で、花畑の花を、青いつむじ風が巻き混み、散らし、舞っていく。
花吹雪の中に、誰かいた。人だ。
少女は、驚いた。精霊が人を連れてきた。そんな話は聞いたことがない。
そして、よく見ると、その人は怪我をしていた。
少女は、その人には近づく。男性だ。青年が横たえている。
近づけば、酷い傷だとよくわかる。
少女は、青年におそるおそる触れる。
「大丈夫」
精悍な顔立ちをした青年だと少女は思った。
「は?」
その青年は、目を開け、少女を見る。
少女はその青年が今にも死に至る危ない傷をしているのに、氷を背中に入れられたように、物凄い勢いで起き上がるものだから、少女は思わず笑ってしまった。
この人、凄い生命力だわ。これなら、大丈夫ね。