洋館
「とどろ、ここが、職場よ」
アプリに案内されてやってきたのは、古い洋館だった。かなり豪邸であり、すごく歴史を感じさせる建物で、門構えも年季を感じるものだった。
とどろはあまりの豪邸ぶりに言葉を失っていると、
「職場兼自宅でもあるんだけどね」
アプリはぼそっとそう呟いた。
「凄い家だな。アプリはその、貴族様とか身分の高い方なのかな」
とどろはアプリに尋ねた。
「ううん。違う違う。一般庶民よ。これは私のご先祖様が建てたもの。うちは代々魔物討伐の家業をやってて、初代である創業者が凄い人だったの。その人が建てたのよ」
だいたい350年前くらいの話らしい。
アプリは門を開けた。
庭は広く、芝生がよく手入れされていた。
アプリが玄関を開けて、待っている。
とどろは家を物色するのも悪いと思い、急いで中へ入った。
家の中も凄かった。まず玄関が広かった。とどろの実家は田舎の比較的広い家だったが、これは実家の居間くらいのスペースが玄関部分ですでにある。さらに、ステンドガラスが玄関の上方に装飾されていて、夕焼けの日光がステンドガラスに差し込むことで、玄関から入ってすぐの床に、三本のアーチと剣のような模様が浮かび上がっていた。
とどろは、息を飲んだ。
「こっちよ」
アプリはてくてく進んでいた。
とどろはついていく。
とどろが中に入ると、机と椅子やソファなどが並び、真ん中のテーブルに図面のようなものが置いてあった。ソファに一人寝そべっている人がこちらを見た。
「あらやだ。パイン、こんなところで寝てたの。窓も開けっぱなしで、風邪ひくわよ」
アプリは、パインと呼ばれる少女をたしなめた。
「風が気持ちよくて、つい」
パインは、起き上がると、とどろを見た。
「この人がお姉ちゃんの言ってた人ね」
「ええ、そうよ。とどろさんよ。今日からうちで働いてもらおうと思って」
パインは嫌そうな顔をした。
「うち、そもそも仕事ないじゃん。魔物の数も最近は減ってきたし、だいたい仕事は大討伐隊が持って行くし。仕事が無いのに、雇うの」
「あるわよ。仕事。メアリーさんが薬を調合するために使う野草取りとか、ケリーさんちの迷子になったケルベロスの捜索とか」
「そんなの、うちの仕事じゃないじゃない」
「いいから。頭領である私が雇うって決めたの。それ以上の理由はありません」
パインはまだ何か言いたげだったが、引き下がった。
とどろは居づらい雰囲気だと思った。
「アプリ」
とどろはアプリを呼ぶ。
アプリはとどろに振り向くと、
「ごめんね。とどろ。うちも実は苦しいの。とりあえず、三食と寝床は、保証するから、改めて、うちで働いてくれないかな」
アプリはとどろにそう言った
とどろは遠慮すべきだと思った。
しかし、寄る辺の無い自分には、アプリに頼るしか今は無いと思った。
「こっちこそごめん。なんか、迷惑をかけっぱなしだな」
「そんなことないわ。困ったときはお互い様よ」
アプリはあっけらかんとそう言い切った。
とどろは申し訳ない気持ちと、いつか必ずこの恩に報いらなければ、と思った。
「はいはい、お二人さんそこまでよ。そろそろ夕飯の支度するから、お姉ちゃん行くよ」
そんな時間だったわねと、アプリはパインについて行った。