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第29話 ゴットフリート夏休み旅行Ⅰ

 寄宿舎も夏休み。


 生徒達はそれぞれ帰省したり、寮に残っていたりと様々である。この傾向にも貴族と裕福な国民、普通の庶民に別れているのが特徴である。


 貴族や裕福な家庭の子供は、実家に一回帰る者が多い。これは寄宿舎を単なる義務教育や社交場と考える為である。


 普通の庶民は実家に帰るものは少ない。その間は寄宿舎近くの店で働くか、寄宿舎の研究機関で研究者の助手などをして勉学に励むかするのだ。これは貴族の子供とは違い、彼らは出世をしなくてはならない為である。


 ちなみに貧民層の子供は基本いない。庶民のみ寄宿舎にも入る為に資格が必要であるからだ。貴族は園遊会で事前にチェックされるのに対し、庶民以下は試験でチェックされるのである。



 ゲッツはというと、貴族だというのに寄宿舎にいた。もっというと、学園長室である。


 本棚がたくさんある図書館の様な部屋で、魔法学の先生のヨーゼフと学園長と一緒にいた。


「そうじゃのう。やはり儂が調べた所によると、『導』属性の所有者はまずおらんじゃろう」


 と学園長は自分で淹れたコーヒーをずずずと飲み、コトンと古びた木の机に置いた。


「そうですか……でも、僕の属性がわからないとなると、2年生以降どうすればいいんでしょうか」


「うむ。ゴットフリート君には是非とも魔法学を主要専攻にしてほしいものじゃが」


 とヨーゼフ。


「だがな、ヨーゼフ。彼の属性はいまだ不明じゃぞ? これを解明しないといかん」


「うむ。それなんじゃが、学園長よ。今日はある人物を呼んでおる」


「ほう」


 そう学園長が呟くと、扉をギイと開ける音がする。


 次いでカツカツと靴音がしてゲッツがそちらの方を向くと、1人の若い男性がいた。


 その人物は40歳手前だろうか、程よく皺を刻んでいて、髪は薄い茶色のオールバック。目はたれ目で軽い印象を受ける。


 そして何より印象的なのは長い耳と褐色の肌。


 服装も着崩したちゃらい貴族服と、どこに注目すれば良いのかわからない人物であった。


「アルノー・フォン・ドレッセルここに」


 そういうと、その人物は3人向かって貴族式のお辞儀をする。


(南州貴族か)


 ゲッツはそのお辞儀の作法と彼の発音で、南州貴族出身だと一発で見抜く。長年の貴族生活は伊達ではない。


 お辞儀1つをとっても、訛りでも、この国は各州で若干違うのである。



「アルノー君。君はキセル吹きはそろそろやめなさい。嗅覚の衰えは魔術師や魔法師にとって致命的ぞ」


「ははは。いやはや、さすがヨーゼフ先生。しかしオレの悪癖なんて今はどうでもいいでしょう? そんなことよりこの坊主に、紹介をしなくても?」


 ヨーゼフの注意をさらりとかわし、アルノーはゲッツに目線をあわせる。


「まったく、こやつは。まあいい。ゴットフリート君、目の前の男はアルノー・フォン・ドレッセル。4年生以上の魔法戦闘学と魔法文明学を教えとる」


「よろしくさん」


「よろしくお願いします」

 

 ゲッツとアルノーは互いに握手をかわす。


 握手の反応はイルマとどことなく似ていた。エルフは人が持つ魔素の波形を敏感に察するので、握手をした時に考える様な探る様な顔になるのであった。


「ドレッセル先生ってエルフなんですか?」


「ああっと、気軽にアルノーでいいよ。そうだな、オレは君の予想通りエルフ族に属するな」


 アルノーはそういうと、自分の種族について語る。


 アルノーの種族はエルフ系の一つ、リィン族。一般的にダークエルフと呼ばれる種族である。ダークエルフは別に闇の陣営でもなんでもなく、ただ肌の色でその名前がつけられているようであった


「南部では、人間族以外にオレらのようなダークエルフも多く住むんだ。北州と違って様々な民族や種族が入り交じっている地帯でもあるんだぜ?」


 貧民も多いけどな、とアルノーは付け足す。


実際にダークエルフで犯罪者になる割合は高く、その原因は差別や貧困層でのダークエルフの割合が多いなどであった。



「アルノー、個人的な話はそこまでにしておけ」


 しばらくゲッツとアルノーが話していると、コーヒーを飲み終えた学園長が本題へと戻す。ヨーゼフはゲッツ達が話している間に紅茶を淹れていた。


「今回儂がアルノーを連れて来たのはな、ゴットフリート君。長期休み中にすまんが、君にはこのアルノーと共に西州に行ってほしいのじゃよ」


「え? ぼ、僕がですか?」


 ヨーゼフの突然の南州行きに驚いてゲッツは思わず飲んでいた紅茶でむせる。


「げほげほ!」


「大丈夫か? まあ、西州に寄宿舎生のしかも1年生が行くなんてあんまりないからなぁ」


「あ、ありがとうございます」


 ゲッツは口の周りをアルノーからもらった、ナプキンで拭く。


 一息ついた所で、ヨーゼフはゲッツが西州にいくことになった理由を述べる。


「西州には、儂の友人が住んでおってな。そいつは魔法文明学の第一人者で、もしかしたらゴットフリート君の属性に心当たりがあるやもしれんと言っておってな」


「そこで、一緒に行くのがこのオレってことさ」


「スマンが儂は他にちょっと用事ができてしもうてな。儂の弟子で教師でもある、アルノーに任せたと言う感じじゃ」


「分かりましたけど、僕の【触媒】はどうしましょうか? 言いにくいんですけど、まだ僕は課題の【触媒】を見つけられなくて」


 ゲッツがクリスタに意識を奪われたあの日。アンネリーゼと魔法具店へ向かったのだが、結局アンネリーゼの分しか買えなかった。


 ゲッツに合う【触媒】が魔法具店でも見つけられなかったのである。


「その件も含めて奴に依頼しておるから大丈夫じゃ」


「そうですか」


「うむ。場所は……はて。学園長、どこじゃったかな?」


 ヨーゼフは頭を掻くと、静かに本を読んでいる学園長聞いた。


「彼奴か。確か今は、西州のゴルツ市のグラッベ通り4番地じゃったな」


 学園長は頭をトントンと人差し指で叩く。なかなか住所が安定していない人物に会いに行くようだ。


「またゴルツに住み着いとるんか。全く、研究熱心なのはいいが、学校の教授業の方を軽視しておらんか」


「まあまあ。ヨーゼフ先生」


 アルノーがヨーゼフをなだめる。


(その人に会えば、俺の属性が分かるかもしれないのか。分かれば、俺は全力で強くなれる)

 

 ゲッツはこの状況に取り残されながらも、その人物に合うのが楽しみになってきたのである。



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