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第26話 ゴットフリートと授業とデートと

「さて、みんな揃ったね? 今日も授業を初めて行く…ぞ。今日は実践初めてだから、軽く運動で終わらせようか…ね」


「「「はぁーい」」」


「じゃあ先生は模造剣を配るから、各自今まで教えた通りの準備運動をしておいてくれ」


 そう言うと剣術の先生は手に持った模造剣を生徒に一本ずつ配りはじめた。




 アルベルト達に襲われてから次の日。ゲッツのクラスは剣術の授業で闘技練習場に来ていた。この寄宿舎の敷地は広く、大きな闘技場が1つと3つの練習場が存在する。


(はぁ、これから最低でも1年はあいつらと一緒かよ。面倒臭いなぁ)


「ゲッツ様?」


「あ、いや。何でもないよ」


 昨日取り逃がしたためか、ゲッツはアルベルト達に朝からずっと睨まれたままである。ゲッツが怯えずにいる事が気に食わないのかもしれない。


 アルベルト達は自ら貴族派と名乗り、他のクラスの連中ともつながっている。貴族中心なのに柄の悪い連中が多い。


 ちなみにアルベルト達に限らず、生徒は細かなグループ分けがされて来ていた。これは入学から少し経って周りと打ち解け始めたからだろう。剣術の授業の時も各グループには明確な距離を持って現されている。


 まずは当のアルベルト達、自称貴族派。意外かもしれないが、この派閥は庶民もいる。アルベルトの実家と関係がある家の子息だ。


 次は一番人数が多い庶民派。貴族派に少し遠慮をしてしまっている人達でもある。同じ庶民でも、貴族派所属の庶民より身分が低い生徒が多い。魔力が低く、階級が低い貴族も一応何人かいる。


 最後に独立的なグループ。これは数人しかいない。ゲッツやアンネリーゼ、クロトなど上記の2グループから離れてしまっている生徒である。



 ゲッツにも模造剣が手渡されたので、この3グループから意識を戻した。


 全ての模造剣を配り終えると、剣術の先生は全員の前に立つ。メガネで身体はひょろく、とても剣術が出来るのか不安である。


「剣術は基礎の体力が重要だ…よ。まずは適当に闘技場内を軽く1周しようか。剣は鞘にしまったままで走るんだ。重さは本物と変わらないから重くてしんどいよ」


 それを聞くと、周りの生徒から嫌そうな声があがる。剣が配られたことで、実践が出来ると期待していたからだろう。貴族派の生徒などは明らかに落胆している。庶民派はほっとしているようだが。



 剣術の先生は生徒達を見渡した後、改めて口を開く。


「さあ、諸君。適度に1周してくれ。終わった人からペアを作る…ぞ」





ーーーー


 クラスメイト全員が走り終わると、剣術の先生はペアを読み上げる。どうやら、あらかじめペアを考えていたようだ。


(よりにもよってコイツとかよ…)


 ゲッツも例に漏れず、ペアを作らされていた。それ自体は異論はなかったが、いかんせん相手が悪かった。


「おい平民。良い機会だ。この俺様とこの剣で勝負しろ。勝ったらアンネちゃんは俺様の物だ!」

「なんで勝負になるんだよ。まだ模造剣でペアを組んだだけだろ。それに、昨日負けて帰って行ったじゃないか」


「ふんっ! 昨日は俺様の手下がやられただけだ…。言っておくが俺様は強いからな? 何てったって、あのレンネンカンプ家の一門なんだからな」


(おいおい。かつてのアンネそのものだな、こいつ)


 ゲッツは、『名門』貴族の業の深さの一端を見た気がした。自分が偉くて爵位持ちではないくせに、人に偉そうにする。


 逆にゲッツの生まれた環境は恵まれていたのだ。


 アンネリーゼもまた、家庭環境はそれほど悪くはなかった。


 あの時のアンネリーゼはまだ、父親と祖父が良識のある人物だったから更正できたのだろう。だがゲッツのペアになったアルベルトは、根っからの貴族至上主義者のようだ。


「とにかく、お前が気に入らない!」


 そういうとアルベルトは鞘から模造剣を抜き、剣先をゲッツへと向ける。ゲッツも自分の模造剣の柄に手をかける。


 周りは剣呑な雰囲気の2人に固唾を飲んだ。



「今回ペアになったのは、ですね! まず諸君の素振りをペアの子に見せる為です。決して、剣で戦う為ではありません…よ? なので、アルベルト君。人に向けて振らないように」


 剣術の先生が一旦止めに入る。


「へんっ! 先生だって、所詮は庶民。止めるんなら、お父様に言うぞ? お父様は南州の貴族院議員なんだからな!」

 

「あなたが貴族の息子さんでしょうと、この寄宿舎には関係のないことです。それにここは北州。南州の議員さんがあれこれ言っても無駄なのです」


「くっ!」


 アルベルトは悔しそうに顔を歪めると、剣を鞘に戻す。


 先生は今度はゲッツの方を向いた。


 彼の眼鏡が太陽の光を反射する。


「すまないけれど、ペアは変える事はできないよ。頑張ってくれ」


(まー、しかたないか)


 ゲッツはうなずくと、ようやく剣の柄から手を離す。



 数分後、周りの生徒たちがそれぞれペアを組んで素振りをしだしたので、ゲッツ達もぎこちないながら素振りを始めた。

 ゲッツは当然、幼少期から剣術はたしなんでいるので型は完成している。一方、ペアのアルベルトはその様子を憎々しげに見ていた。


「ちっ! キサマ庶民のくせに素振りは上手いな」


「どうも。アルベルト君は脇をもう少し閉めた方が良いと思うよ」


「なっ! お、俺様に指図するな!」


 アルベルトが顔を真っ赤にさせて怒りだす。


 何かにつけてすぐに怒りだすアルベルトをいなしながらゲッツも素振りを続けていると、校内の鐘が鳴った。


「ハイ、そこまで。何事も基礎から。この事は決して忘れないようにしてください。それでは、よい金曜日を」


 今日の授業が終わった事を先生が告げる。今日は金曜日のために明日から週末である。周りの生徒は一気に模造剣を片付け、週末について話し合っていた。


 中にはあまりのテンションの為か、大声を上げて練習場を出て行った者達もいた。



 既に人数が少なくなった練習場でアンネリーゼが、ゲッツに近寄る。


「ゲッツ様? 勉強会のすっぽかし事なんだけどね…?」


「だから悪かったって、何でもするから」


「本当に何でも良いの?」


「もちろん! 僕に出来る事だけだけど」


 ゲッツがそう言うと、アンネリーゼはぱぁ、と顔を輝かす。


「じゃ、じゃあ! 明日、ちょっと買い物に付き合ってくれる?」


「うん? そんなんでいいんなら。いいよ」

 

「やった! じゃあ、明日ね。絶対来てよね、絶対」


「お、おう」


(買い物って……どこの世界も女子は買い物好きが多いものなのかな?)


 アンネリーゼの、はしゃぎぶりようにゲッツは頭を傾げるのみであった。



 

 

ーーーー


「ふんふふん〜。あ! アレも可愛い! やっぱり村と言ってもさすがは寄宿舎の城下町ね」


 土曜日となった次の日。ゲッツとアンネリーゼは寄宿舎を出て近くにある村、ダッハツィーゲルに来ていた。この村には様々な店や劇場、飲食店が立ち並び、生徒や先生、外部の人達で相変わらず賑わっている。


 そんな大通りを歩く2人は周りの村人からは微笑ましい視線を、生徒からは嫉妬と羨望の眼差しを受けていた。


「あ、あの〜。アンネ? 手をつなぐのは、さすがに恥ずかしいのだけれど」


「ゲッツ様はこういうの、嫌い?」


 アンネリーゼは目を若干潤わせながら上目遣いで聞いてくる。


 そんな彼女にゲッツは……。




「もちろん、いいですとも!」


「ふふっ。よかった!」


 見事陥落していた。


(アンネは最初見た時と変わったなぁ)


 だが強かさだけは、あの汽車での回合の時とあまり変わっていないようにゲッツは感じた。


 汽車といえば、とゲッツはある少女の事を思い出す。


「そういえば、アンネ。君と汽車で初めて合った時に、もう一人、地味目な女の子いたよね」


「うっ……。あ、あの時はごめんなさい」


 そういうと、なぜかゲッツに頭を下げる。


「いやいや。あれからアンネは変わったさ。でも、あの女の子に謝らないとね」


「うん。同じくらいの年齢だったし、多分この学校にいると思うんだけどーー」


 アンネリーゼがそこまで言いかけた所で、ゲッツに小柄な少年が話しかけにくる。


「ゲッツ。君もダッハツィーゲルに来ていたんだね!」


「あ。アレク」


「え? どちら様ですか?」


 アンネリーゼの疑問にアレクサンダーは快く答える。


「君がゲッツのガールフレンドのアンネリーゼだね? 僕はアレクサンダー。アレクサンダー・フォン・ヴァルタースハウゼンだよ」


「え?」


 にこやかに自己紹介するアレクサンダーにアンネリーゼの理解は追いついていなかった。無理もない。


 彼女からすると、実家の本家の総本家の跡取りと偶然出会ったのだから。


「アレクサンダー様ってあの、アレクサンダー様?」


「そのアレクサンダーだよ。それと、アレク。君は多分誤解してる。僕とアンネはまだ友達だよ」


「へぇ。まだ、ね。手をしっかりと繋いでいるのに」


 ゲッツの弁明にアレクサンダーはニヤリとする。


 おとなしいイメージの彼らしからぬ黒い笑みに、ゲッツは腹黒ショタと心の中で名付けるのであった。

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