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第32話 ゴットフリートと騒動

第31話


 ゲッツとブルーノはゴルツ市の中でも郊外の部類に入る区域、グラッベ通りをさらに西へ進んだ所にある古びた教会へたどり着いた。

 ゲッツが懐の懐中時計を取り出すと、指針は午後4時過ぎを指していた。


 ゴルツ市の郊外はーー北州の大都市であるローゼンブルク市とは規模が違うため当たり前なのだがーー道もあまり整備されておらず、家もまばらである。さらにその中でも最も辺鄙な区域になるのがこの教会の周辺であった。


 聖ヨハネスハウゼン教会。


 教会にはそう看板が立てかけてある。この国の最大規模の宗教ヴィルヘルムス聖教に属する教会であるが、末端になると屋根の修理もままならない有様だ。


 比較材料として、ゲッツの育った町ペーベルにも小さな二階建ての教会があったものだが、ここの教会は木造で特に劣化が激しい。


「ブルーノさん。探索魔術では、ここにベティーがいると?」


「うむ。私の使える特殊魔術、波動魔術を応用であるな」


「たしかにこの教会は今は使われていない様だし、最近ではこの付近の子供も失踪していると聞いたね」


 ブルーノが大まかに特定した後、ゲッツ達は周辺を調査した。

 するとこの教会の元教区内に失踪事件が多発しているらしいので、巡査隊が一度この教会を調査したことがあると言うことを聞いたのであった。

 

 だがなにも出てこない。

 だから、この区域では常に警官が警戒に当たっており、地元自警団も結成されているまでだということをゲッツは耳にした。


 ちなみにこの都市は俗にいって王立都市ーー国王の権限の下、市民出身が代理管理する都市ーーである。

 そのため、市長は存在するが領主は存在しない。リーツなどとは違って、ゴルツ市長は貴族ではないのだ。


「だから僕のコネを使って市長権限で探すという手は使えない。こういう時もどかしいよ」


「まあ、しかたないのである。それより、もう夕方である。一刻も早くベティーを探さなくては」

「そうだね。よし、入ろう」


「うむ」


 ぎい、と古い木のドアが木の支えとこすれる音がする。


「誰もいないな……。やっぱり巡査が来て何もなかったのは本当だったみたいだね」


「むむむ。確かに何もない。何もないが、あまりにも何もなさ過ぎて逆に生活感すらわいてくるのであるな」


 教会内は物が一切置いていなかった。あるのは木の祭壇と椅子だけ。


 ゲッツは一般的な教会の室内を見たことはなかったが、なぜか他の教会とは違う、邪悪な気配がするのであった。


(ここまで変な、誰かに何かを伝えられているような感覚……これは!)


「ゲッツ様、どうかしたかね?」


「導属性かな……? おそらく僕の勘が何かに導かれているような感じがする」


「ほう。確かにゲッツ様の辺りには魔素が可視できるほど濃密になっておる。まさかここまでとは……」


 ゲッツの頭の中へ何かが訴えかける感覚は、自分が導かれていると自覚すればするほど明確になっていた。

 その不思議な感覚は次第に、声となってゲッツの頭に響く。


『ーー…祭壇の…下…地下……』


「ーーっ! 地下。地下だ! ブルーノさん!」


 ゲッツの叫び声にブルーノは頷くと祭壇へと向かって地面を調べた。

 ブルーノが祭壇の下のフローリングを軽く叩くと一部だけ明らかに音が違う箇所があった。


「ゲッツ様。この床は幻影系の魔術が使われていると推測する。ゲッツ様の属性は魔法を導く。解除は可能であるはずである。【触媒】がないから、原始的な方法でしかできないが」


「魔術式の陣を書くんだったよね」


 ゲッツは本に書かれていたことを思い出しながら、アヤシイ床に原始的な方法ーー実際に魔法陣を書くことーーで魔法を唱える。少々面倒くさく時間がかかるが【触媒】がない以上、安全にやるにはこうやるしかない。


「これでよし、と」


 木の床にはゲッツによって、円形とその中に書かれたいくつかのルーンが描かれた。幸いにも、ゲッツは魔法学基礎の授業で簡単な陣の書き方は習っていた。


 そして、このゲッツが唯一覚えている呪文も基本的な陣形で間に合った。


「取り消す【シュトールニーレン】」


 すると、魔法陣は発光しだして木の床の一部の区画がだんだんと石造りに変わる。ゲッツが初めて導属性の魔法に成功した瞬間である。

 

 だが今はそれよりも、

 

「これは……」


 ゲッツかブルーノがそう呟いた。

 現れたのは地下へと続く石階段であった。

 

 下へ続く道は古い石で作られているが意外と暗くなく、普通に等間隔に明かりがついている。確実に今も使われている証拠である。


「この壁は今から500年以上も前に作られた者である。この国が建国される少し前のモノであるな。どうやらこの件、きな臭くなってきたのである」


「ブルーノさん。とりあえず降りよう」


「うむ」


 そう言うと2人は石階段を下って行った。

 





 薄明るい階段を降りると、ゲッツとブルーノは広い部屋にでた。部屋はそこそこ広く、慎重が高いブルーノでも天井に届かない程である。


「このような空間がなぜーーっ!」


「ブルーノさん! 何かいる!」


 強烈な殺気を肌で感じ取り、ゲッツは素早くブルーノの腕を引く。

 すると、


 ドオォン!


 と先ほどまでブルーノが立っていた所がえぐられる。


 床は石造であるはずなのに軽くクレーターができていることから、その衝撃がいかに強烈だったかがわかる。


「グゥルルルル……ガアァ!」


「こ、こいつ!」


 その化け物はゲッツに飛びかかる。


 大きな猫の様な動物は殺気を隠そうともしない。

 かすりでもしたら一瞬で先ほどのクレーターの様様になってしまうことは明白な程の、鋭い爪で避けるゲッツを執拗に追撃する。


「こんの! 右ぃ!」


 急速に迫り来る爪をゲッツは間一髪で避けきる。

 ゲッツの先読み能力は健在である。


 ギリギリ……。


 化け物その大きな牙をこすらせ威嚇する。

 

 ブルーノは、


「ゲッツ様! 避けるのである! 風は対象を切り裂く【ヴィント・シュナイデン】」


 ゲッツが化け物の攻撃避けている間に、ブルーノは中級魔法を放つ。


「ギャン!」


 ブルーノの放った風の刃は化け物を斬りつけただけではなく、


「ガァ! グゥ……」


 猫の化け物は石の壁に叩き付けられたのだった。


「す、すごい……」


 ゲッツはこの万能研究者を賞賛した。気になったことにはとことん調べる学舎肌のブルーノであるが、それだけに魔術や魔法に関して造詣が深い。


「グ、グルルル……」


 壁に叩き付けられた化け物は、まだ起き上がってくる。

 パラパラと石の粒子が化け物の毛からこぼれ落ちる。


「まだ、起き上がってくるのであるか」


 ブルーノがそう言って彼の杖を再び化け物に向ける。


「待って。何か様子がおかしい」


「どうかしたのであるか?」


 そもそもこの地下部屋に野性のモンスターがでる事自体がおかしな事なのだ。


 ゲッツは最初、この化け物が何者かの召喚獣の類いだと考えた。

 だが、そうだとするとこの化け物には召喚の魔術の跡が残るはずである。


 しかし、目の前の未だに殺気を向けてくる化け物からは、別の魔術の残滓が感じられたのであった。


(ものは試しだ)


 ゲッツは、すぐに懐に入っていた魔導書を翻訳した紙の裏に魔法式を描く。


「よし、あとは……こうだ! 取り消す【シュトール・ニーレン】」


 ゲッツは、フラフラしながらもフーフーと唸っている化け物の額に張りつけ詠唱する。

 化け物はゲッツに向けて凄まじい殺気を放ちながらも、どこか受け入れるようでもあった。



「なんと……!」


 猫の化け物の額に貼り付けた魔法陣が、発光したかと思うと一気に収束する。


 光が収まるとそこには


「ニャーン!」


「こ、子猫ぉ!?」


 ゲッツの足をすりすりと頬擦りをする、黒色の小さな子猫がいたのであった。





「ゲッツ様、この先に人の気配がするのである」


「うん、ベティーかもしれない。急ごう!」


「ニャオン!」


「ああ、そうだな。クロをあんなにさせた奴も許せんな!」


 ゲッツとブルーノと、そしてゲッツの方にのる子猫もといクロはベティーらしき気配がする方へと急ぐのであった。

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