第27話 ゴットフリートと長期休暇前の騒動
ゲッツが入学してから、瞬く間に半年が経った。暦の上では6月で、もう間もなく夏期の長期休暇が始まる。ゲッツの周りの生徒達は初めて来る長期休みに興奮気味である。
夏季は6月の中頃から9月までの長期休暇。ちなみに冬季には12月のみの休暇があった。
もちろん、休暇の前には課題や試験があるのを忘れてはならない。試験や課題はゲッツの前世で散々苦しめられてきた強敵だ。
苦しめられて来たと言えば、最近ゲッツは何事もなく過ごせていた。アルベルトの部下で上級生の2人はゲッツを襲った時に魔法を使ったため、停学処分を食らっていたのだ。とは言っても、ゲッツには興味のないことであったが。
「魔法学基礎の授業も折り返し地点じゃな。諸君らもよくぞ頑張った。長い休みじゃ、何をするのも構わん。人に迷惑をかける事以外はな。だが、その前に!」
魔法学のヨーゼフ先生は声を大きく放つとバンッと、ある紙を教壇の上に置いた。
「か、課題…ですか?」
そう誰かが呟くと、ヨーゼフはニヤリとした顔になった。
「そうじゃ。課題を出す。難しいものではないから、安心せい。何かと言うと、諸君らの【触媒】を探してもらうのじゃ。」
「おおっ!」
「やっと僕達も...」
生徒達がそれぞれ騒ぎ出す。生徒達の興奮も無理はない。
魔法学基礎の授業は基本座学である。先生が黒板に書いた事を生徒達がメモをし、質問する。そう言った事が中心なのだ。
それだけに魔法というものは生徒達の想像心をかき立てる。魔法を使って大活躍する
英雄譚はいつの時代になっても人気な者である。
「静まれ、静まれ。興奮するのもわかるが…。やれやれ、諸君らは説明せんでもわかっておるようじゃな」
そう言いながら、ヨーゼフが頭を掻く。彼の学生時代とは大きく変わり、今はもう【触媒】など一般的な代物。生徒達の親世代ですら、魔法具専門店で【触媒】が購入できたのだ。
一方の大昔では【触媒】を探すことがとても難しかったのであった。現在の大手魔法具専門店の「スピッツブルクの専門店」が開業したのが約50年前。そこからである。
ヨーゼフは生徒達の興奮が収まるのを見ると、続けて発言する。
「既に基本的なことは過去の授業で教えたが、もう一度再確認をするぞい。ではアンネリーゼ君。ページ74の5行目から読みなさい」
「はい先生。『魔法学における触媒とは魔法使用者の魔力伝導を早め、且つ個人の体内に持つ魔素を放出させるものである。使用者は魔素を魔法に変え、安定的に放出させることができる。なお、召喚術師などの魔術師においても、同様に触媒が必要』」
「そこまでで良いぞい。要するに、じゃ。【触媒】は諸君らの持っておる魔素を魔法に変えることができるのじゃよ。遠距離から特殊な攻撃ができる魔銃も、この【触媒】の一つじゃぞい」
魔銃とは近年開発された物で、最近では魔銃兵や魔銃師と呼ばれる職業も増え、軍事的にも運用されてきている。魔力量が少なくとも、魔力伝導能力が優れている人にかなり向いていると言える武器である。
「さて。諸君らも、もう一度【触媒】について再確認できたな? では、本題じゃぞい。【触媒】を探すのじゃ。だが一つだけ言っておこう。魔法を実戦レベルで使うことは限られた者だけになる。それだけに、この【触媒】選びは結構重要じゃ」
ヨーゼフの言う通り、実際に魔法を使用できるのは2年生以降であり、大成するものは限られる。アルベルトの手下だった、木属性を操る2年魔法師は才能があった方かもしれないとゲッツは今更ながら彼のことを評価する。
「せ、先生! この課題って、魔力が多い方が有利ではないですか!?」
真面目そうな生徒が悲痛な面立ちで質問するのを聞いて、ゲッツは思考の海から戻った。魔力がなかった生徒だろう。質問した生徒は貴族派の生徒から蔑まれていた。
「安心せい。今は魔法具専門店があるじゃろう。魔力量が少ない者でも、今は店の者が見てくれる。それと、お金がない者は儂が少し探すのを手伝おう」
そのことを聞いて主に庶民派のグループから、安堵の声が上がる。明らかに今回の課題が余裕そうな貴族派の生徒達とは明らかの差ができているのであった。
「ゲッツ様。今週末に魔法具専門店へ行きますでしょ?」
剣術の授業後にゲッツが練習場で残って素振りをしていると、アンネリーゼが声をかけてくる。周りを見ると授業後にまで残って自主練をしている生徒はごくわずかしかいない。
「ああ、そうだね。確か課題は、休み明けまでだったよな。そんなにかかるのか?」
「意外とすぐに見つかるみたいですわよ。お金があれば、ですが」
アンネリーゼがそう言うと、
「クズ貴族や金持ちの連中は、金にものを言わせて、良い【触媒】を優先的に手に入れやがるんだ」
ある少年がゲッツ達の会話に割り込んできた。そっちの方をゲッツが見ると、同じクラスのクロトである。茶髪の短髪につり目の勝ち気そうな少年だ。
クロトは庶民出身だが貴族並みの魔力量があり、頭も良い。だが貴族派を忌み嫌っており、かといって庶民派も蔑む特殊な人物である。
「そう言うクロトは【触媒】見つけたみたいだな」
「くくっ。相変わらず、察しがいいなゴットフリート。俺は魔法をつかえるのはな。命綱だったからだ。お気楽な貴様らとは違って、俺は過酷な環境で生きてきたんだ」
「魔法も既に使えるの?」
とアンネリーゼ。
「ふんっ。魔法なんて苦労せずとも使える。問題はその先だ。俺は【回路】を使用する為にここにいる」
「なんでそこまで」
「生きている次元が違うんだ、お前らとはな。まあ、お前らは他の奴らとは違うようだから、注目しておいてやる」
せいぜい頑張れよ、と言うとクロトは練習場を後にする。ゲッツの隣にいるアンネリーゼはイーッとした顔をしている。
「何よ、あいつ。嫌味だわ」
アンネリーゼはクロトの態度が相当不満だったのだろう。ぷりぷり怒っている。まさにゲッツの対女性スキルがものを言う時である。クリスタと過ごした数年間は無駄ではないはずだ。
「あいつはあいつさ。何か事情があるんだろう。そんな事より、週末一緒に行くか?」
「ーーっ! いきたいです!」
こうしてまた、週末に出かける2人であった。
ーーーー
ゲッツとアンネリーゼが魔法具専門店へ出かけた日の昼頃。
「ふぅ。この校舎も久しぶりね......学園長室も」
学園長室で2人が対面する。
1人は学園長。もう一人は、
「クリスティーナよ。御主の人気は相変わらずじゃのう...」
ゲッツの年上の姪で姉代わりのクリスティーナであった。
クリスティーナは金髪の綺麗な髪を後ろで1つに結んでおり、美少女というより、美女といった出で立ちである。
「私だけじゃないわよ。あの世代はとんでもない奴が何人もいたわ。そんなことより、ゲッツよ。あいつ、何やら女の子と仲良くやっているようね?」
「やれやれ...あの少年の苦労が垣間見えるのう......」
学園長はこれから来る騒動の中心人物になるであろうゴットフリートと呼ばれる黒髪の少年を哀れむのであった。




