はじまり
駄文ですが、読んでくださると幸いです。
「うわー。今月も金欠がやべーぞ。どうすっかな。農家に婿養子だれか取ってくれないかな。そしたら、食いっぱぐれることだけはないんだけど。そんなうまい話は転がってないか」
火野とどろは24歳。コンビニ店員のフリーターだ。大学の頃もコンビニでアルバイトしていた。就職活動を失敗して、正規雇用の仕事を持てなくて、結局今もフリーターだ。奨学金の返済が、頭をもたげる。
仕事終わり、豪雨で、バス停の前で傘をさしながら、バスを待っていた。
とどろは今の状況を笑い飛ばすくらいしかできない。
「今日の晩飯は、カップラーメンに、もやしは入れられそうにないな」
とどろはがっくりした。
普段の生活がもやし入りカップラーメンなのだ。そこから削るなら、カップラーメンかもやしを削るしかない。
カップラーメンは譲れない。削るなら、1パック30円のもやしだ。
とりあえず、仕事終わったし、バス来たし、家に帰るか。
―――池早、池早です。
バスのアナウンス。普段通り、バスに乗るとどろ。
座席に着くと、スマホに無料通話アプリ「ライム」が鳴る。同じ職場の高橋さんからだ。
「お疲れ―。火野くんもう帰った?」
なんだろうととどろは思った。残業のお願いか。
「帰ったよ」
「そっかー。残念。じゃあ、明日は私が終わるの待ってて。火野くんに直接話したいことがあるんだ」
なんだ。すごく気になる。
「どしたの。急に」
「明日話すから、また明日。忘れないでよ」
女子高生の高橋さんは、勝気な性格だけど、根は優しい子だ。
なんだろう。この間、野良猫の里親探し手伝ってあげたので、割と最近よくしゃべる。
しかし、これを後から振り返ると、結局高橋さんの話は聞けなかった。
雨がさらに強くなる気がする。もはや台風規模の豪雨だ。今朝のニュースでは何十年ぶりかの降水量だと言っていた。
山道をバスが走る。対車線で走る車が、ものすごい速度で走るものだから、激しく水しぶきを撥ねながら通過していく。
まもなく、バスはトンネルの中に入っていく。
「怖いわ。こんな山道で、こんな豪雨だから、土砂が起きないかしら」
前の席に座っていた、老夫婦のおばあさんが、おじいさんに話しかける。
「起きないさ」
おじいさんはぶっきらぼうに応えていた。
バス車内には、老夫婦とOL風の女性、とどろ、そして運転手含め5名だった。
ミシミシと軋む音が、どこかから聞こえていた。
日常が、非日常に変わるのは一瞬だ。
ドカン。
突然の轟音。
一瞬すぎて、何が起きているか分からなかった。
ただ分かるのは、バスではなく、トンネルから生じた音だと分かった。
目の前は、暗闇だった。
頭が痛い。
腕がしびれて、頭が朦朧とする。
とどろは意識を失った。
ああ。花畑が見える。綺麗だ。
死んだのかな。結局何も成し遂げられずに、人生は終わったのかな。
限りなく続く地平線。花の香りがする。花畑に長い金髪の女性がいる。
綺麗な人だ。死んでも、こんな綺麗な女性が見られるなら、悪くないか
女性がとどろに近寄ってくる、よく見ると幼い顔立ちだ。高橋さんくらいの年頃だろうか。
「大丈夫」
透き通る声でとどろに話しかけられ、頭をなでられる。
「は?」
なんでこんなに五感がはっきりしているんだ。
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