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第33話 ゴットフリートと暗躍する者達

「ベティー!」


 ゲッツの声が暗く、閉鎖的な空間に響く。


 ゲッツ達がたどり着いたその部屋はまるで収監所のようである。その部屋は今までの部屋りも狭く、息もしづらい。


 部屋はいくつかの小部屋に別れており、それぞれが鉄格子で区切られていた。

 

 どうみても平和的な施設ではない。

 牢獄だ。



 その小部屋内の1つの中には怯える5、6人の少年少女。

 他の小部屋には誰もいない。


「いた! ベティーだ」


「うむ。間違いないな」


 ベティーは少年少女が固まっている後ろで、傷だらけで横たわっていた。

 意識はありそうもない。


「この子らは、きっとこの区域で行方不明になった者のうちの数人だな」


「おそらくな。ブルーノ、この檻の南京錠、壊せるか?」


「うむ」


「ねぇ、お兄ちゃんとおじちゃん。だあれ? 黒い人のお仲間さん?」


 ブルーノが魔法で壊そうと杖を取り出すと、怯えた少年少女の内の1人の年長の少女がゲッツに聞く。


 黒い人が誰を指すのかはゲッツには分からなかったが、おそらく犯人であろう事は察しがつく。


「いいや。僕たちは君たちを助けに来たんだ。な? クロ?」


「ニャムー……」


「あ! 子猫さん!」


 子供達はここに連れてこられる前にこの子猫と遊んでいたらしい。クロの眠そうな返事に、彼女らの強張った顔が和らいだ。


 ブルーノが子供達の檻の扉を開けると、ゲッツはベティーが横たわっている場所に近づく。


「ベティー……無事か?」


「う、うぅーん……」


「ベティーしっかりしろ!」


「うーん……はっ!? こんの最低兄貴ぃ!」


 ベチン!


 褐色ロリエルフの理不尽なビンタが、ゲッツの頬に命中した。

 的確な位置を狙った一撃は、頬に小さな紅葉をつくる。


「い、いたい……」


「ーーあ! げ、ゲッツ様!? ごめんなさい! い、痛かった? ……わよね」


「うん。でもよかった。ベティーが無事で」


「う……うん。ありがと…ゲッツ様……」


 ベティーは恥ずかしそうに俯く。

 

「傷は? 歩けるか?」


「う、うまく立てないかも……」


「しかたない。ベティーは僕が背負っていくよ。さあ、乗って」


「う、うん……」


 ベティーは何かを言いたげにゲッツを見上げるが、意を決してゲッツの背中に飛び乗る。

 背は11歳のゲッツと同じほどなので、背中で背負うのは簡単であった。

 




ーーーー


「ここだ! ここのはずだ!」


「探せぇ!」


 どこからか数人の男達の声が聞こえる。


「これが探しに来た善良な市民だと良かったのだがね……」


「どう聞いても善良な市民じゃないね」


 明らかに殺気のこもった声である。善良な市民が自分たちの子供を探すような声ではない。


「こわいよぉ…」


「ママァ……」


「にゃー」


 震える子供達にクロがゲッツの肩から降りて慰める。


 ベティーもこのような危険にあった事がないのか、ゲッツの背中で震えているのが分かる。


「ゲッツ様……」


「大丈夫だよ」


「おそらく、追っ手は我々が入った教会の地下から来ているに違いない。別の道を探すか、倒すしかあるまい」


 ゲッツ達の数歩先で地面に指を付けて探索魔術を行使していたブルーノが、そう結論付ける。


「別のルートに行きたい所だけど、このままだと必ず見つかる。ここはこの先にいる奴を倒さないとダメだと思う」


「うむ、そうだな。子供達は後ろに下がらせよう」


「ああ。ベティー? 子供達と後ろで隠れてくれ」


「う、うん」


 そう言ってゲッツはベティーを子供達が隠れる檻の中にゆっくりとおろした。

 ベティーは動けないが、一応魔法は使える様なので子供達の護衛もお願いする。ベティーは渋々だが、ゲッツの手を手放した。


「ゲッツ様!」


「うん?」


「無事でいてね……あたし……」


「大丈夫だから、ね?」


 少し不安さを残すベティーを置いてゲッツはブルーノの所へと走る。

 紙の切れ端に書いておいた魔法陣の数枚をポケットに突っ込んで。





 ゲッツがベティーと別れてブルーノがいる場所まで戻ると、既にそちらは敵とまみえていた。


 人数は5人。

 

 対してこちらは2人で、片方は子供である。

 それでも明らかに不利なのに、相手は1人魔法師がいるようだった。


「ほう! お前がゴットフリートというガキか!」


 5人の中でも一番ガタイがいい男がゲッツを確認する。


「そうだけど……何が狙いなんだ」


「へへへ……お前らの抹殺だよ。上からの命令だ。俺はあの時の兄貴とはワケが違うからな。覚悟しろよ」


「あの時だと?」


「へへへ……あの時はあの時さ。6年前はよくも俺たちの計画を台無しにしてくれたもんだぜ」


 6年前と言えば、ローゼンブルク市襲撃事件の事だ。ゲッツはそこでフードの男と対峙している。 

 このガタイがいい男はその関係の人物だと分かり、ゲッツも力が入る。


 服も子供達が言う通り、黒い服を来ており、この一連の事件の犯人に違いない。


 

「隙ありですな! 風は対象を切り裂く【ヴィント・シュナイデン】」


 相手がゲッツと話して気がそれている間に、ブルーノはその一団に向けて魔法を放つ。あの大猫の化け物に対して使った中級魔法だ。


「ぐぁ!」


 5人の内の1人がくらって、倒れる。


「なっ! キサマ鬼か! 人が話しているのに!」


「戦場で気をそらすのが間違いなのだ。……その様子だと、おぬしら、本物の暗殺者ではないな?」


「なんだとぅ! ちくしょぉ……。お前ら、中年と子供だからって遠慮はいらん! やれ!」


「はっ!」


 ブルーノの煽りに一気に顔を赤くした男は周りの3人に指示をだしゲッツ達を取り囲んだ。


 雰囲気でゲッツは、フード男より弱そうに思えてしまうが、それはブルーノがいるおかげである。ブルーノは相手の行動を読みつつ、再び魔法を放つ。


「そよ風よ【リュフトヒェン】」


 この魔法は一見何も起こらない。

 この辺り一帯にさわやかな風が流れるだけだ。


「ちっ! こんな子供騙しでぇ!」


 男達がブルーノめがけて突進する。


 だが。


「性質変化だ。竜巻は対象を切り裂く【ヴィント・ホーゼ・シュナイデン】」


「なっ!」


 圧倒的である。

 そよ風は次第に竜巻となり、その竜巻に巻き込まれた男達は一瞬にして切り刻まれ、地面に伏すことになった。


 敵はリーダー格の男を残して全滅。

 あまりの威力に、その男は一瞬放心していた。


「く、くそっ! こんなに強いなんてきいてねぇぞ!」


「おい、おまえ。だれから、頼まれたんだ」


「う、うるせぇ! 貴族のお坊ちゃんめが! しねぇ!」


 ゲッツが前に出ると、リーダーの男は杖を向けて魔法を放つ。


(くるか!)


「石よ【シュタイン】!」


「来ると思っていた! 今のを取り消す【シュトール・ニーレン】」


 懐の紙切れを相手が放った魔法に向けてかざすと、その魔法は一瞬にして解ける。

 ゲッツの魔法は今これしか使えないが、全ての魔法を無に帰す事ができるのだ。相手を錯乱させるにはこれだけで十分である。



「な、なんだ! 今のはぁ!?」


「ブルーノさん! 今だ!」


「うむ。竜巻よ縛り付けろ【ヴィント・ホーゼ・バインド】」


 ブルーノが自身の【回路】を通して、再びそよ風を性質変化させる。

 竜巻は見えない拘束具となって相手を地面に伏せさせる。

 手と足を固定したため、もう魔法を使われる心配もない。


「ぐっ……ち、ちくしょぉぉ!」


 すると男は口をモゴモゴとさせる。


「自決するつもりであろうが、させん! そよ風よ再び性質変化! 窒息せよ【エア・シュティッケン】」


 ブルーノは相手が毒を飲み込む前に相手の意識を刈り取った。


「ふぅ。なんとか、倒したな。周りに反応はない。子供達を連れてこよう」


「その技、最初っからできなかったの?」


「ん? 窒息呪文か。そうだな。この呪文は無力化するにはとても強い魔法だが、相手の体力がある程度落ちていないとできんのだよ。それに位置特定もシビアでね。君の魔法が助かったよ」


「うん。本当はもっと覚えたいんだけど、今はベティーと子供達だね」


 ゲッツとブルーノはその後、子供達とベティーを連れて教会の外へ脱出に成功した。


 ブルーノはその足で、知り合いの憲兵隊の隊員に事情を説明させ、襲撃して来た男達を捉える事に成功したのだった。





ーーーー


 同時刻。

 ゴッツ市立図書館、架電室。


 特別な許可がいる事から、普段あまり利用者数の少ないこの部屋で、司書官はある男を出迎える。


「アルノー様。お待ちしておりました。あの方から連絡を受け取っております」


「そうかい。見せてくれ」


「はい。こちらに」


 そう言うと、司書官はアルノーに紙を手渡す。

 その手紙にはいくつもの印が押されており、送り主がどれだけ遠方にいるのかを物語っている。

 内容も、この国の言語ではない。


「ふむ……あ〜あ。そっちの任務は失敗か…ま、いいか。オレは任務は達成したからね」


「そうですか。では……?」


「ああ。この国とはおさらばだな。最近少々やり過ぎて、ブルーノさんやヨーゼフ先生達に睨まれているからな」


「手配します」


「頼んだ」


 そう言うと彼らは、架電室を後にした。


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